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6-7

国境沿い アーネット


 王都にドロシーが到着した、という情報が入ったのとほぼ同時に前方に土煙が広がるのが見えた。

 おそらく、獣王国国王エルババの率いる軍だろう。


「敵、数およそ2万……いえ、3万以上が接近中!」


 物見の兵が、声をあげ続ける。

 その数を聞くたびに、将兵の間からどよめきが起きる。


「アーネット様、如何いたしますか?」


 俺が、正面を向いて微動だにしないでいると、副官が声をかけてきた。

 今回俺が副官に選んだのは、谷で拾ったオルゲだ。

 降伏してから、士官として必要な知識や戦術などを学んでおり、今日はその実地試験といったところでもある。

 その為か、先ほどからかなり張り切って動き回っているのが分かる。


「オルゲ、張り切りたい気持ちは分かるが、今はもう少し抑えろ。お前がウロウロしていたら下士官や兵が動揺する」

「はっ! 申し訳ありません!」


 オルゲはそう言って、敬礼をすると直立不動で俺の斜め後ろに立った。

 だが、すぐにまたソワソワし始め、辺りを見回し始めている。


「では、オルゲ。お前はこの場にて防衛の指揮を取れ。粘り強さが重要だぞ」

「はっ! ありがとうございます! アーネット様はどうなさいますか?」

「俺は、一軍を率いて一当てしてくる。エルババは剛の者と噂されているからな」


 俺はそう言って、腕を回しながら狼牙棒を手にする。


「もし万が一にも俺が敗れたら、その時は必ず砦から動かず防御に徹しろ。仇討ちなど考えるな? 俺が敵わないという事は、誰も敵わないということだからな」

「はっ! 万が一の場合は、増援が来るまで耐えてみせます!」


 オルゲがそう言うのを聞いて、俺は頷いてから軍の先頭に立った。


「さぁ! 侵略者を撃退するぞ! 術式展開! 魔法斉射用意! 弓兵は魔法兵の後で発射用意をしろ!」


 命令を下すと、一斉に兵たちの前に術式が展開される。

 今回使う予定の術式は、大型の炎魔法だ。

 それを一斉射すれば、恐らく敵は瓦解する。


「敵がこちらの術式を見てもなお接近してきます! ……ん? あ、あれは!?」

「何があった!? 正確に報告しろ!」

「て、敵が術式を展開しております! 術式の内容は不明!」


 獣王国が魔法を!? 確かあの国は魔法の使えない国ではなかったか?


「やむを得ん! 敵が攻撃範囲に入った瞬間一斉射する! ……いまだ! 放て!」


 敵が入った瞬間、一斉に炎魔法が飛び出していく。

 そして、敵の先頭集団に向かって一直線に飛んでいった。


「敵、術式から魔法を発射! あれは!? 水魔法です!」

「こちらの術式を読んで、相性の良い水で相殺するつもりか!?」


 俺が叫ぶのと同時に、こちらの放った魔法は相手の魔法で全て消し飛んでしまった。


「だ、弾着なし! 敵は無傷です!」


 魔法で数を減らして戦う予定だったが、これは大幅に予定が狂いそうだ。

 ただ、こちらもボーっとはしていられない。

 すぐに次の展開を考えなければ。


「弓兵は一斉射用意! 魔法兵は一旦下がれ! 騎兵は左右から相手の両翼の隙を狙え!」


 指示に即座に動き始めた兵たちは、混乱することもなく次の布陣を完成させる。

 最前列に盾槍兵が展開し、その後ろにエルフの弓隊、剣兵、魔法兵と布陣している。


「弓兵隊は風魔法を矢に付与しろ! 魔法兵は水魔法を展開用意! 放てぇ!」


 命令と同時に、弓兵隊から一斉に風切り音が鳴り響く。

 そして、それと少し遅れるように魔法兵が水魔法を展開する。


「魔法兵! 続けて放てぇ!」


 矢に遅れる事数瞬で、水魔法が敵を目掛けて飛び出す。


「矢が命中! 水魔法も命中しました! 敵戦闘集団が崩れます!」


 後から放った水魔法には、殺傷能力はほぼない。

 ただ、圧倒的な水の圧力で相手の陣形を乱すことができるのだ。


「敵が来たら盾槍兵は踏ん張りどころだぞ! 騎兵隊は敵の騎兵を抑えろ!」


 敵が迫る中、盾槍兵が右隣の兵に盾を被せ始める。

 全ての準備が整うのと同時に、敵が目の前まで迫ってきた。


「ここが踏ん張りどころ! アーネット様に鍛えられた我らの力!」


 兵たちが、一斉に唱和する。

 一体どこでそんな唱和を考えたんだ、こいつら。

 ただ、その唱和も伊達ではない。

 殺到する敵の武器を盾で防ぎつつ、防御を崩して槍で一突きに殺していく。

 身体能力的には劣る人族が、圧倒的な力を持っている獣人の突撃を防ぎ、跳ね返したのだ。

 勢いをつけていたのにもかかわらず、突撃を止められた獣人たちに動揺が走ったのが分かった。

 だが、そんな劣勢を一瞬で判断したのか、エルババがものすごい勢いでこちらの盾槍兵に突っ込んできた。


「馬鹿垂れどもが! 戦いとはこうやってやるのだ!」


 そう言って突っ込んできたエルババは、盾槍兵を手にした大剣で盾ごと切り裂いていく。

 もちろんこちらの兵も、ただでは戦友を死なすまいと振りぬいた隙をついて槍を脇腹に突き立てる。


「フン! そんな短い槍が俺の鎧を貫けるか!」


 確実に脇腹に入ったと思った槍は、どうやら彼の胴当てに弾かれたようだ。

 そして、弾かれて浮足立った兵たちを、エルババは切り裂いていくのだった。


次回更新予定は1月20日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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