7-3
エルドール王国 アーネット
「アーネット、お前そろそろ結婚を考えろ」
突然、ディーからそう言われた俺は、一瞬何を言われているのかが分からなかった。
俺が結婚? 誰と?
俺が困惑していると、ディーは構わず話を続けてきた。
「つい最近だが、カレドとトリスタンもそれぞれ相手を見つけてきた。他のエルフの独り身だった者たちも人族や獣人族、同族のエルフと結婚をしている。そんな中、お前だけがまだ結婚していない」
「いや、それは、確かにそうだが……、俺の都合というものは」
「お前の都合を考えてたら、一生結婚しないだろう?」
ディーがそう言い切ると、シャロが頷いてきた。
なんだこのひどい状況は。
「いや、俺だって結婚したい人の一人や二人……」
「ほぅ、誰だ?」
「……」
「居ないんだろ?」
「…………」
「全く、人族でも良ければ大量に見合いの話は来ているぞ」
「分かったよ、選ぶよ……」
俺がそう言うと、ディーは部屋の奥から俺の身体くらいの大きさの袋を持ってきた。
「ま、まさか……」
「そのまさかだ。王国の独り身の貴族女性全員、と言っても過言じゃないくらいの数だ」
まさかの大量の縁談の話に、俺は驚くのだった。
ドロシー研究所 ドロシー
体調も回復して、やっと研究に打ち込み始めたある日。
筋肉だるまが、超巨大な荷物を持って研究所にやってきた。
「すまない、広い場所を貸しては貰えないか?」
「……は?」
一瞬、何を言っているんだと思った。
まさか、ここに住むつもりかと思った。
だが、次の瞬間その考えは妄想だったことが分かる。
「実は、ディーから縁談の話を貰ってな。広げようにもうちでは狭くて……」
「それで、うちのドックを使いたいと? 一応ここは、作業場なんだが?」
「ここ以外に広い場所を知らなくてな……」
いつもより歯切れの悪い物言いに、私は若干のいら立ちを覚えた。
しかし、ここで追い払うほど鬼にもなれず致し方なくドックに入れるのだった。
「構わないけど、端っこの方にしておいてくれ。副所長! 副所長は居るか!」
ドロシーが声を挙げると、小太りの男が走ってきた。
「ドロシー様、如何されましたか?」
「そこの筋肉だるまに、ドックの安全な場所を提供してやれ。なんでも縁談の写し絵を見たいそうだ」
「……え? ドロシー様が、場所を提供されると!? ほんの少しでも自分の場所を奪われるのを嫌うドロシー様が!? ……はっ!? まさか……」
副所長が、何か良からぬ所まで邪推しそうだったので、私は彼の頭に拳骨を入れて黙らせた。
「い、痛い! ひどいですよドロシー様!」
「それ以上要らないことを言おうとしたら、あんたの余分な肉を麻酔無しで削ぐわよ?」
「ひぃっ! ささ! 将軍、こちらです。ご案内しましょう!」
私の脅しに心底怯えた副所長は、筋肉だるまを連れてドックの奥へと移動していった。
まったく、珍しく手を出してしまった。
それに、確かに副所長の言う通りで、私が場所を貸すなんてな。
「ドロシー様、将軍の案内が終わりました」
私が、少し考えているとさっさと終わらせてきたのか、副所長が報告に戻ってきた。
「あぁ、ご苦労さま。それじゃ研究に戻ってちょうだい」
「はい! では失礼します!」
副所長はそう言うと、自分のお腹を抱えながら必死に走って行った。
まったく、ちょっと脅すとあぁやって大げさにして。
「……結婚か」
副所長の後姿を見送った私は、つい口をついて出た言葉に驚いた。
確かに、ここに来てから暫く研究を続けているが、ディーからたまに見合いの話が来たと聞いてはいた。
ただ、私にはそんなつもりなんて毛頭なかったので一蹴していたが。
「……さ、研究、研究!」
私は、そんな過去の記憶を追い払う様に手を振って研究所に戻るのだった。
ドロシー研究所 アーネット
場所を貸してもらったのは良いのだが、何とも乗り気になれない。
というのも、結婚自体を考えたことが無いのだ。
両親はずっと前に亡くなり、シャロと二人で暮らしていた。
俺の目標はと言うと、シャロが立派に育って結婚をさせられれば良いと思っていた。
だが、実際にそうなってみると俺のやることが無くなってしまったのだ。
今でこそ将軍と呼ばれて、諸将を束ねているが、それもシャロの安全の為にやっていることだし。
妹以外の家族を持つ、という事に実感がわかないのだ。
「……アーネットは、『居て当たり前と思えるくらい』と言っていたな」
俺にとっての居て当たり前の人……。
ここ最近、シャロ以外でそんな人がいない。
あぁ、でもここに来たのは、ドロシーにそう言う感情があるのだろうか?
俺は、そんな益体も無いことを考えながら、写し絵越しに微笑む女たちの絵を見ていた。
ただ、やはりどれもしっくりこないし、実感がわかなかった。
先日は、完全に更新日を忘れていました(;´・ω・)←奇数日だと思ってた。
次回更新予定は3月6日予定です。
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余談:ネット小説賞の1次審査を通りました。これも応援頂いた皆様のおかげです。今後もご後援よろしくお願いいたします。╭( ・ㅂ・)و̑ グッ




