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帝国 シャムロック皇帝
「……以上が、近隣でここ最近起こった争いでございます」
そう言って、うやうやしく余の前で一礼をして臣下が報告を終える。
あの引きこもり続けたエルフが、国をつくるとは誰が想像しただろう。
おそらく優秀な我が国の人材たちも、彼らが表に飛び出してきた第二王子との戦争までは予想だにしなかっただろう。
その後、彼らの動向は常に調査しているが、航空魔導兵器バハムート。
とんでもないものを、創り出してくれたものだ。
「して、第一王子リオールの行方は?」
「はっ! 影の手の者たちから、恐らくエルフの里で幽閉されているのではないかと」
「なるほど、確かにあれを解き放つのは、新興国にはリスクが高すぎるな」
余が考えを述べると、臣下一同も頷いてきた。
そんな中、一つ報告がと手を挙げてきた初老の男が居た。
ジーパンと国境を接している、ナイゼル辺境伯だ。
「皇帝陛下に、是非とも引き合わせたい者が居りまして」
「ほぅ、余に? ナイゼルよ、それは相当に珍しい者なのだろうな?」
余の下問に、ナイゼルは一切のよどみなく頷きハッキリと言い切った。
「少なくとも私は、これまでの人生で見たことがございませんし、聞いたこともありません」
「辺境伯のそちが、見たことも聞いたこともないと? それは中々楽しみだな。どのような者だ?」
余が興味を示すと、ナイゼルは含みのある笑いを見せてきた。
「魔物使いでございます。トロル、オーガはもちろん、最近は伝説と言われた龍種であるワイバーンも使役しております」
「なんと!? ワイバーンを!?」
余は一瞬、玉座から立ち上がりそうになった。
ワイバーンは、伝説の龍種の中では最下層に位置するが、人が使役できるモノではない。
それを使役しているのであれば、恐らく天井の神々の加護を得た者だろう。
「して、そやつはナイゼル、そちの所に滞在しておるのか?」
「我が領内にて留め置いております。もし陛下がご希望とあらば、彼の者を連れてまいりますが」
「許す! そちの責任でここまで、余の前まで連れてまいれ」
余がナイゼルに銘じると、彼はうやうやしく礼をした。
魔物使い。
それが本当であれば、この帝国は過去の領土を取り戻せるだろう。
エルドール王国 ディークニクト
何とかエルババとの和平交渉も終わって、一息つけるかというころ。
ここ最近会えてなかった、シャロとセレスの二人が俺の前に来た。
「ディー、実は報告が」
「陛下、実はご報告が」
二人が、改まってそう言うので俺は居ずまいを正して、聞く姿勢をとった。
「二人とも、何かな?」
俺が、そう問うと一瞬見つめ合って頷いた二人が同時に手をお腹に当てた。
「「子ができました」」
「……へ?」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
そして、二人が嬉しそうな顔をしながらこちらを見ているのを見て、その分からなかったが分かり始めた。
分かり始めたのと同時に、俺は少しあたふたしながら二人に向かって、自分を指差した。
「何を当たり前の事を。我らは二人とも未通女だったであろう?」
「それに、ディー以外に手を出されるくらいなら、相手を斬り殺すわよ」
うん、まぁ嬉しいんだが、それを平然とやってのけそうなが怖いよ、シャロさん。
俺が心の中で突っ込みながらも、嬉しさと何とも言えない感慨で泣きそうになった。
「やったね、セレス。ドッキリ成功よ」
「うむ、嬉しい報告でもあるし、陛下がこれだけ喜んでくれるのは、女冥利に尽きるな」
そういって、泣きそうなのを我慢している俺を見ながら二人はニッコリとほほ笑んだ。
「それで、いつ頃生まれる予定だ?」
「少なくとも十月十日はかかるだろう」
「そうね、エルフも同じくらいだったから、それくらいかしら?」
そう言って、二人は俺の手を取ってきた。
「「だから、無茶しないでね? お父さん」」
「あ、あぁ。って俺そんなに無茶しているか?」
俺がそう言うと、二人が頷いてきた。
「してるわよ。王という座に居るのに前線にしょっちゅう行っちゃうし」
「この前なんかは、安全かどうかも分からないバハムートに乗って行ってしまうしの」
「うっ……、で、でも王族が手を下さないで居るのは、何か違う気がするんだよ。俺は王としてじゃなくて、ディークニクトとして生きたいんだ」
真剣に俺がそう言うと、二人はため息を吐いてきた。
そして、お腹をなでながら「これはこの先大変になりまちゅね」と言い始めた。
「ちょ! まだ意識もないうちから、お父さんは大変な人だって言うのは止めて!」
俺が慌ててそう言うと、二人は見合わせてまた笑ってきた。
「冗談に決まっているじゃない」
「本当に、陛下は固いの」
「うぅ、嫁二人がイジメてくる……」
俺がそう言うと、二人はまた笑うのだった。
次回更新予定は1月26日です。
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