5-28
別動隊 シャロミー
「さぁ! 手柄を立てるわよ!」
私の号令が響くのと同時に、突撃ラッパが鳴り響く。
敵は、既にこちらのおとりに引き寄せられて、陣の近くまで突出している。
横から、ただただ真っ直ぐに敵を突っ切るだけ。
それだけで敵は壊乱していく。
「敵将はどこ!? 出てきて私と戦いなさい!」
私が大声で周囲を圧すると、片腕の男が出てきた。
「私が大公だ! そこの女戦士相手になろう!」
そう言って武器を構えた男は、こちらをものすごい形相で睨んできた。
「必死という訳ね。ただ、聞き及んでいた大公とは違うわね」
「それは聞き間違いというものだろう。私が大公なのだからな!」
そう言うや否や男は、一足飛びにこちらに向かって距離を詰めてくる。
その刹那、相手の動きに合わせて私が出した槍が喉を突く。
「ごふっ! ぐ……、もうしわけ……」
男は何事かを漏らすと、そのまま倒れてしまった。
まぁ、十中八九大公ではないけど構わない。
今は一つでも多くの首と大公の首をあげないと。
私はそう思って、敵本陣を目指した。
「さぁ! 敵を徹底的に叩くわよ! 野郎ども! 私を追いかけてきなさい!」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!」
若干嫌らしい目をしている奴が何人かいるが、まぁこの際気にしない。
兎に角今は、大公を探し出すこと。
これが一番なのだから。
そう自分に言い聞かせて暫く騎馬を走らせると、ひと際人の多い集団を見つけた。
おそらくあれが本丸、本命の大公に違いない。
「さぁみんな! 敵大将はあそこよ! 大公を倒せば褒美は思いのままよ!」
私が最後とばかりに発破をかけると、男たちは気炎を上げて突撃を開始した。
だが、流石は本丸。
先ほどまでの雑魚とは違い、守りが非常に硬かった。
それも並大抵の硬さではない。
「シャロミー様が見ている――げふぅ!」
「ここが男の――あぎゃ!」
「さぁお――うぼぉ!」
一瞬でこちらの兵が、一方的に叩かれているのだ。
流石に少し勝手が違う事が分かった兵たちは、一瞬勢いを失って止まってしまった。
ここに居る相手が、少なくとも一人一人が私と同じくらいの実力だという事を察知したのだろう。
「シャロミー様、ここは退くべきでは?」
私のそばに居た兵が、そっと耳打ちをしてくる。
確かに実力差があり過ぎる。
それに第一目標の敵の壊乱は既に終わり、掃討戦に移行している。
「……、ここで時間を潰しても手柄を逃すだけね。みんな! 退くわよ!」
私がそう言うと、数名の兵が自主的に殿をしながら少しずつ後ろに下がっていく。
敵は、流石に要人警護をしているからか、一切追いかけずむしろ向こうも後ろに下がり始めるのだった。
大公軍 大公
先ほどの女戦士、あのなりで恐ろしいほど強かった。
護衛の傭兵たちを雇っていなければ、恐らくやられていただろう。
私がそんな事を考えていると、傭兵の隊長が進み出てきた。
「大公閣下、この戦負けです。今は退却をお考え下さい」
「な! し、しかし! ここで私は負けられんのだぞ!?」
「ですが、引き返して城に籠らなければ恐らく大公閣下の首が晒されます」
「うぐっ……」
確かにここで逃げれば、最悪捕まることは無いかもしれない。
だが、それは私の野望がほぼ潰える事を意味している。
「大公閣下、ご決断を!」
「ぐぐぐ……、分かった。退却ラッパを吹かせろ」
「ご英断、感謝いたします。大公閣下の命令だ! すぐさま退却ラッパを吹かせろ!」
私が了解するのと同時に、男はきびすを返して兵たちに命令を伝え始めた。
流石に護衛を専門にする傭兵だけあって、手際が良い。
「我々は兵たちよりも先に城へと入るぞ! 大公閣下、荷物は必要最低限にさせていただきますが、よろしいでしょうか?」
「うぅ……、好きにせい」
「はっ! すぐさま荷物を必要最低限にしろ! 食料は今持っているもので逃げるぞ! 武器は近距離兵装のみ! その他は捨てて構わぬ! 急げ!」
命令が下るのと同時に、兵士たちの動きが加速する。
一瞬で準備を整えた兵たちは、すぐさま私の周りを固めて動き出した。
「大公閣下、ここからは強行軍で進みます。先に無礼をお詫びしておきます故、なにとぞご理解を! せや!」
男はそう言うと、私の馬に一鞭入れてきた。
馬が駆け始めると、兵たちも周りを固めて走って行く。
しばらく走ると、すぐに森を抜けて開けた場所へと出た。
ここから城まではそう遠くない。
後は、キールに会いさえしなければ。
そんな事を考えながら走っていると、傭兵たちが崖の上を指差しているのが見えた。
私も彼らの指につられて見てみると、なんと敵軍の旗が立っているのだ。
「な、おい、どうにかならないのか?」
「どうにかと言いましても、ここに居るのは精々100に満たない兵たちです。それにあの旗は動いていませんから大丈夫でしょう」
「ほ、本当に大丈夫だろうな? 嘘ではないだろうな?」
「ご安心を、大丈夫です。我々がついておりますからな」
本当に大丈夫なのだろうか?
私は何とも不安になりながらも、駆け続けるのだった。
次回更新予定は12月24日です。
今後もご後援よろしくお願いいたします。
※クリスマスは苦しみますですorz




