5-26
先日はすみませんでした。
更新を押したつもりが、押せてなかったようです。
物見の報告があってから1時間、一向に敵が近づいて来ない。
いや、正確にはじわじわと、だが確実にこちらに敵軍は近づいてきた。
一応彼らから、こちらの前にある落とし穴は完全に見えない窪地につくっている。
だが、あんなに遅く動かれては落ちる事はないだろう。
「なんとか落とせないものかな……」
「あれだけゆっくりだと、落ちないわよね」
俺とシャロが見ているだけでも既に1時間近く経っているが、未だに敵は少しずつしか進んでこない。
後方との間に連絡齟齬が起きているのだろうか?
「……じれったいわね。私が様子を……」
「シャロ、君は俺の護衛だろ?」
「うっ……」
シャロはよく、アーネットと一緒にされるのを嫌がるけど、性格的には本当にアーネットにそっくりなのだ。
特に、じれったいのが嫌いなので相手の動きを知ろうと直線的な行動を取る所なんかは、瓜二つだ。
「それに相手の動きが微妙なのは、後方が何か仕掛けようとしてわざとやっているかもしれないからね」
俺がそう補足すると、彼女は頷いて思いとどまってくれた。
だが、確かに敵の動きはおかしい。
普通、流民などに武器を持たせたなら、督戦隊などを作って素早く動くように指示を出すものだ。
しかし、今目の前の敵を見ているとそんな様子は微塵も感じられない。
「督戦隊が居ないのは、おかしいな。それとも別の狙いがあるのだろうか?」
「流民だけなのよね?」
流民だけの部隊を先行させ、督戦隊を置かず、遅々として進まない軍を良しとする理由。
……何かが引っかかるが、なんなのかが分からない。
「とりあえず、流民に対して降伏勧告を出そう」
「督戦隊が居ないとは言っても、そんなに簡単に降るかしら?」
「こういうのは、ダメもとで言っておくものだよ。後は形式的なものでもあるし」
俺はそう言うと、伝令兵に降伏文章を書いて渡す。
あとは、彼がうまい具合に言ってくれたら終わりだ。
「後は、敵の動きを待とう」
大公軍 大公
敵が先ほどから、降伏勧告を大音声で放ってきた。
内容は簡単なものだ。
1、戦闘行為を即時中止して降ること。
2、貴賤などの身分に関わらず、全員の命を保障すること。
3、ただし、総主教と大公の身柄は差し出すこと。
4、以上の行動が見られない場合、戦闘行動に移行する。
この4項目だが、第三項がいただけない。
総主教は別として、何故私まで身柄を拘束されねばならないのか。
この降伏勧告を私たちは、一蹴した。
「さて、流民軍の動きはどうだ?」
「遅々として進みませんね。一応後ろから我が軍が進んでいるので、押されて出て行っているという感じですが」
「やはり今からでも督戦隊を編成して派遣しては如何ですか?」
側近などから、何故督戦隊を置かないのかと質問が飛び交う。
私としても、以前説明をしたが理解が足りていないようなので、再度説明することにした。
「督戦隊を置かない理由だが、こちらが主導して流民を戦場に送り込んでは、奴らに正当性が与えられる。今回、彼らにはあえて自分から進んで戦地に入ったという事にしたいのだ。そうする為にも、督戦隊を置いては意味が無いのだよ。これは政治的な判断というやつだ」
「……確かにそうですが、ですがその為に軍の中でも最上位に位置する『兵は拙速を貴ぶ』を捨てても良いのかどうか……」
かの英雄シマヅの教えか。
確か、『ソンシ』という兵法書を書いたのだったな。
私も過去何度か読んだことはある。
だが、それでも今回は、政治的な判断を優先しないといけない理由があるのだ。
「相手は民衆の人気を得ようと必死だ。こちらはその足をすくう一手を打ってやればいい」
「では、我々は負けない様にすれば良いという事ですか?」
「そう言う事だ。守ることを考えれば、兵は拙速を貴ばずともよく、巧遅を旨として動いても問題ない」
「なるほど! 流石は大公閣下ですな!」
私の発言を側近たちも感心してみていた。
そう、私たちの勝利は、軍を動かした時に決まっているのだ。
大兵力だけではなく、民衆への反感も彼らに向けられるように動く政治力。
これらがあって、初めて国は動くのだ。
「武力でしか解決できない山猿たちに、目にもの見せてやるのだ」
「はっ!」
説明を今度こそ理解したのであろう。
側近たちは、一斉に動き始めた。
自分の部隊に戻り、兵たちに流民の後ろから圧をかけるように促していく。
そのおかげもあって、少しずつ、少しずつ進むスピードが速くなってきた。
「よしよし、いいぞ。この調子で進めば敵が流民を片付けてくれる」
私は一人、そう呟きながらほくそ笑むのだった。
次回更新予定は12月20日です。
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