6-32
エルディナ平原 ディークニクト
アーネットから、敵将のアイゼナッハと出くわし戦わずに終わったと報告が入った。
オルゲの方も、あれからしばらく追撃を重ねて被害を出させていた。
そちらも、敵を深追いしすぎることなくつい先ほど帰還して、俺の前に跪いていた。
「オルゲ、ただいま帰還致しました。退却命令を破ったこと大変申し訳なく……」
「功績は挙げたのであろう?」
オルゲが何か言いたそうにしていたが、俺が被せて言うと少し意外そうな顔でこちらを見てきた。
「はっ! 敵兵約数千を殺し、負傷者も増やしてまいりました。対してこちらは、10人も居ない程度の被害でございます」
「では、今回の命令無視は、功績と相殺とする。上回った功績は、戦後必ず酬いよう」
「寛大なご処置、ありがとうございます」
オルゲはそう言うと、俺の前から横の臣下の列に戻って行った。
そして、彼と入れ違う様にアーネットも帰ってきた。
アーネットは、俺の前に跪くと普段と違い、丁寧な言葉で報告を始めた。
「陛下に報告します。敵左翼を追いましたが、これからというところで、敵中央軍に阻まれ戦果を思う様に上げられませんでした」
「それは良い。中央軍をそちらに動くように仕向けたのは、俺だ。その中央軍を被害なしで追い払ったのだ。功は十分にある。今はゆっくり休め」
俺がそう言うと、アーネットはその場で頭を下げて臣下の列に入った。
俺は、それを見届けると次の作戦について話し合いを始めた。
「さて今日の一戦で、我らは倍する敵を退け、しかも空ではドロシーが雷龍を追い返したという。現在ドロシーについては、捜査中だが恐らく無事だと俺は信じている」
俺がそこまで言うと、臣下の中から「おぉぉ」という歓声が少し挙がる。
「ただ、今日倍する敵を退けたといえど、相手は明日には全戦力を全てこの砦にぶつけてくるだろう。また、今度は力攻めだけでなく、攻囲してくることも考えられる。そうなれば、今日よりも厳しい戦いになることは間違いない」
俺がそこまで話すと、報せの兵が息を切らせて入ってきた。
「急報! ……獣王国が帝国の国境を超えました!」
その報告が入ると同時に、臣下たちからは先ほどの比ではないくらいの大きさの歓声が上がったのだった。
エルディナ平原 アイゼナッハ
「なんだと!?」
軍議机を破壊する一撃と共に、私は大声を上げていた。
それもそのはずだ。
獣王国が国境を越え、付近の街を襲ったのだ。
そして、残していたはずの国境軍も散々に打ち負かされて逃げたという。
「何故こちらなのだ? エルドールの方が、遺恨も大きいだろうに!?」
「アイゼナッハ卿、落ち着いてください」
熱くなっている私を、周囲に居た将たちがなだめる。
だが、ことは急を要する。
「獣王国の総数は?」
「それが……、万を超える大軍とだけ……」
「万を超えるだと!?」
確か、エルドールへと侵攻した時が、5万程度と伝え聞いている。
そして、その大半があの飛行物体に潰され、ほぼ壊滅したとも言われていた。
なのに、その後万を超す大軍を率いるとは……。
舐めていた訳ではない。
油断もしていなかった。
なにせ、国境には他の国境に比べて多くの兵を残していたのだ。
それも1万5千。
普通であれば、十分すぎる兵力だ。
それに、将には帝国の国防将軍の一人が配置されていた。
なのに、負けたのだ。
「とにかく、敵に捕捉される前に動く。こちらはから10万を率いて……、ウルリッヒ将軍。頼めるか?」
「10万も引いては、こちらが手薄になり過ぎます。6万でどうにか……」
「いや、10万持って行ってくれ。エルドールはまだ話の分かる文明人だ。こちらの非を認めて謝罪と賠償をすればどうにかなる。だが、エルババは違う。あれは蛮族だ。奴らに話し合いは、ほぼ通じない」
私がそう言うと、ウルリッヒは少しの間瞑目してから頷いた。
「致し方ありません。至急獣王国軍を撃退して戻れるように致します」
「あぁ、あとあの魔獣使いも連れて……」
「急報! 本陣壊滅!」
私が、言いかけるととんでもない報せが入ってきた。
「どういうことか!? 詳しく話せ!」
「はっ! 本日夕刻、雷龍が来襲! 飛龍、魔獣使い殿を諸共、本陣に雷撃を落としていきました!」
「雷龍が!? 奴は確か、魔獣使いの催眠だか暗示だかで、指揮下に入っていただろ!?」
「アイゼナッハ殿。もしや、その暗示が解けたのでは?」
「…………」
予想しうる最悪を想定すると、雷龍が帝都に仕返しを……。
だが、今そんな最悪を考えても仕方ない。
「本陣の備蓄、その他はどうだ?」
「その、食料がほぼ全焼し矢に関しても半数が焼失しました……」
私は、その報告を聞いた瞬間天を仰いだ。
食料がほぼ全焼したという事は、手持ちの食料2~3日分のみになる。
一応本国からの補給計画は作られているが、次が来るのは2週間後……。
「皇帝陛下に申し訳ないが、こちらの戦線は講和を始める。その旨を、お前は馬を取り換えて帝都に走ってくれ。『食料焼失し、雷龍と敵対。これ以上の抗戦は不可能』と」
「かしこまりました」
私がそう伝えると、兵はすぐさま私の書状を持って出て行った。
「アイゼナッハ殿……、私は、とりあえず1万を率いて行ってまいります」
「あぁ、頼んだ。獣王国は野放しにできないからな……」
若干呆けそうになりながらも、ウルリッヒの提案に許可を与えて送り出す。
これで、今後の帝国は苦難の道を行くことが確定してしまったのだ。
次回更新予定は3月21日です。
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