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7-10

「余の娘を娶ることだ」


 そう言い切った皇帝に、俺はしばし沈黙と言う名の呆れを見せていた。

 確かに、皇帝の位を譲るのだから条件はあるだろうと思っていたが、まさか結婚とは。


「娘と言われるが、シャイロック殿はそれなりに若く見えるが?」


 俺が、もっともな疑問を口にすると流石に周囲に居た皇帝の臣下たちも無言でうなずいていた。


「ふむ、まぁ確かに余の娘はまだ10代前半だ。だが、遅くは無かろう」

「いや、遅くは確かにないが早すぎるだろう」


 再び俺の反論に、周囲の臣下たちが頷く。

 いくらこの世界と言っても、10代前半で結婚は早すぎる。

 婚約でも、10代半ば以降となっている。


「ふむ、そこは慣例になど従っておれんからな」

「……では、俺では無くて息子でどうだ? ただし、シャイロック殿の娘ではなく、孫で」

「ふむ……」


 息子と孫と言うのも変な話だが、恐らくそれでも年齢的に足りないだろう。

 最悪ひ孫を息子の嫁に当てねばならないが、それくらい種族の寿命に差があるのだ。


「孫で足りるかの? 其方の息子は今何歳になったのだ?」

「うちの息子は、10歳を迎えたところだ」

「成人は何歳となっているのだ?」

「100歳だ」


 俺が言い切ると、皇帝との間に沈黙が生まれた。

 まぁ、孫では足らないという計算に至ったのだろう。


「流石にひ孫では辛いの、何より余が見届けられぬ」

「そこは、まぁ気の毒としか言えないな」


 これで結婚の話が流れてくれればいいのだが……。

 俺がそんな事を考えていると、シャイロックは何かを思いついたような顔をした。

 そして、それと同時に何とか流そうとしていた話がぶり返してしまった。


「やはり、余の娘を其方に娶ってもらおう。ただし、今は婚約と言う形をとって成人してから輿入れとする。これなら問題なかろう?」


 そう、絶対に断れない方法を思いついてしまったのだ。


「……、では結婚までは皇帝位はお預けと?」

「そうなるな。まぁ、今すぐ欲しいなら娘と結婚することになる」


 それだけは、嫌だ。

 ただ、これを飲んでしまうと皇帝の求めに応じて軍を動かさないといけない可能性、が出てくる。

 理由は簡単だ、皇帝位を継ぐのだから皇帝領を守る義務がある。

 と言われてしまえば、こちらに断る手段がなくなるのだ。

 そして、最悪の場合皇帝領の取り返しを我が軍に押し付けてくる可能性がある。


「……致し方ない、婚姻をしよう。ただし、手を出すのは成人してからだ」


 婚姻せざるを得ない、まぁ最悪は回避できただろう。


「ふむ……、致し方あるまい。では、これより婚姻の儀を執り行う! 1週間以内に準備せよ!」

「な……っ!?」


 一瞬、安堵しかけた頭を再び俺は、ハンマーで殴られた気分になるのだった。





王都 シャロミー


「ケイン、ケイン! どこに行ったの!?」


 王都で留守を任された私とセレスは、ケインに授業を行っていた。

 朝から昼は、セレスの帝王学。

 昼食を挟んで夕方までは、私の武術、戦術の授業だ。

 最初の頃は、どちらもそれなりに頑張っていたのだが、最近ケインが事あるごとに脱走を始めたのだ。


「なんだ、シャロ。お主逃げられたのか?」


 私が、ケインを探しまわっていると後ろから不意に声をかけられた。


「あ、セレス。そうなのよお昼を食べた後に、トイレへ行くと言って行方不明になったのよ」

「あぁ、それは妾もやられた手じゃの。まぁ恐らくだがあの塔の中だと思うぞ」


 そう言ってセレスが指さしたのは、見張り台になっている塔だ。

 ただ、かなり古い物で手入れこそしているが近年は全く使われていない。


「なるほど、確かに兵士が居ないから隠れ易いわね」

「じゃろ? まぁ、たまには休みと思ってやらねばならんがの」


 セレスはそう言うと、政務があるのか王宮へ向かって行った。

 私は、彼女に言われたように塔へと行くと、そこに居たのはケインだけでは無かった。


「ケイ……ん? あれはアーネットの所の」


 ケインの隣には、アーネットの息子――私にとっての甥――である、アレフが居た。

 遠目からなので、二人が何を話しているかまでは分からないが、何とも楽しそうな表情ではあった。


「……確かにそうね。同じくらいの年齢の子と遊ぶのも勉強か」


 セレスの言葉を思い出しながら、私はその場からきびすを返して自室に戻るのだった。


「ただ、あれよね。あの子の家って研究所のはずだから、相当遠いはずよね……」


 蛙の子は蛙、とよく言うが流石はアーネットの息子と思うのだった。


次回更新予定は4月24日です。

今後もご後援よろしくお願いいたします。

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