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1-12

いよいよ戦争です。

第一王子領ランダバリー リオール


 エルフが子爵を負かして1か月。

 やっと方々への根回しが終わり、攻められる準備が整い始めたころ、国境軍から急報が舞い込んだ。


「リオール殿下、非常に面倒な事になりました。帝国が我らの国境を脅かしてきました」

「……このタイミングでか?」


 珍しく最初から神妙な面持ちで報告を持ってきたワーカーは、静かに頷く。

 ここまでの準備が水泡と帰すのはまだいい。

 ただ、このタイミングで攻めてきたという事は、裏で誰かが糸を引いている可能性があるという事だ。

 

「このまま子爵領を攻めるのは、不可能となりました。恐らくは……」

「オルビス(第二王子)の仕業か……」

「はい、こちらの根回しをごっそり横取りするつもりでしょう」


 確かにこのタイミングだとそれしか考えられない。

 だが、いくら何でも帝国に情報を売るか?

 彼の国が未だ王国の独立を認めていないのは重々承知しているだろうに。


「で、こちらの兵の終結状況はどうなっている?」

「大体5割完了と言ったところです」

「5割か……」

「国境軍の情報では相手はおよそ3万ということですから、恐らく守れるとは思いますが……」

 

 我が軍が約2万、国境軍が約5千。

 防壁などを考えると、まず抜かれる事はない。

 ただ、相手が3万だと恐らくこちらの余裕は無くなるだろう。


「致し方ない。1万の兵を連れて私は先行する。ワーカー、貴様は残りが集結次第ここの防衛用の部隊を残して国境に送る手配をしろ」

「はっ! かしこまりました」


 これで当面の間はどうにかなるだろう。

 ただ、その後の事は頭が痛い。

 恐らく防げたとしても、子爵領は第二王子(オルビス)のものとなるだろう。

 そうなれば、彼我の戦力差はかなり開いてしまう。


「できる限りこちらは戦力を減らさない様に戦う。そちらも有事の際は頼んだぞ」

「その辺りは承知しております。隙あらばこちらが奪う気持ちで」


 その後、私は国境へと兵を率いて走った。

 警戒をしていると言っても、ワーカーはそれなりに信の置ける家臣でもある。

 

「まさか奴が、祖父の力を借りるとはな……。安くもなかろうに」


 



子爵領ロンドマリー ディークニクト


 初夏の少し熱を含んだ風が辺りを駆け抜けるころ、一つの報告が俺の元へと届いた。

 

「……ついに来たか」


 俺がその報告を読んで一言もらすと、すぐに招集をかけた。


「各級の指揮官とクローリーを呼んでくれ。緊急事態だ!」


 傍にいた兵士が俺の言葉を聞いて、駆け足で部屋を出ていく。


 

 数分後、エルフの指揮官――アーネット、シャロミー、カレド、トリスタン――とウォルにクローリーの6人が部屋に集まった。

 俺は彼らを見回し、端的に敵の規模を告げた。


「敵が攻めてきた。相手は第二王子オルビス。規模は約1万5千だ」

「1万5千……」


 ウォルが相手の数を聞いてうめき声の様な声で反すうする。


「確か我々の軍は、エルフ6百、騎兵百、歩兵1千7百の計2千4百でしたよね?」

「約何倍だ? 5倍近い敵ってこと?」

「トリスタンにしては、よく計算できましたね」

「あ? 馬鹿にすんなカレド! 流石にこれくらいは……、って5倍はやばいんじゃないか?」


 5倍の敵。

 有名な兵法書ならしっぽ巻いて逃げろと言うくらいの差がある。

 実際にこれだけ数字が開くと、真正面からぶつかればまず間違いなくこちらが負ける。

 結局のところ、戦争とは相手よりも如何に多くの兵を集め、如何にそれを戦える場所に移すかで決まる。

 

「カレドとトリスタンの漫才はいつもの事として、どうするんだ?」


 アーネットが二人のやり取りを漫才と切り捨てて話を進めてきた。

 豪胆な彼でも緊張しているのだろう。

 いや、先ほどからチラチラとシャロを見ているから、恐らく妹が心配なだけだな。


「二人が言うように5倍の敵だ。そして相手も馬鹿じゃないから、開けた地をゆったりと前進してくるだろうね」

「開けた地をですか?」


 俺の言葉に反応したのはクローリーだ。

 彼は文官としての才能はあるが、武官としての才能は皆無なので、あまり意味を理解してないだろう。


「クローリー、大規模な戦闘で敵よりも数を揃えて来た時に狭い場所で戦ったらどうなる?」

「……前がつっかえて後ろが詰まりますね」

「まぁそうなるよな。んでつっかえた前ではどうなる? 本来なら包囲殲滅できるはずが……」

「正面でしか戦えない。ということですね」


 俺が地図の上で駒を並べて見せると、気づいたのだろう。

 彼の言葉を首肯してやると、少しうれしそうにしていた。

 

「でもディー、この辺りに狭い道って第二王子領のすぐ近くにしかなかったんじゃないの?」

「そうなんだよ。だから奴らと相対するのはどうしても開けた場所しかないんだよ」

「それって、八方手詰まりじゃないの?」

「それを覆すのが、俺の仕事というものだ」


 シャロの疑問に俺が胸をはって自信を見せると、全員が安堵した。

 俺としては、正直心臓バクバクで今にも吐きそうだけど……。


「で、その方法は?」

「簡単に言うと、夜襲と後方の糧秣部隊を狙う」

「糧秣部隊をですか? しかしルートが一つとは限りませんし、基本的に開けた場所ばかりなので、奇襲をかけにくいですよ」

「あぁ、その点は大丈夫だ。一か所だけ必ず通る場所がある」


 そう言って、俺がその場所を指さすと、全員が頷いた。

 そう、子爵領と第二王子領の境目にある森林地区だ。

 この二つの領地を結ぶ場所は、ここ以外だと他領を通るので現実的ではない。


「奇襲部隊はどうなさるのですか?」

「奇襲部隊は、トリスタンとカレドにそれぞれエルフ150人を率いてもらう。奇襲は必ず全部隊が通り過ぎてから行うこと。一人として見逃してはならない。後、子爵領から第二王子領へと戻る奴も見逃してはならない。もし見逃した場合は、その時点で作戦終了して、逃げるんだ」


 俺の言葉に二人が頷くと、次にアーネットの方を向いた。


「アーネットは騎兵を率いてほしい。君の脚力なら馬と同等の速さがある。その騎兵隊を持って夜襲をかけてもらう」

「夜襲? 騎兵が嫌がりませんか?」


 俺の指示に異を唱えてきたのは、ウォルだ。

 確かに夜襲とは難しいものだ。

 兵の練度、地理に明るいかどうかなどである。


「ウォルが心配するのはもっともな事だ。確かに夜襲は難しい。しかし今回については大丈夫だ」

「その根拠は?」

「まず、地理だがこちらの方がしっかりと把握しており、奇襲をかけやすいポイントを理解している。次に練度だが、少なくとも1か月ほどじっくりと鍛え直す機会があったので、不足はない」

「しかし、夜襲をかける可能性は向こうも考えているのでは?」

「それはおおいにある。なので、クローリー。君には大変申し訳ないが、大損してくれ」


 突然話を振られたクローリーは、驚いた様子でこちらを見ていた。


次回更新は5月30日を予定しています。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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