7-12
エルドール王国 ディークニクト
「北方諸領土連合の名称が変わる?」
俺は、目の前で跪いている男にあまりのことに聞き返していた。
北方諸領土連合といえば、弱小国家が寄り集まって帝国に対抗するために作られた国である。
そして、どこか一つの国の名前では後々面倒があってはならないと、北方諸領土連合という国名にしたと聞いていたのだ。
それなのに今回使者として来た男は、突然名前が変わると言い始めた。
「左様でございます。我が国は今後クルサンドと名を改め、クルクス王が盟主を務められます」
「……それでは、共同代表だったドローレン王とアレクサンド王が納得せんだろう?」
「いいえ、彼らが亡くなったからクルクス王が盟主となられたのです」
「亡くなった?」
おかしな話だ。
確かにアレクサンド王は、高齢だったから分かるが、ドローレン王はまだ20代半ばくらいだったはず。
それが相次いで、二人も亡くなる?
何かきな臭い物が見え隠れしている気がするな。
俺は、そこまで考えると使者に対しては哀悼の意を述べた。
「そうか、アレクサンド王は御高齢と窺っていたが、まさか年若いドローレン王まで亡くなるとはな……。冥福を祈ろう」
「はっ! ありがとうございます。故国に帰り次第、陛下のお言葉お伝えいたします」
「うむ、よろしく頼む。でだ、今日はその挨拶にだけ来たのか?」
俺が、来訪の意図を問いかけると、使者の男は再び頭を下げてきた。
「いえ、本日はご挨拶もありますが、強国エルドールに援軍派遣のお願いをいたしたく。お恥ずかしい話ですが、内乱の収集がつかないのです」
「援軍? 我が国と貴国にはそのような関係は今まで無かったと思うが? それに内乱は我が国が介入すべき問題とは思えんが?」
俺が冷たく言い放つと、使者の男は先ほどよりもより深く頭を下げて土下座の様な姿勢で懇願してきた。
「その点につきましては、誠に申し訳ございません。ただ、我が国も貴国もお互い帝国という国を間に挟んで対面となっておりました。ですので、どうしても使者の行き来がしにくかったという事も斟酌いただければと思っております」
「……ふむ、まぁその点に関しては我が国も同じか。いや失礼した。少し意地悪が過ぎたな、今後は隣同士となる。以後はよしなに頼もう」
「では援軍を!?」
使者は、喜色満面とまではいかないまでもその顔には喜びがありありと見えた。
「ふむ、前向きに検討と言ったところだ。残念ながら軍を動かすとは国家の大事。我が国の財政状況と勘案して検討させてもらおう」
「かしこまりました。良い返事を期待してお待ちいたしております」
使者は、そこまで言うと用件は終了したようで、一礼すると謁見の間を出て行った。
使者が、出て行くのを見届けると俺は臣下たちに問うた。
「さて、皆聞いたであろう。先ほどの使者の件、どうするのが良いと思うか?」
一瞬、全員が黙る。
そして、次の瞬間声を挙げたのは、宰相のクローリーが声を挙げた。
「陛下! 国家の財政を預からせて頂いてる身として進言します! 此度の派遣には、利は無く財を散逸するだけです。どうかご自重くださいますよう!」
「ふむ、確かに助けに行くだけでは利は無いな。他に意見は?」
今度は、アーネットが声を挙げた。
「宰相であるクローリー殿の言う事は、確かにもっともです。ですが、陛下は後日ではありますが、帝国皇帝となられる身。ここで要請を断っては、鼎の軽重も問われかねません」
「鼎の軽重ときたか。確かに帝国皇帝を継ぐにあたっては、他国の要請も受け入れる度量を見せねばならないな」
なるほど、確かにそれは無いこともないが、まさかアーネットから鼎の軽重なんて言葉を聞くとはな。
俺が感心していると、カレドが声を挙げた。
「陛下、ここは宰相殿の意見も将軍の意見も正論かと思いますので、間を取ってみてはいかがでしょうか?」
「カレド、間とはどういった事か?」
「はっ! 私が考えている間とは、軍の派遣に必要な糧秣をクルサンド国に依頼し、それを受領したのちに派遣するという考えです。これならば、将軍の言う鼎の軽重も宰相の言う国家の財政も失わずにすみましょう」
「なるほど、確かに一理ある。だが、相手は混乱中と聞いている。支払いを後にと言われる可能性があるが?」
「そこは、致し方ないと思います。ですが、もし万が一にもその後払いを渋るようなら、攻め滅ぼす口実になるかと」
なるほど、そうなれば、相手は必ず支払わなければならない。
確かに、これが現状一番だろう。
「よろしい、カレドの策を用いてクルサンドとの交渉を進めよ。交渉役は、宰相に一任する。また将軍は、宰相の交渉の結果を待ってから、兵の編成を進めろ」
「「ははっ!」」
その後、クルサンドとの交渉は難なく終わった。
やはり予想通り、物資の支払いを事後にして欲しいと言ってきたが、その点は問題なく交渉も終わり、後は出撃を待つばかりだった。
次回更新予定は4月28日です。
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