6-14
少し短めです。
暗くジメっとした部屋から出された私たちは、騎士アイゼナッハに連れられて帝城内を歩いていた。
「先ほどは失礼しました。どうやら指示の行き違いで、あのような場所に……」
アイゼナッハはそう言うと、少し頭を下げてきた。
もちろん、これから交渉を行うこともあり、私は首を横に振ってにこやかに応えた。
「いえいえ、あまりお気になさらず。こうしてアイゼナッハ様がお越しになってくださいましたので、我らは気になどしておりませんよ」
「ハハハハ、そう言って頂けるとこちらとしても助かります。ささ、話しておりましたら到着いたしました。ここが謁見の間です」
アイゼナッハが、そう言って立ち止まった。
その目の前にそびえるのは、3mはあろうかという大きな二枚扉で細かな彫刻が施されていた。
私たちが扉の前で止まると、門の守衛がラッパを吹き来場の声をあげた。
「エルドール王国、外交使節団ご入場!」
その声とほぼ同時に、扉が重苦しい音を上げながら内側に開いた。
そして、開いた目の前には真っ赤なワインで染め上げた様な、ルビー色の絨毯が広がっていた。
「カレド様、どうぞお進みください。私の役目はここまでですので」
アイゼナッハは、そう言うと道を譲ってきた。
その勧めに従って中に入ると、目の前の数段高い場所に玉座があった。
その周囲には、文武の長であろう者が一段低いところに。
百を超える官僚が、左右に居並んでいた。
まさしく圧巻。
そして、中ほどまで入ると先ほどと同じく、重苦しい音をだしながら扉が閉まった。
それと同時に私たちが、膝まづいて皇帝に挨拶を始めた。
「皇帝陛下におかれましては、ご壮健であらせられ誠に喜ばしく」
「うむ、挨拶はありがたく受け取ろう。して何用で帝都まで、帝城までいらしたのか?」
「はっ! 実はここ最近、我が領と、皇帝陛下の御領地との間に魔獣が頻出しておりまして。その討伐に一時的に兵を差し向け討伐いたしますので、ご了承を頂きたく」
「なんと!? 宰相、今の話は誠か?」
皇帝が、私の話に驚いた様子で宰相に問いただすと、宰相は首を振って知らぬと答えてきた。
「ふむ、ではそちらエルドールの領内にて起きているのだな。相分かった……」
「陛下お待ちを」
皇帝が、賛意を示そうとすると宰相とは反対側に居た武官らしき男が、待ったをかけてきた。
「此度のエルドール王国での魔獣騒ぎが本当だとするなら、追い散らされた魔獣が我が領内に入るやもしれませぬ。こちらも同数の兵を駐屯させ、もしもの時に備えるのが当然かと」
「なるほど、確かに将軍の言う事は尤もだな。では、使者殿。お聞きになった通り、我らの軍も国境沿いに派遣する故、ご了承願えるか?」
ここまでは、ディーが想定していた範囲であり、許可されている範囲だ。
ただ、ここで私は少し間を置いた。
あからさまに私が、全権代理とは思われない様にしなければならない。
そして、少し間を置いてから答えた。
「かしこまりました。では、こちらはそちらの国境を侵さず、そちらはこちらの国境を侵さぬよう文章で調印致しましょう」
私がそう言うと、ほんの一瞬だが宰相の顔が苦虫を噛み潰したようになる。
それを見逃しては居なかったが、ここで指摘しても意味がないので黙っていることにした。
それから数時間の休憩を挟み、覚書を調印し、お互いに約束事を確かめた。
これで、最悪の場合他国に檄を送って、帝国を攻める大義名分が手に入ったことになる。
「では、調印も終わりましたので、我らはこれにて……」
「まぁ、待たれよ。今日はもう日も暮れている。休んでいかれるがよい」
そう言われて、窓の外を見てみると日が山の稜線に沈みかけていた。
確かにこの時間では、旅立つのも逆に非礼になる。
そう考えた私は、皇帝のお言葉に甘えることにした。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます」
そう言って礼をすると、皇帝はすぐさま侍女に部屋への案内を指示した。
次回更新予定は2月3日です。
福は内!
今後もご後援よろしくお願いいたします。




