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6-17

王都 ディークニクト


「……以上が報告になります」


 そう言って、謁見の間でアーネットが報告を終えると、家臣の間からため息が漏れた。

 報告の内容は、村の全滅と巨大な魔獣の討伐完了。

 そして、ドロシーによる検証の結果だった。

 結果から言うと、限りなく黒に近い灰色。

 帝国の介入を決定づける証拠はないが、状況証拠から帝国の可能性が高い。


「……なるほど、アーネットご苦労だった。しばし休んでくれ。あの廃村にはこちらから人をやって引き揚げさせる」

「ありがとうございます」


 アーネットはそう言うと、謁見の間から去っていった。

 さて、当面の問題だが……。


「トーマン、現状国庫はどれくらい回復したか?」

「獣王国から賠償として一定の鉱石などは到着しましたので、ある程度は潤ってまいりました。ただ……」

「国境沿いに、見張りの兵を駐屯させるほどの財はないか?」

「恐れながら、臣もそのように考えております」


 魔獣出現の情報は、今のところ討伐情報と合わせて流している。

 だが、今後も頻発するようならこちらは、その都度兵を派遣しなければならなくなる。

 そして、それはこちらの国力を削ぐ可能性の高い。


「まさしく、逸をもって労を待つの計だな」


 俺が独り言ちると、並んでいた臣下の中から一人前に出てきた。


「陛下、でしたらこちらも逸をもって労を待つ計略で、対抗しては如何でしょう?」


 そう言ってきたのは、元第三王子に仕えていたという若い男だ。

 確か名前を……、オルフェウスと言ったはずだ。


「オルフェウスよ、何か策があっての事か?」

「はっ! こちらも魔獣に対抗して、魔人を派遣するのです」


 オルフェウスのとんでもない発言に、周囲に居た臣下たちがざわつき始める。

 そして、その中からトーマンが代表して、一歩前に出て意見を述べてきた。


「陛下。僭越ながら私は、オルフェウス伯の提案は荒唐無稽であると考えます」


 確かに、トーマンと同じで俺もまずありえないことを提案していると思う。

 だが、当のオルフェウスは平然としているのだ。


「トーマンの言う事ももっともだが、方法も聞かずに進めるのは早計というものだ。オルフェウスよ、その自信のある策を聞こう」

「さすがは、陛下。ご英断感謝いたします」


 オルフェウスは、そう前口上を述べると考えた策を話し始めた。

 それは、現在少数になりあちこちを放浪する魔人族の永住権を、裏で確約するというものだ。

 そして、与える土地は先ほど報告に上がった廃村だった。


「……なるほど、確かにそれなら問題なく彼らを取り込み、尚且つ動かせる可能性がある」

「し、しかし、こちらに永住させては魔人たちを、我が国が匿っているとみられるのでは?」

「確かにトーマンの心配も分かる。だが、オルフェウスの提案は見るべきものがあると思うぞ」


 俺がそう言うと、オルフェウスはニコニコと宰相の方を見ている。

 その視線にトーマンも気づいているのだろう、そしてこれ以上異を唱えても意味が無いことも知っているのだろう。

 彼は、渋々首を縦に動かした。


「……分かりました。ただし、懸念したことはお伝えしましたぞ?」


 トーマンはそう言うと、黙って臣下の列に戻っていった。

 その様子を見ていたオルフェウスは、すぐさま跪いてきた。


「では、陛下! 御裁可を頂けたと考え、進めさせて頂いて宜しいでしょうか?」

「許可する。オルフェウスよ。彼らに必要な物資などはこちらで融通する、とも伝えてくれ」

「はっ! ご英断感謝の極みでございます」


 そう言うと、オルフェウスは魔人族との接触に動き始めるのだった。


 数日後、再びオルフェウスが俺の執務室を訪ねてきた。


「陛下、先日の魔人族との約定の件でご報告が」


 オルフェウスは、俺の執務机の前に立つと一人の男を紹介してきた。

 歳は30もいってないくらいで、筋肉質な体つきをしていた。


「何かしらの成果があったみたいだな」


 俺がそう言うと、オルフェウスは頷いて隣の男を紹介し始めた。


「彼の名はバールといい、魔人族の戦士です」


 男は紹介されると、軽く俺に会釈をしてきた。

 確かに腕はたちそうで、先ほどから警戒しているのか気配で色々探ってくる。


「そして、陛下。私は魔人族の長です」

「……は?」


 オルフェウスの突拍子も無い発言を聞いた俺は、頭の中が混乱した。

 何をいきなり言っているんだ? 魔人族の長?


「オルフェウス伯、確かに其方は強いが魔人族と言うのは、冗談が過ぎるぞ」


 俺がそう言うと、オルフェウスは目を見せてきた。

 綺麗な金色の目で、この国では一般的な目の色だ。

 それが、俺の見ている目の前でみるみる赤く染まっていった。


「な!? 赤目!? オルフェウス、お前は本当に魔族だったのか……」

「今まで隠しており、申し訳ありませんでした」


 そう言って、オルフェウスは俺に深々と頭を下げてきた。


「まぁ良い、何か事情があるのだろう?」

「……実は」


 オルフェウスは、そう言うと自分の過去を話し始めるのだった。

次回更新予定は2月11日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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