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エルドール王国 ディークニクト
二度目の使者を送って1か月。
どうやら今度も会えなかったようで、平伏して報告をしてきた。
「誠に面目次第もございません。何度も外出の許可を取ろうと申請したのですが、それすらも……」
「まぁ、致し方ない。長い期間になってしまったからな、一度家でゆっくりと休め」
使者だった男が部屋を出て行くと、主だった面々が今後の事を話し合い始めた。
「さて、報告を聞いた率直な感想をきかせてくれ」
俺がそう言うと、アーネットが声をあげた。
「敵の真意は、こちらへの侵攻であると明々白々だ。ここは国境の防備を固めた方が良いと思うが」
「ふむ、確かに備えあれば患いなしと言うからな。クローリーはどう考える?」
俺は、アーネットと斜め反対側に座っているクローリーへと視線を移した。
ちなみに、クローリーは先日少し遅れて宰相補の役職に就かせている。
「陛下、そこは先に宰相に下問なさるべきかと……」
「ん? あぁ失礼した。昔の癖でクローリーを先に呼んでしまった。トーマン宰相どう考える?」
俺が改めて宰相に問うと、初老の宰相はやれやれと言った様子を見せながら答え始めた。
「臣が思いますに、将軍の考えは理にかなっております」
「そうだろう、そうだろう」
「ですが、財政的には最悪の一手です」
トーマンがそう言い切ると、先ほどまで少し得意気だったアーネットが憮然とした。
まぁ、上げて落とされれば誰でも機嫌は悪くなるというものだ。
「トーマン、財政はそこまでひっ迫しているのか?」
「いえ、陛下。ひっ迫と言うほどではありません。今少し時間が必要なのです」
「というと?」
「現在我が国は、この大陸でも有数の商業都市と港を有しております。ですが、これまで戦続きだったのもあり、国庫がそろそろ尽きかけているのです」
「国庫を潤すにはしばらく時間が必要か……、どれくらい必要だと考えている?」
俺が再び問うと、トーマンは財務表を出して見せてきた。
「そちらの表にある程度の数字を載せておりますが、約2年はかかるでしょうな」
「2年!? そんなに時間をかけてはこちらがやられるぞ!」
トーマンの言った数字に、アーネットが驚きの声をあげた。
確かに2年は長い。
「トーマン、もう少し長い間隔で国庫を潤すと考えれば、どれくらい出せる?」
「……年数にもよりますが、10年を目処に考えればこれくらいは……」
そう言ってトーマンが示してきた数字も、とても足りないものだった。
「アーネット、少しきついかもしれんが一旦この予算で対策を練ってみてくれ」
「……馬防柵だけで防げと言う気か?」
「だが、これ以上は現状出せない」
俺が言い切ると、アーネットは頭をかきむしりながら最後の要求を口にした。
「では、魔法兵を1個軍貸してくれ。あとドロシーも技術部門の監督官として派遣してほしい」
「魔法兵は大丈夫だが、ドロシーは本人が行くと言わないと無理だぞ?」
「そこを説得してくれ。俺ではあの魔女は説得できないし、実験の材料にされてしまいかねない」
そう言って、アーネットは身震いしながら首を振った。
おそらくアーネットが、この地上で恐れる女性二人のうちの一人だろう。
ちなみに、もう一人はシャロというのは周知の事実だ。
「はぁ、王としては家臣仲良くしてくれる方がいいのだがな。まぁドロシーはどちらかと言うと、協力者くらいのものだが」
「だからこそ、王であり友であるディーが行くべきだ」
珍しくぐうの音も出ない正論で返してきたので、俺もため息を吐きながら了承した。
「では、他に何かあるか?」
俺が最後に全員を見回して問うと、特に誰も意見する気はなさそうだったので、終わりにした。
軍議を終えてから数日後、俺はドロシーの元に行っていた。
アーネットから言われていた件を話すためだ。
「……年々大きくなるなここは」
俺が、そうぼやきながら見上げる建物は、約4階建ての左右300mはあろうかという巨大な建築物だ。
これは、ドロシーが俺の所に居る間研究を続けられるようにする為に、建て増し続けている研究所だ。
俺が近づくと、小太りな男が息を切らせて駆け足で来た。
「陛下! はぁはぁはぁ……ご足労、ありがとう、ございます……。本日はどのようなご用件で?」
この男は、ドロシーの研究を補佐する為に居るいわば副所長だ。
「なに、ドロシーに用事があったので、ついでに研究所の成果も見に来たんだ」
「それはそれは、ありがとうございます! ではこちらにどうぞ!」
そう言って副所長が壁の一部に手をかざすと、地鳴りをあげながら扉が開いた。
「おぉ! これはどうなっているんだ?」
「魔力感知式の自動扉です。登録されている者がこちらに手をかざして魔力をながしますと、反応して開く仕組みになっております」
なんともまぁ、セキュリティ対策万全の研究施設じゃないか……。
俺が唖然としていると、副所長が中に入るように急かしてきた。
なんでもこの扉、一度開くとすぐに閉まり始め、完全に閉まると数分はロックされるそうだ。
便利なんだか、不便なんだか分からない代物だな。
俺がそんな感想を持ちながら、研究所の中へと足を踏み入れるのだった。
次回更新予定は1月12日です。
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