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廃村に帝国が兵を進めた、との情報から数日後続報が俺のもとに入ってきた。
「敵精鋭100名が、廃村から撤退しました! どうやら廃村に入った住人が追い返したようです」
「そうか、では廃村に住み始めた住人には褒美として、税を当面徴収しないように通達せよ」
なんとか、魔人たちは追い返してくれたようだな。
これで少しの間は、どうにかなる。
後は、いつこの魔人たちの入植を発表するかだな。
なにせこの国では数百年以上も、人族至上主義の宗教とともにあったのだ。
今エルフの俺達が、支配できているのも不思議なくらいだ。
「とりあえず、もっと大きな戦で活躍したのちに、正式に彼らに領土を与えて統治させる自治領を作ってみるか……」
俺の持っている帝国という構想からは若干離れるが、これも致し方ないという物だ。
無制限に拡大路線を行こうとすれば、下手を打つと破滅に一直線となる。
それに、無理に民族主義を抑えても、結局は解放戦線とか言いだして面倒になる。
それならある程度の自治を認め、こちらの属領として手をつなぐ方がましだ。
「さて、こうなると帝国はなりふり構わなくなるだろうな……」
俺が独り言を呟いてから、数日後。
懸念の通りに事態は動き始めた。
帝国から一方的に不可侵条約の破棄を言い渡され、こちらに攻める準備を始めたのだ。
「陛下、事態は急を要します。ご判断を」
その知らせが舞い込んでから、朝から家臣たちはてんやわんやの大騒ぎだった。
やれ抗戦だ、やれ和平だと議論が真っ二つとなっていたのだ。
そして、俺はそれをただただ眺めるだけだった。
まぁどうするかなんて、既に俺の中で決まっているのだ。
そして、聞いてきたトーマンもそれは理解しているのだろう。
俺に早く決断させて、喚いている貴族たちに覚悟を決めさせたいようだ。
「では、宰相。こちらの動員できる全ての戦力を帝国に向けろ! 獣王国にも通達を! 俺たちの次はお前たちだ、それが嫌なら帝国領に向けて兵を進めろ! と檄文を発しろ!」
俺が命令を発すると、先ほどまで騒いでいた臣下たちがすぐさま動き始める。
獣王国には、こちらが援軍を要請するという形にして賠償の減額を提案させてもいる。
「敵の総兵数は、入ってないのか!?」
「はっ! およそ10万! 我が軍の最大戦力の2倍ほどです! ただ、未だに兵が参集しているという事ですので、さらに兵数は増えるものと!」
10万集めて、まだ増えるか……。
バハムートを使っても、10万を超えたら殺しきれないと踏んだか?
いや、相手は魔獣も使う可能性がある。
何かしら面倒なモノが、ありそうな気がする。
「では、これより戦時体制に移行する! 各軍の集合が完了次第エルディナ平原へと向かう!」
「はっ!」
魔人の村 村長(便宜上)
エルフの王に会って、この村に入植してから数日。
いきなり帝国の兵が、私たちの目の前にやってきた。
こちらは、ぱっと見で魔人と分からない様に目深に帽子をかぶっているので、バレないだろうが……。
「なんだ!? ここは廃村と聞いていたはずだぞ!?」
帝国の兵が、何か叫んでいる。
まぁ確かに、数日前まで廃村だったことを考えればそうなるのか。
私は、考えがまとまらない中とりあえず声をかけてみた。
「すみません、私たちは遠くからこの地に来た者です。一応この辺りの領主様に許可を頂いておりますが」
私が、とりあえず何か兵隊らしきものが来たら言えと、オルフェウスから教えられたことを言う。
すると、明らかに相手の兵たちは不機嫌そうな顔をしていた。
そして、そんな兵の一人が私の体目掛けて槍を突き立ててきたのだ。
「こんにちは、残念ながらここは別の方の領地になるんだよ。お前らはここで死……えぇ!?」
槍が、丁度私の腹筋につき立ってはいる。
だが、筋肉で刃先が服より下には入っていない。
ふむ、どうやらこれがこの国の挨拶の様だな。
確かオルフェウスが、郷に入っては郷に従えと言っていた。
ここは挨拶を返さねば。
私はそう思うと、先ほど突き立てられた槍を呆然としている兵から奪い突き返す。
「こんにちは、これがそちらの挨拶ですね」
私は、できる限りの笑顔を向けながら槍を突き立て返すと、槍はあっさりと鎧を通し肉にまで達してしまった。
「ゲフゥ……ッ!」
「な!? 野郎!」
ん? なんだか殺気立っている気がする。
というか、あれ? 全員が剣を抜いてこちらを囲み始めた。
「どっちにしても皆殺しだ! お前らやっちまえ!」
「よっしゃ! 奪え! 殺せ!」
どうやら物騒な人だったらしい。
確かオルフェウスが、殺せと言う奴は殺して構わないと言っていたな。
と私が思い出していると、顔面目掛けて剣や槍が迫りくる。
流石に顔は刃物が入ってしまうので、体を素早くひねって避けながら、手近にいた兵の真正面に移動する。
「ひぃぃ! な、なんだこいつのうご、ぎゃ!」
何か言いたそうだったが、私が顔面を少し握ると潰れてしまった。
そんな私の様子を見てゾッとしたのか、兵たちが一回り円を広げる。
そして、私以外の住人の所へと行った兵たちも次々と空へと舞い上がり始めた。
「お、おい! ここの村おかしいぞ!」
「は、話と違うじゃねぇか!」
周囲の異変に気付いた兵たちは、口々にそんな事を叫びながら森へと逃げ去っていった。
「……という事があったんだ、オルフェウス」
私が、そこまでかいつまんで話すと、オルフェウスは少し頷いてから、親指を立てて「よくやった」と言ってきた。
何がよくやったのかは知らないが、まぁ役に立てたなら良かった。
次回更新予定は2月17日です。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




