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5-29

大公軍 大公


 付近に敵の旗が見える中、やっとの思いで城に着く。

 見慣れた正面の門に向かって、大声で開門を叫んだ。


「開門せよ! 私だ! 大公だ! 早く開門せよ!」


 私が叫んでも、守衛たちの反応がない。

 そんな様子を訝しげに見ていると、一人の大男が城門の上に姿を現した。


「大公よ! 遅かったな!」

「だ、誰だ!? ここは私の城だぞ! 早く開けぬか!」

「誰だとはご挨拶だな。城で一度会っているのだが?」


 そう言われてよく見てみると、尖った耳をしているのが遠目から見える。

 そして、筋肉が肥大した様な体型。

 私はやっと、王城の謁見の間で見た巨漢の兵を思い出した。


「き、貴様は! 山猿の一人!?」

「山猿とはご挨拶だな。まぁ、何を言われても今は許せるがな」

「くっ! 貴様がそこで見下ろしているという事は……」

「やっと分かったか? 城は既に落ちているんだよ。護衛の兵にも告げるぞ! 傭兵なら大人しく大公を差し出せ! ここに家族の居る者は今すぐ降れ! 城内の市民に乱暴などは働いていないが、最悪拘束する可能性もある!」


 男がそう言うと、傭兵たちの中に明らかに動揺が走った。

 そう、彼らの中には家族をこの城で作った者も居るのだ。


「大公閣下、ここはまずいです。すぐさま離れましょう」


 隊長の男が、その動揺を感じたのだろう。

 私にすぐさま進言をしてきた。

 ただ、家族が居るのは兵たちだけではない、私もなのだ。


「あぁ、そう言えば言ってなかったな。大公の家族はこちらで拘束している! 自害をはかる恐れがあった! 今すぐ降伏して自害の必要が無いことを教えてやることをお勧めするぞ!」


 あぁ、何と言う事だ。

 あの妻が、あの息子たちが自害を……。

 私がふらりと前に出ると、隊長が大きな声で静止してきた。


「大公閣下! どうなさるおつもりですか!?」

「私は、降ろうと思う。そこな兵よ! 私が降っても家族には手を出さぬか!?」

「エルフの神に誓って!」


 それを聞いて安心した私は、隊長に向き直って告げた。


「隊長よ。ここまでの護衛ご苦労。私は降ろう」

「だがしかし! 貴方を守ると誓約した我々はどうなる!?」

「依頼は達成だよ。ここまで無事に運んできてくれたのだからな。そして私の家族の無事を聞くことができたのだから」

「くっ!」


 隊長は、何とも言えない悔しそうな顔をしていたが、これ以上は私も何も言えない。

 後のことは、あの巨漢のエルフに任せよう。



大公領 アーネット


 さて、大公が降ってくれたのは良いのだが……。


「……捜索を続けておりますが、依然として総主教の行方は全く分からず……」

「……ご苦労、引き続き捜索を続けてくれ」


 俺がそう言うと、報告に来た兵は申し訳なさそうな顔で退室していった。

 何にしても逃げ足が速い。

 おそらく敗戦を予知していたのだろう。


「ゲリラよりも質が悪いな、放っておいても面倒だが、探すのも一苦労とは」


 ディーからも、総主教を逃さない様にと言われている。

 まさか、あのどさくさで逃げられるとはな。


 俺が、この城を攻略したのは数日前になる。

 敵が出兵し、しばらく経ってから旅人に扮し、流民に扮して少しずつ城へと入れていたのだ。

 そして、一気に制圧する。

 ただそれだけだった。

 そして、その際にこちらの手で真っ先に行ったのが、城門の制圧だ。

 門を閉めて、閉じ込めれば逃げ道はない。

 そう考えていたのだが、その前にどうやら総主教たちは逃げていたのだ。


「城の制圧、その他やらねばならないことを終わらせながら捜索したが……」


 どうしても人手が足りない状況だった。

 キールが捜索に出ると言ったのだが、現状城の防備を回せるものが居なかったので断念したのだ。


「制圧は順調そうだな」


 俺が考え事をしていると、不意に声をかけられ振り向いた。

 すると、そこには今さっき来たのだろうディーたちが立っていた。


「おう、早かったな。こっちはある程度完了している。ただ……」

「先ほど捜索をしている兵に報告されたよ。総主教を取り逃がしたってね」

「面目ない……」


 俺がそう言うと、ディーは笑い飛ばしてきた。


「アーネットが殊勝な事を言っているぞ。これは珍しい」

「む……、俺だって申し訳ないとは思うさ。あれは面倒なんだろ?」


 ディーはそれを聞いて、少し真剣な目になりながら「蚤ダニと一緒くらいだ」と言ってきた。


「蚤ダニ?」

「まぁあれだ、命に別状はないがめんどくさいくらい痒くなるという事だ」

「なるほど、で今後どうする?」


 俺が、そう問うとディーは少し考えてから答えた。


「そうだな、統治は別の者を当ててアーネットとキールは帰ってきてくれ」

「分かった。あ、そうだ! ディーに推薦したい者が居るんだが……」

「これまた珍しいな。アーネットが人を勧めるなんて、どんな奴なんだ?」

「大公の傭兵をしていた者だ。守備の腕前は中々でな。俺の攻撃も耐えられていた」


 俺がそう言うと、ディーは本気で感心した様子で頷くのだった。


次回更新予定は12月中です。


※年末年始になりますので、思う様に執筆時間が取れない可能性があります。

※隔日12時に更新予定ですが、予定が乱れる場合があります。ご容赦ください。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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