表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/213

6-30

エルディナ平原 ディークニクト


「敵中央軍が戻ってきました!」


 悲鳴にも似たその報告は、こちらの士気を削ぐのに十分だった。


「こ、こんな状況で中央も相手するのか!?」

「やっぱり倍以上の敵なんて無理だったんだ!」


 兵たちの恐怖が、一斉に伝染していく。

 このままでは、軍の崩壊に……。

 俺がそう思っていると、一人気勢を吐く者がいた。


「いいか! こっちには砦がある! ここを死守すれば、ディーが、陛下がなんとかしてくれるぞ!」


 アーネットのその一言で、先ほどまで恐怖で歪んでいた兵たちの顔がマシになる。

 まったく……、持つべきものは、頼りになる幼馴染だな!


「アーネット将軍の言う通りだ! まずは砦の死守! 後はこちらでどうにかする!」


 俺も、アーネットに同調する様に兵たちを鼓舞した。

 ただ、それでもかなり綱渡りをしているような状態だ。

 どこか一か所でも崩壊すれば、その時点で終わりになる。

 相手もそれを分かっているのだろう。

 そろそろ攻勢限界点を迎えるだろうにも関わらず、一向に手を緩める気配がない。

 いや、むしろ苛烈にすらなってきている。


「いいか! 破られそうな箇所はすぐさま交代の兵を入れて戦え! 決して破られてはならないぞ!」


 予備の騎馬兵を随時投入し、敵の攻勢を極力砦の堀へと抑え込み、必死の抗戦をして数時間。

 ついに、敵の攻勢が緩み始めたのだ。


「予備兵力は!?」


 敵の攻勢が緩んだことを確認した俺は、一気に畳みかけるべく予備を確認した。

 騎兵1万は、既に半数が死傷。

 守備の交代枠としていた兵たちも、既に前線投入済み。

 手持ちは、ほぼない状態だった。

 ただ、ここで手をこまねいては明日からがきつい。


「アーネット! 右翼の一部隊を率いて、敵左翼の側面を攻撃しろ!」

「おう!」


 俺が指示を出すのと同時に、アーネットは手近に居た元気のある兵たちをまとめ上げて敵の左翼へと突き進んだ。

 対して、右翼側はアーネットが推したオルゲだ。


「オルゲ! お前も左翼の一部隊を率いて、すぐさま敵の右翼を攻撃しろ! ただし深追いはするな!」

「かしこまりました!」


 あとは、敵の雷龍が戻ってこないことを祈るばかりだ。




エルディナ平原外れ ドロシー


 私が、エルディナ平原の端に位置する山で手に入れた結晶。

 それは、岩塩だ。

 雷龍は、その名の通り雷を操り空に君臨する真龍種。

 雷は、塩水に入れば通す。

 それは、奴の意志に関係なく通してしまうのだ。

 ただし、普通の水ではこれは起きない。


「散々私で遊んでくれたお礼をしなきゃいけないわね」


 私は、そう呟くと手に持っていた結晶を粉々に砕き、粉末状にしていく。

 そして、それを大量に作るのと同時に水魔法を展開して混ぜ合わせる。


「超高濃度の塩水。これなら流石に面食らうわよね?」


 私は、自分の右側にある巨大な水球を見ながら呟く。

 大きさは、既に直径で4mにはなるだろう。

 奴の頭くらいならすっぽり入る大きさだ。

 これまでの奴のパターンなら、また頭から突っ込んでくるから、そこを狙えばいい。


「さぁ! 真龍種! これでお終いにするわよ!」


 準備が整った私は、雷龍の前に姿を見せた。

 流石に雷龍も、私が右手に浮かべている物を見て様子を窺っている。

 ……いや、気のせいだった。

 こちらを見た雷龍は、ほんの少し様子を見ただけでまた頭から突っ込んできたのだ。

 まったく、どれだけ脳筋なのか。


「GAAAAAAA!!!」


 一際大きい咆哮と同時に、私に向かって口を大きく開けて突っ込んできた。

 この水が、面倒な物と判断して一気に飲み込もうとしたのだろう。

 だが、そんな簡単に飲ませる訳がない。

 私は、右手に掲げていた塩水の形状を球体から、グラスの様に真ん中に穴がある形に変える。

 そして、突っ込んでくる雷龍の頭を包むように水を固定するのだった。


「GYAAAAAAAA!!!」


 塩水に包まれた雷龍は、一瞬の間を置いて叫び狂った。

 それもそのはずだ。

 塩水にくるまれた頭を中心に、内包していた雷がバリバリと音を立てて出て行っているのだ。


「雷龍の魔力の源は、その名が示す通り、雷。自然に発生する力を魔力に変換していると言っても、変換スピードを超えたらどうなるかしらね?」


 そう、私は何も塩水を相手の頭に被せただけではない。

 口の辺りにはちゃんと、水圧をかけて閉じるようにしているのだ。


「ぐががががが……」

「随分と弱ってきたみたいね。さて、そろそろ大丈夫かしら」


 一人呟きながら、魔力を拳に集中させる。


「さぁ、私の拳よ。光って唸り、勝利をもぎ取れぇぇぇぇ!」


 叫ぶのと同時に、雷龍の額に全力を込めた一撃を直撃させた。

 その瞬間、ゴォン! という硬い金属音が辺りに響くのと同時に、私は自分の魔力が切れるのを感じた。


「あぁ、ちょっと調整を、間違えた……、かも……」


 意識が途切れかける中、自分が落下している感覚を襲うのだった。


次回更新予定は3月17日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ