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6-34

エルドール王国 ディークニクト


 帝国との間に条約を結んで帰ってきた俺は、トーマン宰相に詰め寄られていた。


「陛下! あの条文はなんですか!? あんな飛び地を貰っても、どうしようにも無いではないですか! あれでは、維持管理の為に出兵させて費用がかさむだけではないですか!」

「まぁまぁ、落ち着けトーマン。確かにあそこは飛び地だが、今後必要になる土地でもあるんだ」

「ええ、ええ確かに攻めるには必要でしょう! 橋頭保となるでしょう! ですが、その為に内政を疎かにしては意味がございますまい!」


 相当、条文の件で頭に来ているのだろう。

 いや、恐らくは条文だけではないだろう。

 駐留する軍に出した命令と、覚書も彼の手にあるのが見えた。


「特にこの覚書はなんですか!? 飛び地に居るだけでも面倒な兵たちに、更に手当を増額する!? 我が国の国庫は、黄金の湧き出る魔法でも使っているのですかな!?」


 そう、駐留する軍に俺は手当の増額を約束した。

 ただし、タダで増額するわけではない。

 駐留する彼らには、一切の暴行、略奪、強姦、殺人を禁じている。

 要するに、彼らは治安を守るためだけに居るのだ。

 しかも、それらを破れば問答無用で打ち首と厳命している。

 そう言った事情があって、俺は手当の増額という手段に出たのだ。


「トーマン、理解してくれ。この作戦には駐留する兵たちに我慢が必要なんだ。それができないと、次の段階に進めない」

「次の段階ですと? 現状、講和で無期限の不可侵条約を結んでいるのですぞ。その状態で打ってもどうしようにもなりますまい」


 そこまでハッキリと言わなくても、と思いながらもこの初老の宰相の小言に苦笑してしまう。

 ただ、やり手の宰相でもあるトーマンをして俺の真意をまだ見れていないのだ。

 恐らく帝国でも、俺の思惑に気づいた者は少ないだろう。


「……とりあえず、目下の問題は国庫を潤す事ですな。全く、人の苦労も知らずに……」


 トーマンは、そうぶつくさ言いながらもなんとか資金を用意してくれた。

 もっとも、俺の所に入ってくる金が無くなってはいたが。


 そんなこんなもありながら、なんとか資金の目処もついて交易都市を統治していた。

 約一か月というつかの間の平和を享受している間に、帝国は獣王国との戦争を継続していた。

 当初、この戦争は帝国側としては1~2週間で決着をつけるつもりであった。

 だが、本営を雷龍に襲われたことで少なくない損害と損失を出していたこともあり、獣王国軍への決定打を出せないで居たのだ。

 そして、そんな帝国の状況を他の国が指を咥えて見ているなんてことはなく。

 極東で国境を接するジーパン、北に国境を接するオリエント連合国も侵攻を開始し、帝国は、泥沼の4つ巴にへと至ったのだ。

 こうなってくると、交易都市の周辺は一気にざわついてくる。

 商人たちが、やれ帝国と一緒に沈むか王国に守ってもらうかと声高に相談を始めたのだった。


「……陛下は、こうなると分かっておいでだったと?」


 今日も何通目か分からない降伏の書状を執務室に届けながら、トーマンが少し不満そうにしている。

 初老の男にそんな表情をされても嬉しくはないが、まぁあれだけ言ってしまっては素直に褒められないのも分かる。


「なに、流石にここまで上手くいくなんて思っても見て無い。だた、帝国が後手に回っり続けてくれたからというところだろう」


 俺がそう言うと、トーマンはふぅっと息を吐くと背筋を伸ばして策を進言してきた。


「陛下に奏上致します。この降伏の手紙、本日までは無条件で受け入れるのがよろしいかと思われます。ただ、今後送られてくる手紙に関しては、こちらから上納金を要求し、差を作ってやるのが良いかと思われます」

「そうだな、その辺りはトーマン宰相。お前に任せる。ただし、街や村の様子を見て金額は変えるようにしろ。そうでないと、今度は降伏を躊躇われてしまう」

「かしこまりました。大規模な街でしたら2割を小さな村でしたら5分から1割を徴収する様に致します」


 トーマンの意見に俺が頷くと、彼は書類の作成に取り掛かるのだった。




エルドール王国ドロシー魔道具研究所 ドロシー


 雷龍との戦いで、どうやら私は雷龍に助けられたようだ。

 戦いの中、最後の一撃で魔力を使い果たし落ちていったのに生きているのが、その証拠だ。

 そして、今。

 なぜか私のベッドの横に、筋肉だるまが座り込んで世話をしてくる。


「……なんで、あんたが私の世話を?」

「陛下の、ディーの命令だ」

「「…………」」


 穏やかな日差しに、そよぐ風。

 この心地いい昼下がりに、となりが筋肉だるまでなければどれほど良かったか。


「とりあえず、暑苦しいから一人にしてくれる?」

「そうはいかん。目を離せば休まなくなる。とディーからの命令だ」


 命令、命令、命令。

 口を開けば命令ばかりで、こちらの気分が沈んでしまいかねない。

 まったく、シマ……ディーはどういう意図でこの筋肉だるまを送ったのやら。

 私は、そんな事を考えながらも何となく休めている事に何とも言えない気分になるのだった。


次回更新予定は3月29日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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