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獣王国 エルババ
エルドール王国からの使者は、あれから定期的にこちらに来てはエイデンに会わせろとしつこかったが、ここ最近はパッタリと姿を見せなくなった。
そんな折、エイデンの方もやっと覚悟が決まったのかこちらの申し出に頷いてきたのだ。
「エルババ様、本日はお時間を頂戴して申し訳ありません。以前頂いていたお話をお受けいたします」
「おぉ! さようか! ではすぐさま出立の用意をせねばならんな。なに、安心されよ! この獣王国の王エルババが付いておりますからには、エルフなど鎧袖一触! 布地の如く切り裂いてやりますぞ!」
俺がそう言って大笑してみせると、エイデンもつられて笑っていた。
これでやっと領地の拡大ができる。
あとは、敵の備えだが……。
「返答の使者は帰ってきたか?」
「はっ! 先日先触れが来ておりましたので、あともう間もなく到着するころかと……」
俺の問いかけに家臣が応えていると、謁見の間の扉が開かれて使者が返ってきた。
「エルババ様! ただいま戻りましてございます」
「ご苦労! して、敵の様子はどうであった?」
「はっ! エルババ様のお見立て通り、街道を王国側に進んだところで、堀を掘っているのが見えました。恐らくあの堀とその土を使って土塁を作って防ぐつもりでしょう!」
俺は、使者からの言葉を聞いた瞬間、快哉を叫びたくなった。
だが、流石にエイデンの目の前という事もあり、自重しながらもニヤリと笑って見せた。
「王子殿下、これで我らは勝てましたぞ。奴らは我らを力攻めだけの相手と侮ったようです」
「エルババ様、そのおっしゃりようだと力攻めだけではないと感じるのですが。確か獣王国は、獣人の圧倒的なパワーと俊敏性で戦う個別戦闘が基本戦術では?」
エイデンの言いように、俺は再び大笑して訂正した。
「グワァハッハッハッ! それは違いますぞ! 我ら獣人は、かつては魔法の使えぬ一族と言われておりましたが、ここ最近では混血が進み獣人のパワーと魔法の両方が得意な者が増えたのです! 魔法を使えば、堀や土塁など軽々と越えますぞ!」
俺がそこまで言うと、エイデンは一瞬憂いを見せたがすぐに取り繕ってきた。
「……それはすばらしい! 流石は剛勇で鳴らしたエルババ様です! 是非ともよろしくお願いいたします!」
「絶対にエルドールを、国を取り戻しましょうぞ!」
それから俺は、進軍を開始するための準備に奔走するのであった。
エルドール王国 ディークニクト
王都近くの空き地に滑走路を建設し始めて数日。
数千人の労働者に、日夜掘って埋めてを繰り返させていた。
ただし、この滑走路がなんであるかは、大将軍であるアーネットも宰相であるトーマンにすら教えていない。
ただ、ドロシーが協力するために必要だと言っただけだった。
「陛下、財政は火の車と言っておりましたでしょう!? 何故に日夜あのような工事をされるのです!? あんなただ細長く平たい場所など作ってもどうしようにもならんでしょう!」
「確かに、ディーよ。俺も今回は、宰相殿の意見に同意するぞ。こんなことをするくらいなら、国境沿いに望楼付きの砦を建設する方がよっぽど国の為になる」
「なんだお前たち、顔つき合わせたら言い合いしているのに、こんな時だけ協力するのか?」
俺が真剣な二人に茶々を入れると、二人はムスッとして俺の方を睨んできた。
「協力ではありません! こちらは財政の心配をしているのです!」
「そうだ、協力ではない! 俺は防衛の心配をしているんだ!」
「ハハハハ! 似て非なるか。まぁ安心しろ、あれはドロシーが欲したんだ。今回の戦いで必要だとな」
「「ドロシーが!?」」
まったく、息があっているというかなんというか。
ただ、流石にドロシーの名前が出たことでこれ以上追求できないと感じたのだろう。
二人とも口をつぐんでしまった。
「まぁ安心しろ。あれは無駄にはならない。それに俺は既にあれを必要とする物を見ているからな」
「あのような平らな地面を必要とする物、ですか?」
トーマンの疑問に俺は、首肯で応えるだけにした。
「……はぁ、これ以上何も聞けませんな。分かりました。陛下の為に予算をもう少し捻出致しましょう」
「ドロシーの助力が得られるなら、俺には文句はない。前線でどうにか耐えるだけだからな」
「まぁ分かってくれたのなら何よりだよ」
俺がそう言うと、二人は部屋を出て行くのだった。
まったく、手のひら返しとはこの事だ。
ドロシー様々と言うべきかな?
俺は一人、心の中で愚痴るのだった。
次回更新予定は1月16日です。
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