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1-11

昨日あげ忘れてすみません。

第二王子領キングスレー オルビス


 第二王子オルビスの渾名は様々ある。

 その中でも特に彼の気質を表しているのは、餓狼だろう。

 彼の領土欲を表したものだが、隙あらば攻め込み、奪い、自らのものとする。

 些細な出来事すらも彼には大義名分となるのだ。

 否、大義名分にしてしまうのだ。

 そんな彼の元へ、一通の手紙が届いた。

 送り主は、先日までこのキングスレーで喚いていた第三王女である。

 彼は、侍従が届けたその手紙を気だるげに開き読み始める。


『前略、オルビス兄様。現在私はフルフォード子爵領にて逗留しております。暫くここでエルフの様子などを観察しようと思いますので、ご心配なさらずに 早々』


 そう短く書かれていた手紙を読んだアルビスは、ニヤリと口元を歪める。

 

「馬鹿な妹が。格好の大義名分を送ってくれたか」


 彼はそう呟くと、頭の中で思案し始める。


「恐らく妹の性分からすると、あの早く生まれただけの(リオール)にも同じ手紙を送っているだろう。そして、兄の性分を考えると、恐らく俺が攻め込むのを待ってから大義名分を得て参戦と言ったところか」


 彼はそこまで考えると、紙と筆を用意して何事かを書き始め、書き終わった手紙に蜜蝋で印をし、傍に控えていた侍従に手渡す。


「良いか、どのような事があっても奪われず、〝御祖父殿〟に届けよ」

「はっ! 命に変えましても」


 従者は手紙を懐にしまい込むと、急ぎ部屋から出て行った。

 その従者と入れ替わりに入ってきたのは、筋骨の逞しい男だった。


「ん? なんだネクロスか。何か用か?」

「今しがた報せが入りまして。こちらをご覧ください」


 差し出された手紙を読んだオルビスは、眉をしかめた。

 それもそのはずである。

 後ろの中立を宣言していた領主たちがこぞって第一王子リオールの味方になったのだ。

 そして、それぞれが独自にオルビス支持派の領地へと侵略を開始しようとしているというのだ。


「さて、どうしたものか……。ネクロスならどうする?」


 餓狼と渾名されるオルビスだが、彼には他に無い美点があった。

 それは、配下への信頼である。

 彼は、軍事に関してはあまり詳しくなく、その点についてはネクロスを信頼していた。

 

「そうですな。敵が個別に攻めているのでしたら、こちらは軍で動くべきでしょう。本隊から数名の士官と兵を送って、端から順に敵対貴族を討って行けば自ずと片付きましょう」

「各個撃破、という奴だな」

「左様でございます。流石はオルビス様」

「いくら軍事に疎いと言っても、流石に私でも知っているぞ。それでは、その派遣する士官と兵の選定は貴様に任せる」

「はっ! すぐさま準備をさせます」


 ネクロスはそう言うと、駆け足で部屋を後にした。

 その後ろ姿を見守っていたオルビスは、その後の展開を頭に描き、どう処理をしようかと考えるのだった。




エルフの里 シャロミー


 ディーがエルフの里から子爵領に出かけて早1か月。

 まったく音沙汰がないのは、如何なものだろう。

 いや、もちろん私が彼と恋人関係にあるとかそういう訳ではないのだが。

 ディーが子どもの頃に街へと入り込んでいた時以来だ。

 私が何とも言えない感じで居ると、兄であるアーネットが声をかけてきた。


「シャロミー、そんなに気になるなら街へ一緒に行くか?」

「だだだだ誰が気になって……」


 急にディーに会いに行くかと言われた私は、上ずった声で返答してしまった。

 うぅ~。この慌てる所が私のまだまだな所なのよね。

 そんな慌てている私をあきれる様な目で見ていたアーネットは、私の手元を指さしてきた。


「いや、気になるんだろ? 少なくとも武器の手入れをしながら洗濯物を滅茶苦茶にするくらいには」

「は? へ? えぇぇぇぇ!?」


 指摘されて手元を見て驚いた。

 先ほどまで洗濯物をたたんでいたはずなのに、なぜか武器を手にして手入れを始めている。

 それも洗濯したての布を使ってだ。

 これでは折角洗濯したのに、汚れてしまって使い物にならない。


「本当は、お前には武器を持ってほしくない、……というか、家に居てほしいんだが」


 アーネットはそう心配しながら私を見ている。

 まぁ家族としては、それが正常なのだろうが、若干というか、彼には恐ろしいところがある。

 私がこれまで色々な男の子と仲良くなろうと努力してきたが、何故かことごとく上手くいった試しがなかった。

 ただ、男の子と話していると後ろから視線を感じるので、背後を確認すると何故か毎回アーネットが居るのだ。

 最初こそただの偶然と思っていたのだが、男の子と話そうとする度に目に入り、しかも睨んでいるのだ。

 ただ、そんなアーネットでもディーの傍に居る時だけは何もしてこなかった。

 流石に幼馴染で友達のディー相手には、できなかったのだろう。

 しかし、ディーの方が今度は遠慮している節があるのだ。

 何せアーネットの異常ともいえる行動を目の前で何度となく見ているのだ。

 嫌でも遠慮するというものだろう。


「そんな事も言ってられないでしょ? ただでさえディーの所には兵が少ないんだから」

「だが、ん~」


 心配と友人への義理に挟まれて苦悩しているが、まぁ押しきれるでしょう。

 というか、これまでも結構押し切っているので、正直なところ不安はない。


「それよりもすぐに荷造り始めましょう! ディーの所へ行かないとね!」

「まぁ、そうだな。とりあえず、着替えと俺の武器と……」


 これでもうぶつくさ言われない。

 というか、これで誤魔化される兄の今後が若干心配ではあるけど……。

次回更新は5月28日を予定しております。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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