5-18
王城執務室 ディークニクト
さて、大公の狙いは概ね分かっている。
大軍を擁しての圧殺だろう。
だが、それを防ぐ方法が今のところない。
「経歴には兵を率いたことはおろか、従軍経験もないとなっている。これを信じるなら……」
作戦を考えていると扉をノックする音が響く。
「どうぞ」
一言簡潔にそう言うと、入ってきたのはキールとアーネットだった。
二人とも少しばかり汗ばんでいるので、恐らく稽古をしていたのだろう。
「ディー、作戦は決まったのか?」
「お呼び出しとお聞きしましたので、参上いたしましたぞ」
アーネットは、そう言いながら部屋のソファーに腰掛ける。
対してキールは、椅子の近くで直立不動の姿勢をとっていたで、手で座るように指示した。
「一応対策は考えた。ただ、これが果たして作戦と言えるかどうかは、別だが」
俺はそう言うと、二人の前に地図を持っていき、広げて説明を始めた。
「まず、敵の兵力、状況などを考えた結果、このでっかい平原を主戦場とするだろう」
そう言って俺が指さしたのは、元第一王子領と大公領をつなぐ街道沿いの平原だ。
この平原は特別起伏が激しいわけではないが、それでも平坦とは言えない場所だ。
「兵力差は確か3倍程度でしたかな?」
「あぁ、普通に相手が戦慣れしていたら逃げ隠れしながら相手するところだ。だけど、相手は戦慣れしていないそこで、キールとアーネットに一軍を率いてもらおうと思う」
俺がそう言うと、二人は頷いた。
「どのような形で戦えばよろしいのでしょう?」
「戦い方は、ゲリラ戦法だ」
「ゲリラ戦法? はて、聞いたことのない戦い方ですな」
よく分かってないキールをよそに、アーネットが嫌そうな顔をする。
それもそのはずだ、正々堂々真正面から戦いたいアーネットにしてみれば、ゲリラ戦法は邪道。
それに、子どもの頃にそれを駆使して戦う方法を教えたが、性格的に彼には合わないのだ。
手短にキールにゲリラ戦法のやり方を告げると、アーネットが文句を言ってきた。
「また、泥にまみれて草木に隠れってさせる気か? 俺一人で正面から突っ込む方が余程良いと思うんだが?」
「それは、単なる捨て駒だと何度も言ってるだろ? それに今回は、ゲリラ戦で全部を終わらせる気は無いよ」
「ほかにも手を考えたのか?」
「あぁ、それがこれだ」
俺が指さしたのは、本陣の前だ。
「なるほど、チクチクと嫌がらせをしてからという訳ですな」
「あぁ、なるほど。そこで撤退しようとした奴らをまた俺達が倒すという訳だな」
「まぁ、そう言う事だ。あと君たちの存在は、今回の戦いの前にできる限り消したい。なので、千名の兵を連れて平原の前にある森へと移動してくれ。補給については、集積所を急ぎ開設する。地図を持って行ってくれ」
俺が手元にあった地図の写しを渡すと、彼らは頷いて出て行った。
さて、後はシルバーフォックスに敵の間者を捕えさせないとな。
大公領
数日前から王都に放った間者からの連絡が途絶えてしまった。
王都にある我が別邸に隠れさせたりしていたのだが、どうしたのだろう。
「大公閣下! 間者からの連絡がありました」
「なに!? 寄越せ! 一体何が……」
手紙を持ってきた官吏からひったくると、私はその内容に目を通し愕然とした。
「……別邸だけでなく、その他全ての間者が捕えられただと!?」
私が、王都に放っていた間者は合計で100名程度。
その半分は別邸を本拠地としてメイド、執事の格好で動かしていた。
もちろん、普段からメイドや執事が制服のままで外に出るように指示しているので、何らおかしいことは無い。
そして、残りの半分はスラム、安宿、商人などありとあらゆる者に化けさせ潜り込ませていた。
なのにだ、そのほぼ全てが捕えられ、隠れ家も消されたのだ。
「あり得ない。なぜ全てを……」
そこまで考えた私は、一つの可能性に行き当たった。
そう、シルバーフォックスだ。
奴らを過去に雇って仕事をさせたことがあったのだ。
ただ、その時はこちらの使っている一部の隠れ家を教えただけだ。
その大半は、知らないはず。
「どうしたものか……。いや、まだ私には総主教に頼んだ策がある。あれが成功すれば」
総主教には、現在作戦遂行の為に領内の各地を馬車で回ってもらっている。
恐らく近日中に戻ってくるだろうが、屋敷には今居ないのだ。
「後は、何を……、くそ! こんなことなら従軍ぐらいしておくのだった!」
私は、ぼやきながら頭をむしるのだった。
次回更新予定は12月3日です。
※すみません、3日朝から用事が入ってしまいましたので、更新は4日にしたいと思います(;´・ω・)
今後もご後援よろしくお願いいたします。




