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王城 ディークニクト
「そうか、後はこっちで対策をねるよ。今は休んでくれアーネット」
「あぁ、あとの難しいことは任せる」
聖光教会の件で、報告を終えたアーネットは立ち上がると部屋を出て行った。
後に残された俺と、セレスとキールの3人は今後の事を相談すべく話し始めた。
「さて、聖光教会の幹部が逃げたというのは聞いたと思う。そこで、今後の方針について考えたい」
「厄介なのは、各地で信徒を集める事ね。それだけは阻止しないと」
「確かにそれは厄介ですな。しかし、現状打てる手はそこまで多くない様に見えますが?」
セレスの懸念は、聖光教会の総主教パウエルがテロを画策しないかということだ。
確かに、自分が正しいと思い込んだ相手は、どんな手段を使っても自分を肯定してくる。
そうなったら、一筋縄ではいかないだろう。
「……とりあえず、パウエル13世は死んだことにして新しい総主教を立てるか」
「パウエルを死んだことにする? でも、新しい人が総主教になっても、パウエルが出てきたら意味がないんじゃないかしら?」
「いや、出てきた方が良いんだよ。総主教には出てきたときにパウエルを殺すように仕向けるんだ。その為にも、総主教になるものには、強欲な奴の方が良い。宗教の権威も落とせるからな」
俺がそう提案すると、二人の表情が一気に引いた。
「なんだよ! 他に手があるか?」
「いや、無いのですが。まさかその手を躊躇なく出すとは、と思いましてな」
「えぇ、キールの言う通りね。流石はディークニクト……」
この扱い、解せぬ。
俺は納得できない気持ちを抑え込んで、命令を出した。
まずは、宗教関係者にヒアリングを行い、適切な人員を選出。
暴走し過ぎないように、周囲にそれなりに良識ある人物を配置。
後は、新しい総主教を呼び出すだけとなった。
「女王陛下、宰相代理閣下、この度は非才の我が身を総主教に押し上げていただきありがとうございます」
そう言って、謁見の間で俺たちの前に膝をついたのは、新しい総主教だ。
年齢は43歳で、でっぷりと脂ののった腹が特徴的な男だ。
顔は柔和そうに見えるが、目が明らかにギトギトしている。
「この度、パウエル13世が行方不明となったので、総主教の座を一時的に其方に任せる。職務に邁進し、滞りなく聖務を全うせよ。また、パウエル13世が帰ってきた際には、その働きを持って、報いる事を約束しよう」
「ははっ! ありがたき幸せ、非才不肖の身ではございますが誠心誠意お仕えいたします」
そう言って、新しい総主教は謁見の間を出て行った。
「中々欲深そうな奴で安心した。これで後は罠にかかるのを待てばいい」
「こういう時のディーの顔は、本当に楽しそうね」
俺の脇に控えていたシャロが、苦笑交じりにちゃちゃを入れてくる。
「そう言うなよ。実際にやってみれば良いさ。楽しいことを否定できなくなるよ」
「よく言うわ。まぁその辺の事はディーに任せるわ」
それから、数日後。
教会の中に入れていた密偵から、報告が次々と上がってくる。
やれ、裏献金だの横領だの、果ては町娘に手を出そうとした(事前に配置していた神官が止めた)だの。
「よくもまぁ、数日でこれだけやってくれたな」
「見ている私も、逆に感心してしまいました」
「だろうな。ここまでひどいと、パウエルが帰る前に首を挿げ替えないとダメかもしれないな」
「その際は、またお声かけください」
そう言って、密偵は任務へと戻っていった。
王国内 パウエル13世
くそくそくそ! あと少しで法王まで行けると思っていたのに!
民衆があんなに簡単に裏切るとは、くそくそくそ!
私は、益体もない悪態を心の中でつきながら、なんとか王都を脱出して数日。
やっと村が見えてきたので、居ずまいを正して威厳を出してから入った。
「ここに見えられるは、聖光教会のパウエル13世猊下である。村長は居るか?」
一緒についてきた従者がそう言うと、村の奥からよぼよぼの爺さんが出てきた。
爺さんは私の目の前に来ると、拝む素振りもせずにジッと見てくる。
「こ、こら! 村長! 総主教猊下にあらせられるぞ! 膝をつかんか!」
従者が慌てたように急かすと、村長らしき爺さんはため息をついてきた。
明らかに馬鹿にしたような様子に、一緒に居た従者も怒りの声をあげようとすると、周囲に居た村人たちが私たちを囲ってくる。
「な、なんだ! 貴様ら! 何か文句があるのか!?」
従者がそう言うと、体格のいい男が高札を持って前に出てきた。
「お前らは馬鹿か? パウエル13世はもう居らんし、居ったとしても恵む酒もパンもねぇ」
そう言って、男がこちらに投げ寄越した高札を見ると、信じられないことが書かれていた。
「な、なんであの強欲な男が総主教に!? しかもパウエル13世猊下が死んだことになっている!?」
「それにあの男、好き放題しているじゃないか!」
それもそのはずだ。
そこに書かれていたのは、金を横領し、女に手を出し、贅沢三昧をしたというのだ。
「やってくれたな! おのれ、おのれ、おのれぇぇぇ!!! ディークニクトめぇぇぇ!!!」
私はその場で、ディークニクトへの呪詛の言葉を叫ぶことしかできなかった。
次回更新予定は11月25日です。
今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m




