6-19
俺は、オルフェウスたちと密約を交わすと、国境近くの村に居た兵たちに帰還命令を出した。
だがこの命令には、重大な秘密を孕んでいるので兵たちには「村の放棄が決定した。家財道具、家畜を置いて帰ってこい」とだけ伝えた。
それから数日後、魔人の入植が始まったとオルフェウスを通じて報告が入ってきた。
今回の褒美という建前で、オルフェウスには食料と建築資材など村の復興に必要な物資と武器を下賜している。
そんな忙しい中、一つの報告が執務室に居る俺の下に舞い込んできた。
「陛下、偵察に出ておりました諜報から報告が……、どうやら帝国が動いたようです」
「どれくらいの兵力だ?」
「およそ100名、恐らく先日廃村にした村の実効支配に乗り出したものかと」
廃村と踏んで少ない兵を動員したか……。
相手に魔人族が居なければ、恐らく純血種の彼らの敵ではないだろう。
「トーマン、恐らく帝国は成功しても失敗しても攻めてくるだろう。最悪の場合に備えて兵たちをいつでも召集できるように手配しておいてくれ」
「……致し方ありませんな。またこれで国庫が空になりますぞ」
「なに、気にするな。改造を進めているバハムートもある。ほんの少し持たせればそれで終わりだ」
現在バハムートは、前門と後門に魔法発射装置を取り付けさせている。
これは、今後空中戦力が出てきたときに、単機で敵を相手にしながら空爆を行うためだ。
ただ、この魔力発射装置にかまけているせいで、肝心要の空爆用の武器がほとんど開発されていない。
一応、火薬はどうにか作らせたのだが、それも正直どうなるかというところである。
「国境には魔人族が居る。どれも一騎当千の強者揃いだ」
「ですが、魔人族が相手に居た場合……」
「数によっては、苦戦するだろう。最悪そちらにも援軍を送らなければならない。それに相手もこちらの領内に送り込むのだ。精鋭部隊と考えて、まず間違いないだろうな」
「頭の痛い問題ですな……」
トーマンはそう言うと、渋い顔をしながら一礼して部屋を出た。
それと入れ替わりに、休養から復帰したアーネットが部屋に入ってきた。
「宰相殿が来ていたという事は、もう知っているな?」
「帝国の事だろ? おそらく戦争になるから、宰相にはいつでも兵を召集できるようにと、命令したぞ」
俺がそう言うと、アーネットは頷いてきた。
そして、手に抱えていた地図を俺の机に広げ始めた。
その地図には、事細かに帝国に侵攻することを考えたメモが書かれていた。
「ディー、俺ならこう攻めるという流れを書いてみた。そして、恐らく大兵力を擁する帝国なら同じように攻めてくるだろう」
「主要な平原は、全て押さえている形だな。確かに兵を分進合撃させるなら、これで間違いないだろう」
俺がそう言うと、アーネットは顔を曇らせた。
「敵は、大軍を押して進んでくると?」
「俺は、そう踏んでいる。そして、その場所は……」
「「エルディナ平原」」
俺が言うのと同時に、アーネットの口からも同じ単語が出てきた。
だいぶ、大軍を率いるという事が分かってきたようだ。
「確かにここなら開けた場所だ。そして、両脇には小高い丘がある」
「だが、その丘を取ったらこちらは負ける」
俺がそう言うと、アーネットは意外そうな顔をした。
「なぜ負けると?」
「この丘は、水資源がないんだよ。そんなところに大軍を入れて陣取ってみろ。どうなるかなんてすぐに分かるだろ?」
「……だが、兵は高きから低きに攻めよとは、お前の教えだぞ?」
「それは、一度や二度の攻撃の時の話や、水が確保できている時の話だ。水は直ぐに腐る。腐った水は、腹を壊させて兵の士気を落とす。だから、水が確保できてないとダメなんだよ」
「なるほど、確かに水は大事だな」
もっとも、魔力の無駄遣いを考えなければ水の確保はどうにかなる。
だが、それすらもできない激戦だった場合、死ぬしかなくなる。
「だから、今回は平原で正々堂々の勝負だ」
「しかし、相手が分進合撃をしてきたらどうなる?」
「それはそれで、対処するしかない」
幸いカレドも長逗留をさせられていたが、先日戻ってきた。
もっとも、条約を結んだは良いがほぼ意味のない状態になってからの帰還だったことを考えても、魔獣の件は帝国が仕組んだのだろう。
ちなみに、帝国からその事をせっつかれた時には「狩人が仕留めた」と言ってすっとぼけるつもりだ。
「とにかく、まずは魔人たちがどう戦うか、それを見守ってからだ」
そんな俺達の会話から数日後、襲撃が始まった。
次回更新予定は2月15日です。
※明日14日が信長の野望大志PKの発売日ですので、もしかすると熱中して書かないかもしれません(;´・ω・)
その場合は、次々回予定の17日になります。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




