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5-20

大公領 大公


 あれから数日、どうやら総主教の行脚は成功したようで、街には続々と男手が集まっている。

 流石にまだ地方までは報せが回っていなかったのが幸いしたし、報せ事態を奥地には届けていなかったのが良かった。


「大公閣下、各村から続々と男手が集まっております。もう間もなく予定しておりました10万を超えるかと」


 私の横で、内務官が現状の報告を淡々と行っている。

 これで数は揃った。

 後は、敵を圧殺するだけだ。

 流石に数万の軍勢を倒せるものなど、絵物語の中の存在だけだ。

 後は、細かい作業だけで終わる。

 私がそう考えていると、ドタドタと騒がしい足音が廊下から響いてきた。


「すぐさま閣下にご拝謁を! 緊急事態である!」


 ドアの外から聞こえてきたのは、軍事を任せている側近の一人だ。

 彼が部屋の前に居た守衛にそう言うと、乱暴にドアを開けて入ってきた。


「緊急事態故に失礼します! 敵が近くの集落を襲撃し始めました! 近くの村の民がこちらに向かってきております!」

「落ち着け、数は? 近隣の村はそこまで大規模では無かっただろう?」

「そ、それが、数が膨れてきており、1万を超え始めております!」

「1万!? 1千の間違いではないのか!?」


 予想外の数字に驚いた私は、近隣の村の状況を内務官に問いただした。


「おい! 一体どう言う事だ? 近隣の村は全て合わせても万は超えなかっただろう?」

「そ、それが、ここ最近難民が一気に増えまして……」

「難民……っ! あれか!」


 そう、その難民とは第一王子領で起こった戦闘の余波で逃げざるを得なかった民たちだ。

 第一王子領の戦闘が終了したので、帰ったものだとばかり思っていたがとどまっていたらしい。


「まさか!? 私が王都から脱したのを見て、対策を何も打たなかったのか!?」


 そんな深慮遠謀誰が分かる? いや、流石にこれは偶然をこじつけ過ぎているか?

 グルグルと頭の中で色々な考えが浮かんでは消える。

 一瞬の間に何度か考えたが、上手くまとまることは無かった。


「……来ているのは難民だけか?」

「いえ、近隣の村の者も来ております。私の出身の村長から聞きましたのでまず間違いないかと」

「うぐぐぐぐ……、食料の余剰はどれくらいある?」

「何分行軍した経験がございませんので正確には分かりませんが……」

「構わん! おおよそで構わぬから言え!」


 私が内務官の胸倉を掴んで問いただすと、内務官は少しの言い訳を挟んで答えた。


「お、お聞きした話から考え、総備蓄量を考えて持って1週間、いえ5日もありません」

「い、5日もないだと!?」


 私の問い返しに内務官は、ややためらいがちに頷いた。

 たった1万増えただけで、1週間以上の食料が1週間を切るなんて……。


「も、元々の計画が敵領に入り、食料を奪取し、そして行軍を続けるという形でしたので備蓄をあまり考えずに兵を集めておりました。ですので、どうしても領内に残す量を考えると、1週間分すらなくなってしまいます」


 胸倉を掴まれながらも、内務官が答える。

 その答えを聞いた私は、愕然として掴んでいた手を放して考え事に没頭し始めた。


「……いっそのこと、流民を見捨てるか?」


 私がボソッとそう言うと、内務官と側近が血の気を消して訴えかけてきた。


「な、なりませんぞ! それだけはなりません! 暴動が起こりましょう!」

「そうです! そんな事をしてしまっては今後の統治にも影響をきたしかねません!」

「ではどうしろと言うのだ!? 既に10万の兵と4万の領民を抱え、ここにまだ1万の流民も抱え込むのか!?」


 私がそう二人を怒鳴りつけるのと同時に、一人の男が遠慮がちに口を挟んできた。


「あ、あの……閣下? 先ほどから総主教猊下の一行が2万の民を連れて帰ってこられましたが、如何いたしましょうか?」

「2万!? 私は1万で十分と言ったはずだが!? それもできる限り体躯の良い者を選別してと!」


 私がそう言うと、報告に来た男は少し視線を泳がせながら、「えっと……あの……」と続けてきた。


「わ、私が見た限り女子供老人も混ざっておりました……。それも飢えた様な者まで」


 それを聞いた瞬間、私は天を仰いだ。

 総主教は、ただただ戦で使えない者ばかりを『2万』も集めてきたのだ。


「あの、アホ主教め! 私には願いを叶えるランプも、何でも出てくる魔法の袋もないぞ!」

「閣下……、ここは常備軍を解いて、難民だけで当たっては如何でしょうか?」

「……それは流石に、従軍経験のない私でもダメだと分かるぞ」

「そう、ですよね……。ですが、食糧問題を解決するためにも彼らを捨て石にし、非難を避けてはどうでしょうか?」

「……あわよくば、相手の方に押し付けるか?」

「えぇ、そうすれば、彼らが今度は食糧難に喘ぎましょう」


 側近の提案を聞いた私は、しばし考えてみた。

 現状の食糧難をどうにかせねばならないが、ここで民草を見捨てたなどと言われてはたまらん。

 なにせ、今後の統治にも影響をきたしかねないのだ。


「……よし、それで行こう。適当な指揮官をつけて難民に食糧を2食分ほど配れ。次が欲しければ戦えと言っておけば、死に物狂いで戦うだろう。あ、あと武器は適当なものを渡すように、正規に支給するものは渡すなよ」

「はっ! 進言をお聞き届けいただきありがとうございます。すぐさま準備をしてまいります」


 こうして、我が軍? いや、我が領内から流民軍が編成されて出撃するのであった。


次回更新予定は12月8日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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