5-19
大公領付近 アーネット
ディーに言われて森へと着たが、聞いてた情報より潜伏する場所がない。
理由としては、大公側で大規模な伐採を行われているという点だ。
これには早い目に探りを入れさせたので、原因が分かっている。
どうやら、総主教たっての願いで大公領に大規模な聖堂をつくる為に伐採されたようだ。
「しかし、参ったものですな。こうも森が減っていては、こちらも動きようがありませんな」
「確かにな。この事は一度ディーに知らせておこう。対策を講じなければならない事態だ」
俺がそう言うと、キールは手早く近くに居た兵を一人呼び出して伝令に任命した。
任命された兵が駆けだすのを見送ってから、俺達は再び今後の策を話し合った。
「さて、当初の予定ではここら一帯を使ってゲリラ戦という予定だったが……」
「森の半分近くが無くなっておりますからな。とてもではないですが無理でしょう」
「だが、ここで無理だと言って何もしなければ、足止めの予定が崩れる。それは本体に直結する危機になる」
俺がそこまで言うと、キールは意外そうな顔をしてきた。
「なんだよ? 俺がここまで考えてたら意外か?」
「あ、いえ。顔に出ておりましたな、失礼しました。ただ、どちらかと言うと肉体労働が専門と思っておりましたので」
「本当はそうしてたい。だが、現状それでは間に合わんだろ? 一応最低限度の事は、ディーに教わっているしな」
俺が、肩を軽く上下させながら「ま、あんまりやりたくないけどな」と付け加えると、キールは苦笑してきた。
それに、作戦を考えるのは俺よりも頭の良かったディーとカレドの方が上手い。
だから、俺は肉体労働を専門にしていたんだが。
俺はそんな事を少し考えてから、思考の片隅に追いやって今後の策を考えた。
「まず、ゲリラ戦は行う。ただし場所を変えなければならない」
「場所を変えるとは?」
キールの質問に、俺は地図を指差した。
「この森でのゲリラ戦は現状では効果が激減している。なら、相手の軍を遅滞させる為に、敵の本拠地の側面を少しずつ攻撃して行こう」
「村々を焼くと?」
「そうなるな。ただし、焼くのは村の家だけだ。田畑は既に刈られているだろうからな」
俺がそう言うと、キールが頷いてきた。
村の住人には手厚い補償をしてやらねばならない。
戦が終わったら保証する旨をしたためて、手形としておくのが良いかもしれないな。
「村人にはしっかりと言い含めて大公には、村が襲われたとだけ伝えるようにと言っておこう」
「それが何十人も何百人も来たら、大公も堪ったものではありませんな」
「では、そちらはキールに任せる」
「アーネット殿は?」
キールが俺も一緒に来るのだろう? と言わんばかりの調子で問いかけてきた。
まぁ、そう考えるよな。
だけど、それだけじゃダメなんだ。
「なに、俺は進軍する敵の側面を叩いては逃げ、叩いては逃げを繰り返してくるさ」
「それは無謀では? それにそういった類の作戦は禁止されたはずでは?」
キールの言いようは、もっともな事だ。
だが、こればかりは今回は違う。
「当初の作戦が崩壊したんだ。状況は刻一刻と変わる。現場では指揮官の判断が優先されるのが、軍の常だ」
「確かにそうですが、それは軍の方針を超えない範囲でのはずですぞ」
「方針は超えていない。俺たちに課せられたのは、『遅滞戦闘』と『撤退する敵のとどめ』なんだから」
俺がそこまで言うと、キールはうなって考え始めた。
詭弁とは分かっていても、確かに言ってることは間違ってないのだ。
しばらくうなっていたキールも、これ以上は無理と判断したのだろう。
ため息と一緒に頷いてきた。
「分かりました。確かに状況も変わって、おっしゃるように課せられた方針にも従って打てる手を打っている」
そこまで言うと、キールは一息ついてから「ただ」と続けた。
「役割を交代しましょう。私が奇襲部隊をアーネット殿が村を焼く方に行きましょう。そうすれば、恐らくディークニクト様にも言い訳がたつでしょうから」
「な、それでは俺が暴れられないじゃないか! ……あ」
咄嗟に出てしまった言葉に、キールの痛い視線が注がれる。
だが、口をつぐんだところでもう戻っては来ない。
やれやれと言った様子で、キールが首を振ってきた。
「それが本心にあるから、怖いのですぞ。村を最低4つ焼いてからこちらに来てくだされ。敵も両側面から攻撃された、となったら浮足立つでしょうからな」
「はぁ……仕方ない。分かったよ、キールに襲撃を任せる。俺は村を焼くよ」
「では、よろしくお願いいたします」
こうして、俺達はそれぞれの作戦に分かれるのだった。
次回更新予定は12月6日です。
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