6-11
先日分かった嫁二人の懐妊は、安定期である3ヶ月目に入るまで内密にすることとなった。
まぁ、トーマン宰相はすぐにでも発表して、お祝いムードで経済活性化を狙おうとしていたが。
そんな少し浮かれた状態の中、一つの不穏な報せが入ってきた。
それは、帝国との国境沿いで近年魔獣の出没件数が多くなったというものだ。
「魔獣か……、魔物よりはマシだが嫌な感じだな」
「そうだな。先年の、ベルナンドでの一件を思い出すな」
執務室で、報せを一緒に聞いていたアーネットが言ったのは、ベルナンドでの魔物――オーガ――の件だ。
あれも首謀者の二人が死んでしまって、真相が分からなくなってしまっていた。
ただ、断片的にだが魔物を連れてきた商人が居たことは分かっている。
「例の商人も、結局足取りは掴めていなかったからな」
「そこは仕方ない。シルバーフォックスがこちらについて間もなく、7,8人でなんとかベルナンドの裏社会を警備していた状態だったんだ」
密偵網を張り巡らせたのは、その後シルバーフォックスの里の者たちを呼び寄せた後の話だ。
それも、ベルナンドの制圧完了から1か月以上経っていた。
流石に1か月も空いてしまうと、人一人の足取りを追うことなどほぼ不可能だ。
「で、今後はどうする? おそらく獣王国はエルババの代では、軽々にこちらに仕掛けてこないと思うが……」
「そうだな、帝国との国境に軍を派遣してくれ。こちらは元第二王子オルビスの伝手を借りて、侵略の意図が無いことを通達しておく」
「なるほど、確かにそれは必要だな。では、通達が終わったら軍を出発させてくれ。俺は先発して周辺の村々を守ってくる」
そう言うと、アーネットは執務室をあとにした。
「まったく、大将軍が軽々に動いてどうするんだ……。誰か居るか!?」
「はっ! どうかなさいましたでしょうか?」
俺の呼び出しにすぐさま、守衛の兵士が反応してきたので、アーネットに少数精鋭の護衛を付けるように通達させた。
まぁ、言って聞くタイプではないから、こちらから数名を見繕って出すことになりそうだが。
魔道具研究所 ドロシー
研究に没頭しようとしている私の元に、珍しい客が来た。
「ドロシー、魔道具を貸してほしいのだが」
そう言ってきたのは、エルフのくせに筋肉だるまのアーネットだ。
シマ……、ディーの友人と聞いているが、こいつに魔道具を貸すのは出来たら遠慮したい。
理由としては、まぁ壊すからだ。
それもかなり理不尽な壊し方をする事が多く、正直私は嫌いなのだ。
「あんたね? ここに近づいたら魔道具の材料にするって言わなかったかしら?」
「言われたな。だから俺も来たくはなかった。……だが、今回ばかりは必要だから来たんだ」
「ん? 話が見えないわね。いったい何があったって言うのよ」
私が尋ねると、アーネットは少し渋りながらも話始めた。
「実はな、帝国との国境沿いに、魔獣が頻出するようになった」
「それは大変ね。で、あんたと何の関係があるんだ? 軍でも派遣して一掃すればおわるんじゃないの?」
「確かにそうなんだが。今、我が軍は帝国と事を構えたく無くてな、外交筋で話をしてから出ないと派遣できないんだ」
軍が派遣できないのと、魔道具を貸してほしい……。
あぁ、そう言う事か。
「あんた、一人で頻出する魔獣を狩りに行く気ね?」
私がそう言うと、アーネットは頷いてきた。
なるほどなるほど、それで私の所に来たのか。
「はぁ、しかたないわね。どんな魔道具が欲しいのよ?」
「防御に使える魔道具があったら欲しい。ただ、無事に返せるか分からないが……」
まぁ、今回に関してはわざと壊す気はなさそうね。
アーネットの殊勝な態度を見て、私はいくつかの魔道具を見繕って渡した。
「壊すこと前提と言うのは、頂けないけど。まぁこの辺の魔道具を渡しておくわ」
「すまない、感謝す――」
「ただし、使用感をちゃんと報告して。こっちも魔道具を売りさばく為に改良しなくちゃいけないんだから」
私がアーネットに被せ気味に言うと、彼は一瞬ムッとした表情をしてから、盛大にため息を吐いた。
「はぁ……、分かった。それくらいは仕方ないな。他にはないのか?」
珍しい。
自分からこちらに、対価を出すぞと言って来るなんて。
「そうね、後は魔獣の死体くらいね。このボックスに入るだけ持って帰ってきてちょうだい。ちなみにできるだけ状態の良い奴を入れるのよ? こないだみたいなミンチは入れなくていいわ」
私がそう言うと、アーネットは分かったとばかりに頷いてきた。
「それじゃ今用意させるから、あんたは客間ででも待ってなさい」
それから数時間後、アーネットに見繕った武器防具の使い方を説明して、アイテムボックスを渡すと、彼はさっさと出て行くのだった。
次回更新予定は1月28日です。
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