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6-12

エルドール王国 カレド


 王城にいきなり呼び出された私は、唖然とした。

 何せいきなり帝国に派遣されるというのだからだ。


「え? ちょ、ディー……あ、いや陛下。私が、帝国との外交折衝をするのですか?」


 私が嘘だろとばかりに問い返すと、陛下は頷いてきた。


「そういうことだ。一応向こうに詳しいものは、オルビスの配下から出してもらうが、主に折衝担当はお前になる」

「で、ですが、私は外交折衝など初めてですよ? 落としどころも分かりませんよ?」

「それは分かっている。だから今回は、交渉というほどの内容ではない」


 そう言うって陛下が言い出したのは、国境沿いの村に頻出する魔獣討伐の了承を得る事だった。


「基本的に、こちらが軍を派遣して終わりの案件だ。もし相手が軍を派遣しようかなどと言ってきても、国境を超えないことをしっかりと確認しろ」

「国境は超えない様にですね。それは互いにでしょうか?」

「まぁそうなるな。後、こちらの軍は魔獣討伐後復興作業に当たるから、当面国境沿いに人が多くなることも了承を取ってくれ」


 なんだか色々とややこしい問題が多いようで、軍事を考えるよりも頭を使いそうだ。


「とりあえず、私だけでは不安なので、もう一人外交に秀でた者をお付けくださいませんか?」


 私がそう言うと、陛下はしばらく考えてから頷いてきた。


「そうだな、何事も先人から学ぶのが良いだろう。宰相、内務官の中で外交に精通しているものを一人選出して、つけてやってくれ」

「はっ」


 陛下が命を下すと、トーマン宰相は直ぐに部屋を出て準備に取り掛かった。

 私はというと、相変わらず陛下を質問攻めにしていくのだった。




国境沿い アーネット


 途中で、ディーが用意した兵たちと合流した俺は国境沿いの村にやってきていた。

 いや、村だった場所と言うべきだろう。


「これは……」


 その様子を見て、俺は絶句した。

 家は壊れ、人は食い散らかされ、田畑も踏み荒らされていた。

 そして、何故か家畜だけは生き残っていたのだった。


「アーネット様、これは少々妙ではございませんか?」


 ついてきた兵たちも惨状を目の前に目を白黒させていたが、そんな中一人の兵が声をかけてきた。

 確か、古参の老兵のロンメルだ。


「お前もそう思うか? ロンメル」

「えぇ、魔獣の被害は私も何度か見たことがありますが、人だけが死んでいるのは初めてです」


 この老兵は、子爵家に仕えていた騎士なのだが、最近爵位を息子に譲って一般兵として参加している変わり者だ。

 そのため、ほぼ全ての合戦に参加しているので、恐らくエルフを除けば最古参になる。


「人だけを襲うとなると、これはちょっとばかり外交折衝は難航しそうだな」

「私に外交折衝の話は分かりませんが、少なくとも何者かの意志がありそうには思いますな」


 その何者かは、恐らく同じものを想像しているだろう。

 俺達の意見が一致したのとほぼ同時に、巡回させていた兵の悲鳴が響いた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ! ま、魔獣だぁぁ!」


 その声を聞くや、俺達は手近に居た兵たちを連れて叫び声の方にへと移動した。

 現場に着くや否や、俺が目にしたのはとても魔獣とは思えない生き物だった。


「ロンメル、あんなの見たことあるか?」

「いえ、長い間魔獣討伐も経験しておりますが、あんな犬型は見たことないですな」


 そう、俺たちの目の前にいる魔獣は、犬型の魔獣なのだ。

 ただ、体の大きさがおかしい。

 通常は体長1メートル程度の魔獣なのだが、今目の前に居るのは、4mはあろうかという巨大な魔獣なのだ。


「全員! 5人一組を崩さず、左右に展開をしろ! 俺が正面を受け持つ!」


 俺がそう命令すると、兵たちはすぐさま動き始めた。

 一瞬でも油断すれば、今まさに食われた兵と同じ運命をたどる。


「俺が突撃を開始したら、隙をついて脇、足を重点的に攻撃しろ!」


 そう言い放つと、俺は正面の敵に対して集中した。

 ゆっくり、じりじりと距離を詰める。

 俺の獲物は、的確に命中させなければ魔獣には効果が薄い。

 人であれば狼牙棒の棘一つで、引き裂くことも可能だが、魔獣の皮は分厚くかすり傷も負わせられない。

 俺がじわじわと距離を詰めると、魔獣もしびれを切らしたのか突然咆哮してきた。


「ガァァァァァァァァ!!!!!」


 あまりにも大きい咆哮に、正面に居た俺は衝撃波にも似た何かを感じた。

 そして、丁度俺の後ろで支援しようとしていた兵たちが、バタバタを気を失って倒れる音がした。


「ロンメル! 無事か!?」

「幸い頭が痛い程度です!」


 よし、ロンメルは無事だ。


「ロンメル! 無事なら後ろで倒れた兵たちを少し離れた場所まで移動させてくれ!」

「かしこまりました! ですが、アーネット様お一人で正面を受け持つのですか!?」


 ロンメルからの問いかけに、俺は少しだけ頷いて見せた。

 丁度、俺の大声に魔獣が反応して真っ直ぐこちらを見ていたからだ。

 そして、そんな状況をロンメルも感じたのか、それ以上は問わず動きだしたのだった。


次回更新予定は1月30日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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