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6-23

エルディナ平原 ディークニクト


 初日は、お互いに陣地構築をして終わり、戦いが始まる2日目を迎えた。


「敵陣に動きはあるか?」

「一応、丘の上に偵察を出していますので、そろそろ報告があるかと」


 手近に居た将校に訊ねながら、地図を見ていると連絡兵が慌てて入ってきた。


「申し上げます! 偵察からの手旗信号が入りました! 『敵、5千ずつで二つの丘を目指し進軍す』です!」

「偵察兵には、引き上げるように伝えろ。それ以上その場に留まる意味はない」

「はっ!」


 俺の命令を受けた連絡兵は、また矢のように走り出した。

 その報告を聞いた諸将は、敵の意図が読めなかったのだろう。

 皆、首をかしげていた。


「敵の意図が、分かる者は居るか?」


 俺がそう言うと、アーネットが手を挙げた。


「これは、陽動と威力偵察を合わせてきたのだろう、と俺は考えている」

「なるほど、ですがこれは威力偵察なのですか? 兵数5千といえば、一軍にも匹敵する数かと思うのですが……」


 アーネットは、異を唱えてきた将の方を見て応え始めた。


「その疑念は、分かる。だが、相手の兵数を考えてみればよい。片方の丘に5千、合わせて1万の兵だが、20万の中の1万だ。まだこちらに対して9万も勝っている」

「……なるほど、そしてこちらの旗色が悪ければ、偵察を放棄して突っ込んでくる可能性もあると?」

「それは、当たり前だろう。武勲が、目の前に転がっているのだ。指を咥えて待てる奴などそうは居ない」


 アーネットがそこまで言うと、諸将も納得したようだ。

 そんな様子を俺も見て取り、次の段階の話を始めた。


「では、諸将に命令する。陣を後方に移し再建する。ここで戦うには、相手の兵力もそうだが、丘からのちょっかいが怖い」

「ですが、ここで兵を退いても状況はあまり変わらないように見えますが」

「いや、かなり変わる。その証拠に」


 俺はそう言いながら、地図に目を落とした。


「まずこの地だが、起伏が思ったよりも大きい。その為に兵士がほとんど見えないのだが、あの丘からだとこちらの状況がある程度見えてしまう。これでは、伏兵を置くことができなくなる」

「なるほど、確かに上から見られて連絡を取られては意味がありませんな」

「そして、二つ目だがあの丘自体に伏兵を監視する以外の役目はほぼない。なのに、あえて5千もの兵を投入したという事は、何か別の意図があるのではないかと思ったんだ」


 俺がそう言うと、諸将は一瞬ハッとなった。

 そう、迂回戦術や自軍の兵数を悟られないようにする為の可能性があるのだ。


「まさか、予備兵力を作らず一挙に来ると?」

「そのまさかが来るかもしれないから、一旦下がるんだ」

「かしこまりました。すぐにでも命令を出しましょう」

「よろしく頼む。ただ、あまり慌てないようにゆっくりと整然と退くように」

「はっ!」




エルディナ平原 アイゼナッハ


「……これはまた面倒な。流石常勝と言われるだけある」


 私は、威力偵察として出した兵からの報告を聞いて、嘆息した。

 なぜなら、こちらの意図をある程度見破られているかのような動きと、再構築された陣地の形をしていたのだ。


「こちらの包囲迂回戦術は、見破られてそうですかな?」


 一緒に報告を聞いたウルリッヒ将軍に私が首肯すると、彼もまた困った表情になった。

 こちらにとって嫌な事を、相手の将は的確にやってくる。


「他の王国の状況はどうだったかな?」

「獣王国が、こちらの領内に向かってきているのは確認済みですが、それ以外の国は今の所動きがありません。ただ、海賊国家でもあるジーパンは最近領海に頻繁に出没します」

「ジーパンは、しばらく捨て置けばいい。だが、獣王国が厄介だ。先日のエルドールとの戦いで、兵の大半を失ったと言われているけど、あそこは国民全員が戦士だからね。すぐまた兵を集めて本格侵攻して来るよ」


 私の意見と同じなのか、ウルリッヒも頷いてきた。

 そして、問題はこうなると獣王国以外にも広がる可能性がある。

 もし、国境で獣王国が勝ち、このエルドールとの戦いでも負けたら帝国は滅亡へまっしぐらだ。

 そして、それは獣王国が勝つだけでも起こりえる。

 ほぼ全兵力を傾けたが為に起きた、不均衡のつけでもあるのだ。

 20万という大軍を今回擁しているが、その実は帝国のほぼ全兵力と言っても過言ではないのだ。


「とにかく、相手に持久戦をさせてはいけない。一気呵成に行くよ」


 私は、そう言うとすぐさま鞍上の人となり兵を率いて動き始めた。

 できれば、この正面戦力9万で相手の陣地を少しでも崩したいものだ。


次回更新予定は2月25日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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