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戦争準備(味方回)
子爵領執務室 ディークニクト
クローリーには申し訳ないが、第二王子軍はこちらの思い描いたとおりに動いてくれている。
空き家、空き家で略奪を繰り返し、どんどん行軍速度が落ちているのだ。
「第二王子軍の到着予定はいつになりそうだ?」
俺が側に控えていたクローリーに尋ねると、彼は手持ちの資料を見ながら応えてきた。
「おおよそですが、約7日後だそうです」
「順調に遅れてくれているな。一応一度目の補給部隊は見送ったから、そろそろ糧秣が切れるだろう。どっちに動くにしても準備をしておくように通達を」
「かしこまりました。ウォルクリフを通じて全軍に通達させます」
俺の予想は二つある。
一つは、糧秣不足による撤退する可能性。
もう一つはそのまま進軍してくる可能性だ。
ただまぁ、聞く限りでは進軍を選ぶ可能性が強いと俺は思っている。
その理由は、軍事担当のネクロスという人物だ。
聞く話では、結構ゴリゴリの力押し、数押しをしてくる猛将タイプの将らしいのだ。
こういう奴は、糧秣が少々無くなっても敵から奪えばいいと思って突っ込んでくる。
そして、オルビスという第二王子も軍事に関しては素人らしいので、恐らくネクロスに任せるだろう。
そうなれば、こちらの絵図通りに事が進むという訳だ。
「何かあればすぐにでも報告できるよう監視を強化しておいてくれ」
「はっ! あと、オルビス軍が撤退した場合奇襲部隊の弓兵はどういたしますか?」
「カレドとトリスタンはあれで臨機応変に状況判断のできる奴らだ。心配しなくても敵が撤退していたらこちらの様子を見て判断してくれるよ」
俺がそう言うと、クローリーはそれ以上聞くことはないのか、頭を下げて退室した。
彼が退室するのと入れ替わりにセレス王女が護衛の老騎士キールを連れて入ってきた。
彼女は挨拶もそこそこに本題に入る。
「キールをそちらにお貸しするわ。これでも彼は剛勇無双と言われたから手助けにはなるはずよ」
セレスとはオルビスが攻めてくるという知らせと同時に話し合いの場を設けた。
その時俺が突き付けたのは、1週間以内に俺達と戦うか、敵中を突破して王城に逃げるかのどちらかを選べというものだった。
その答えを彼女は、キールを貸し出すという事で答えてきた。
「そうか。その決断感謝するよ。こちらからはシャロミーを護衛に出そう。万が一の場合には彼女が王女殿下を守ります」
「そうならない様に、私めが獅子奮迅の働きで追い払いましょう」
「それは頼もしいな。アーネットにキール、それに俺の3人で夜襲をしかければ敵も驚くだろう」
俺がそう言うと、セレスは少し驚いた顔をこちらに向けていた。
「ちょっと待ちなさいよ。大将である貴方まで戦場に出る気? こう言っては何だけどキールよりも弱く見えるわよ」
「いえ、姫様。彼は恐らく相当鍛えこんでいますので、私の方が弱いかもしれません」
「うそ!? 貴方が負けるなんて洒落にならないわよ!」
俺としてもキールの見立ては、ちょっと盛っている感じがする。
精々彼とならいい勝負となって、勝敗は運というところだろう。
まぁ、アーネットと比べると俺達は全く敵わないだろうけど。
「とりあえず、騎馬部隊に入ってもらうけど、騎馬経験はあるのかい?」
「これは異なことを。これでも王国騎士団の元団長ですぞ。今でいう将軍位に史上最年少で居たのですから、何ということもありません」
「それは頼もしいことだ。では空いている軍馬から相性の良いものを選んでくれ」
「畏まりました。では姫様中座させて頂きます」
キールはそう言うと、どこか嬉しそうに厩舎へと歩いて行った。
「さて、セレス殿下には護衛の紹介をしましょう。シャロミー、入ってきてくれ」
俺がそう言うと、部屋の前で待機していたシャロミーが銀髪をたなびかせて入ってきた。
一体どこから風がと思ったら、どうやら風魔法の無駄遣いをしたようだ。
ただ、その無駄遣いの甲斐もあってか、王女様の目は釘付けにできたようだ。
「こちらがシャロミー。エルフでは随一の弓使いで特別なエルフです」
「セレス王女殿下、初めまして。シャロミーと申します。ディーの命令とはいえ、御身をお守りさせて頂きます」
シャロミーはそう言って最大限の礼をセレスに対して行った。
当の王女様はと言うと、驚きの表情……。
いや、あれは胸とか身長に目が行っているな。
それも羨ましそうに見ているのがよく分かる。
何も言ってもらえないので、少し恥ずかしくなったのか、シャロミーが伺うようにセレスに声をかけ直した。
「あ、あのセレス殿下? 私の礼儀作法は間違っておりましたでしょうか?」
その一言でやっと現実世界に戻ってきたセレスは、慌ててシャロミーに声をかけた。
「え? あ、いや、大丈夫ですよ。むしろ完璧すぎて言葉を失っていましたわ。……特に胸とか」
「そ、そう言っていただけると幸いです」
王女様が最後の方になんかボソッと言ったぞ。
こっちの耳は人間よりも良いから、丸聞こえなんだけどな。
まぁ、シャロミーも聞こえないふりをしていたし、俺がどうこう言う必要はないか。
「では、シャロミーはセレス殿下の護衛を全うしてくれ。ここには兵を100人ほど残しておくから、それらの統括も任せる」
「わかっ……、ゴホン! かしこまりました。ディー」
いつもの癖で言いかけて、思いとどまったな。
意外と良いカッコしいなのだろうか?
俺がそんな事を思っていると、セレス王女はシャロから俺の方を向いてきた。
「では、作戦の成功を祈っています。私としても敵中突破で城には帰りたくないですからね」
そう、笑顔でプレッシャーをかけてくるのだった。
次回更新予定は6月3日予定です。
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