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1-15

カレドとトリスタン回です。

子爵軍 カレド


「さて、ディーに一軍を任されましたけどどうしましょうか」


 私は隣に居るトリスタンにそう囁きかけると、彼はにべもない返事をしてきた。


「突き進む」

「いや、確かに突き進みますが、状況を見てください。というか、敵の哨戒網がかなりの範囲に居るんですからそれは無理でしょう」


 そう、今私たちは森で身を潜め、敵の哨戒をやり過ごそうかどうかで話し合いをしていたのだ。

 と言っても、トリスタンが相手では強硬論しか出ないので、私が結論を出さねばなりません。


「一応ディーからはある程度見つかっても構わない。とは言われてますが、あまり派手に見つかっても仕方ないですからね」

「むむ……。じゃあ、どうするんだ?」

 

 本当にこの子は自分の頭を戦う事にしか……。

 私が呆れながらそんな事を思っていると、敵の哨戒が徐々に一か所に――我々の近く――に集まってきた。


「カレド、見つかったんじゃないか?」

「……えぇ、奇遇ですね。私も今同じことを考えていました」


 ただ、これは行幸。

 恐らく敵はこちらの規模について計りかねているのでしょう。

 だからこそ、戦力を一時集結させた。

 数は、およそ10~20の間の騎馬兵のみの構成だ。

 鎧は皮製の所謂軽騎兵という兵種だろう。

 

「敵の足は速いと言われている軽騎兵です。じっくり待ってこちらに来るようなら襲い、来ないならやり過ごしましょう。敵にとって夜襲こそが最も警戒している事ですからね」

「なるほど、確かにそうだな。伝令、合図あるまで待機。合図が出たら一斉射をかける」


 この辺りの命令までの判断の速さは、トリスタンの美点と言える。

 普通の奴なら、本当にそうか? 何か裏がないか? と考え過ぎて、判断が遅れるからだ。

 それからしばらく、私達はジッと身を潜めて敵を待っていた。

 時間がどれくらい過ぎただろう?

 一分? 一時間? いや数時間くらい過ぎた気さえした。

 それくらい緊張していたのだ。


「兵を率いるって怖いのですね」


 私がそうぼそりと呟くと、トリスタンがからかってきた。


「なんだ、カレドは怖気づいたのか?」

「貴方は本当に能天気で良いですね。私の命よりも他の皆の命を預かっているというのがそう感じるんですよ」


 そう、そしてそんな感情すら見せずに、私たちの大将であるディーは指揮した。

 並大抵の胆力ではあれほど堂々と指揮できない。


「やはり、ディーは特別なのですね」


 そう呟く私を、トリスタンは何を今更といった顔で見てきた。

 ここで何も言わないのは、彼の理性なのだろう。

 そんな事を考えていると、敵に動きが出た。

 2騎の騎馬が本隊への帰路を取り、残った兵がこちらに向かってやってきたのだ。


「カレド、来るぞ」

「えぇ、分かってますよ。トリスタン」


 無駄なおしゃべりはここまでと、静かにジッと待つ。

 3……2……1……、ここだ!


「全軍射撃姿勢のまま敵騎兵にありたっけの矢をくれてやれ! 掃射!」


 号令一下。

 敵騎兵に対して、一斉に放った矢は過たずその場に居た騎兵全てをなぎ倒した。

 だが、まだ息のある奴も居る。

 馬こそ全て倒れているが、兵が何人か逃げようとしているのだ。


「逃げる兵に精密射撃! 放て!」


 矢の風切る音が一斉にしたかと思うと、逃げ出そうと居ていた敵兵数名が、ハリネズミとなって倒れる。

 そして、それを見ていた動けない敵兵たちは、わなわなと震えながら私達を見ていた。


「抗戦の意思はあるか? 無いなら貴様らを捕虜とする。武器をこちらに向かって投げよ」


 トリスタンのその宣言で、敵哨戒兵は武器を捨てた。

 ほんの一瞬だったが、何とか終わったのだ。

 これをあと何回も繰り返さないといけない。


「とりあえず、数名の兵にうちの領地まで護送させるぞ」

「そうですね。その手配をしておきましょう。貴方は周囲の後かたずけを。森の少し入った所に置いておけば簡単には見つからないでしょう」


 それぞれがテキパキと戦の痕跡を消す作業をした。

 兵たちには、口に詰め物をして簡易の猿ぐつわそしてから護送という事になった。

 意外と哨戒網が広いので、いつこちらが死の憂き目にあうか分からないのだ。


「こっちは完了。そっちはどうだ?」

「数名の兵に護送させました。まぁ縄でくくっているから、簡単には逃げられないでしょう」


 ここで一息つきたいところだが、思った以上に時間をロスしているので、すぐさま動き出すことになった。

 少しでも早く敵輸送兵への襲撃をしないと。




第二王子軍 オルビス


 ゆるゆると進軍する中、ネクロスの進言によって哨戒網を充実させることにした。

 敵がこれほど我らに妨害行為を行ってこないのは、恐らく伏兵を後ろに配置しようとしている可能性があるから、だそうだ。

 そして、軍の歩みは哨戒網を広げれば広げるほど遅くなった。

 当初の予定では既に開戦しているはずなのだが、行程はやっと半分を消化したところである。

 しかも子爵軍が食糧になりそうな物をほぼ全て持ち去ってしまったので、こちらの糧食は日ごとに減り始めた。


「ネクロス。もう少し速く動かないと我らが飢えるぞ」

「ですが、これ以上速く動くと哨戒が間に合いません」


 確かに哨戒網は必要だが、敵がそう簡単に裏を取りに来るだろうか?

 そんな事を考えていると、本営に近づく2騎の騎馬兵が見えた。

 彼らがこちらに近づくと、近衛兵長が何事か確認し報告にきた。


「殿下、至急の報告があるとあちらの2名が言っておりますが、如何いたしましょう?」

「よい、報告をさせよ」

「はっ! お前らこっちにこい!」


 近衛兵長の言葉に恐る恐る近づいてきた二人は、俺の前に膝まづくと報告を始めた。


「ご報告申し上げます。我が哨戒3班、4班が敵兵らしき者を発見しました。現在他の班員が確認作業を行っております」

「敵規模は?」

「恐らくですが、数百単位かと。敵が森に入っておりましたので、正確な数字は不明であります」


 正確な数字が不明。

 だが、可能性として数百は居るか……。


「ネクロス、どう考える?」

「恐らく敵の奇襲部隊でしょう。場所は……、ここから南に約30分の場所ですな」

「なるほど、よく分かった。お前たちは、小休止の後に原隊に復帰し任務を全うしてこい」

「ははっ!」


 俺の言葉に安堵したのか、兵たちはホッとした表情で離れて行った。

 さて、どうするか。

 恐らく森を移動していたのだとしたら、騎兵よりもエルフの弓兵の可能性が高いが。


「恐れながら殿下。敵の部隊ですが、弓兵か騎兵かで変わってまいります。特にフルフォード子爵は金回りの良い領地ですので、軍馬の類はかなりかき集めていたようです」

「確かに、一軍の編成としては騎馬がかなり多かったのを俺も覚えている」


 フルフォード子爵なら騎兵であってもおかしくないのだ。


「とにかく後方に警戒を集中させ、何かあれば即対処できるようにしておけ」

「はっ! かしこまりました」


 これで、子爵領までまた時間がかかりそうだ。


次回更新予定は6月5日予定です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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