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エルドール王国 ディークニクト
帝国との戦争から1年後、生まれた子ども達も健やかな成長を見せており、何とも平和な時間が過ぎていた。
帝国は、相変わらず獣王国との散発的な戦いを強いられており、とても国を建て直す状況にはない。
もっとも、獣王国以外の国とは領土割譲などで話をつけているので、その点は侮りがたいが。
そして、俺はと言うと。
トーマン宰相の肝いりである、内需拡大政策がどんどん推し進められていた。
特に、産めよ増やせよと保育、教育の拡充の為に新たに幼児から受け入れる幼年学校の設立を進めていた。
ただ、これには効果が出るまで時間がかかるので、トーマン曰。
「私が、生きている間にこの政策の効果は見られないだろう」
とのことだった。
まぁ、政治家たるものとして彼自身は、自分の信念に従い施策を行ったのだ。
長命な俺が、その施策の行く末を見てやるのが筋というものだろう。
そんな日常の中、セレスとシャロの二人と俺は密談していた。
議題はそう、世継ぎの事である。
ちなみにセレスにも他言無用という事で、自称神との約束を話している。
「でだ、後継者についてだが。今のところは、セレスとの間の子となっているんだがその前にワンクッション置きたいと思っている」
「……ワンクッション?」
「あぁ、俺の次に別の奴を指名して、その次に子のケインという形にしようと思う」
「けど、それって問題があるんじゃない? 国王になるって事は、この国の実質トップということよ。そいつの野心に火をつけるなんて事になったら……」
セレスが、俺の言葉にごく当たり前の疑問を投げてきたので、俺もそこは首肯しつつも話を続けた。
「確かに、その懸念はもっともだよ。だけど、幸いなことに一人そうじゃない奴が居る」
「そうじゃない奴? ……まさか」
「そう、シャロの考えているまさかだよ」
俺がそう言って、笑顔になるとセレスが俺の頭を掴んできた。
「正気か!? そんな事をしたら国が崩壊するぞ!? ディーとの結婚ですら結構な綱渡りだったのに、それすらしてない奴なんて!」
「だからこそなんだよ。俺たちの支配は、あくまでセレスの王配だからという形で考えられている。けど、それでは次代、次々代と続いた時にずっとセレスのエルドール王家の血に縛られてしまう」
「いや、しかしだ。いくらシャロの兄だと言っても、王には……」
「椅子に座るだけなら、誰にでもできるよ。それを俺は彼にして欲しいんだよ」
「確かに、第一代国王であるディーからアーネットをかませれば、ケインが実質第三代国王になるが……」
俺が考えたのは、約束の裏を突くことだった。
エルフは長命で、3代目になると軽く千五百年は経ってしまう。
流石に俺でも、千五百年もあとの時代なんて想定できないし、したくもない。
そして、三代続かなければエルフが滅ぼされてしまうのだ。
そうなるくらいなら、と俺が考えたのが3代続いたという名目を残すことだった。
もちろん、それでは欺瞞にしかならないだろう。
だけど、ここでは前例を作ることが大事なのだ。
「実質第三代にはなる。だけど、恐らくだがこれは神が認めない。神が認めるのは、俺が死んでからだろう」
「確かに、約束では『自分が死んでから三代はもたせる』だったから、ディーが死んでからでないと意味がない」
「だからこそ、ケインに禅譲する前にアーネットをかませたいんだ」
俺がそこまで言うと、流石に二人も意図に気づいたようで、ハッとした表情になった。
「なるほど、新しく即位する際に信頼できるものを先に即位させて、1度の即位で2代分名前を消費させるのか」
「確かにそれなら、ディーが死んでから次代の王になった者が三代目になるわね」
「二人とも半分正解」
「「半分!?」」
「うん、半分だな。俺が意図したのは、もう一つある。それは即位の年齢だ」
「即位の年齢って確かケインが100歳になった時……」
「うむ、私は人族だから即位式が見れない。と嘆いた件だな」
「人族にとって100歳って長いでしょ? けど、エルフだと」
「あ、確かに若いわ。成人したてくらいの感覚だもんね。ということは、それからすぐに子をなして、子が100歳になったら渡していくってこと!?」
シャロがそこまで言うと、俺はニッコリと笑って指差した。
「シャロ正解! こうするこで、エルフの王朝としては異例の速度で代替わりをさせることができるんだよ」
俺がそこまで言うと、二人は顔を見合わせてため息を吐いてきた。
「確かにそのサイクルが確立できたら良いけど、もし百歳になる子供に先天的な欠陥とか、人格的に不適合だったらどうするの?」
「そこは……、もう諦めるしかないんじゃない?」
俺があっけらかんとして言うと、二人は再び頭を抱えるのだった。
次回更新予定は3月31日です。
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