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5-27

平野 ディークニクト


「敵の動きはどうだ?」


 シャロに俺が声をかけると、彼女はこちらを見ずに答えてきた。


「降伏勧告をしてからこっちに向かう速度が上がったわ」

「となると、流民が嫌がっていたのだろうな。前線に出るのを」

「……あぁ、あれね。確かに見えるわ大公の兵が」


 シャロはそう言うと、俺の方を見て手招きをしてきた。

 物見台、と言っていいのかどうかも怪しいくらいの低い建物によじ登ると、俺はシャロと肩を寄せて敵軍を覗き見た。


「なるほど、督戦隊ではなく盾兵をきっちりと並べて押し出しているのか。確かにあれだと前にしか進めないな」

「それに督戦隊を作ってないって事は、こっちに一方的に流民を殺させる気よ」

「それはえげつない手だ」


 俺がそう言うと、シャロも横で頷いてきた。

 ゲスな手を使ってくる奴には、ゲスな手を返してやりたいが恐らくまだ使えない。


「とりあえず、督戦隊が居ないのならこっちにもやりようがあるな」


 俺はそう言って物見台から降りると、シャロも付いてきた。


「やりようがあるって何をするきなの? 敵は多分流民の家族を人質にしているかもしれないわよ?」

「いや、それはないな」


 俺がきっぱりと言い切ると、シャロは少し驚いた顔をした。


「なんで言い切れるか分からないって感じだけど、恐らく相手はシャロが言ったように流民殺しを俺にさせたいのだろう。けど、そうなると彼が人質をとっていた場合、それが露見したら目論見がほとんど達成できなくなる」

「まぁ、確かにディーの名声を地に落としたいなら自分は手を汚せないものね」

「そうなんだ。だから相手が取った手段は、動ける奴全員を連れてきたってことだ。そうしておけば、女子供も混ざる。俺がそこに容赦なく攻撃を加えれば、敵は……」

「女子供も殺したと非難できる。という事は、家族がバラバラの可能性は無いって事ね」

「そういうこと。だから次は、流民相手に降伏勧告を出す。というか彼らをこちらに引き抜く」


 俺がそこまで言うと、シャロは少し嬉しそうにこちらを見てきた。

 何が嬉しいのかは分からないが、まぁいい。

 納得していないよりはずっとマシだからな。

 そんな事を考えながら、近くに居た伝令兵に俺は命令を伝えた。


「まずは、降伏勧告を『抵抗するなら死を、武器を捨てるなら生を』と言ってやれ」


 命令を聞いた伝令兵は、すぐさま走り去っていった。


「それじゃ、私は部隊を指揮するために行くわね。次の一手は左右からの騎馬突撃かしら?」

「そうなるね。ただし、敵がこちらに来てからだけど……って出る気!?」

「当たり前よ、ちゃんと戦果を出して褒美をそろそろ貰わないとね!」

「え? ちゃんと俸給とかは出して……」

「そっちの褒美じゃないわよ?」


 そう言うと、シャロは何か含みのある笑みを浮かべながら部隊へと移動するのだった。




大公軍 大公


 敵の動きがおかしい。

 先ほどから流民を遠巻きにしながら何か言っている。


「おい! 一体敵は何を言い始めた!? 状況を調べてこい!」


 私が、近くの兵に前線の様子を見るように言うのとほぼ同時に、伝令が走りこんできた。


「大公閣下! 大変です! 流民が、流民が……」

「落ち着いてしっかりと報告しろ!」

「はっ! 流民がほぼ全員敵側に寝返りました!」

「はぁ!? 寝返っただと!?」


 私は伝令の言葉を聞いた瞬間、素っ頓狂な声をあげて繰り返していた。

 それは、周囲の側近たちも同じで、混乱していた。


「流民は全部で2~3万も居るのだぞ!? それがほぼ全員寝返っただと!? 奴らはこちらに槍を向けているのか!?」

「い、いえ、寝返ったと言っても奴らが敵方の陣に入って行ったという事でして……」

「な、なんという……」


 あれだけの流民を受け入れたと?

 私でもあれだけの流民が出てはどうしようにもないのに、受け入れたと?

 山猿であるエルフたちが……。


「で、ですが、ここは考え方を変えられると思われますぞ! 閣下!」

「考え方を変えられる? どういうことだ?」

「流民が流れたことで、こちらは動きやすく、敵は動きにくくなったと」


 なるほど、確かに側近の言う通りだ。

 確かに兵法にも、守備側は移動を素早くして攻撃に対処する必要がある、と学んだ事がある。

 確かにあれだけの流民を抱えれば、一気に動きは鈍化する。


「なるほど、確かにそうだ! よし! 全軍堅陣を解いて、すぐさま敵の陣営に突撃をかけろ!」

「おぉ!」


 私が命令を発すると、各所に伝令が行き渡る。

 そして、頃合いを見てラッパが一吹きされる。

 そのラッパを合図に、陣形が密集して盾を構えていた堅陣から、突撃体制に移行されていく。


「いざ進め! 栄光ある王国の為に!」

「我ら栄光の使徒! 我ら正義の使徒!」

「突撃ぃぃぃぃぃ!!!」

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」


 こちらの突然の突撃に、前に出てきていた敵は慌てて陣へと引き返した。

 だが、遅い。

 前にいる流民が邪魔をして、思う様に動けていない。


「よし! これで我らの勝利だ!」


 そう確信した瞬間、突撃体制に入っている部隊の横から突撃ラッパが鳴り響くのだった。


次回更新予定は12月22日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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