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1-10

他勢力と内政回

エルドール王国 


 エルドール王国は、かつて勇者が降臨した王国として栄え、魔王討伐を果たした国家である。

 この王国の王城で、ここ最近毎日の様に宰相ベントナーは、典医を攻め立てていた。


「それで、一体いつ陛下は目を覚まされるのだ?」


 文官の長とは思えない立派な体躯をしたベントナーは典医に詰め寄った。

 対する典医は、ベントナーの圧力にしどろもどろになりながらも、経過を伝える。


「ですから、その、何度も申しております通りで、陛下のご容体は今なお予断を許さず……」

「いつ、目が、覚めるのか? と聞いているのだが?」

「で、ですから、今の状態では覚めるものも覚めませぬ。死力は尽くしておりますが、人の寿命ばかりは……」


 エルドール王国の国王が意識を失って約半年。

 これまで生き永らえたのですら奇跡と言えた。

 それを鑑みれば、この典医の腕は良い医者と言えるのだが、しょせんは人の身である。

 流石に、それ以上の何かができるはずも無く、ただただ時間だけが過ぎていた。


「はぁ。陛下、何もこんな時に倒れられなくてもよろしかろうに。全く、貴方はいつもいつも、面倒ごとを私に……」


 一通り典医を責めて気が済んだのか、今度はベントナーの独り言が始まった。

 この独り言が始まると、長いことを知っている典医は、そっと見つからない様に病室へと引き上げていくのだった。

 

「全く、あの時も撤退中に思い付きだけで私を振り回したり、無茶な事を平気で言ってこられましたが、今回の無茶が一番酷いですぞ……」


 そう言いながらも、どこか過去を思って懐かしんでいるのか、ベントナーの口元は緩み、上がっている。

 なんだかんだ言いながらも、昔馴染みの主君に心酔しており、共に駆け抜けた日々は、よき思い出なのであろう。

 そんな思い出に浸っているベントナーの後ろから、副官が声をかけてきた。


「宰相閣下、各国担当の外交官から助けてほしいとの要請が大量に来ておりますが、如何いたしましょうか?」


 思い出に浸るという現実逃避すら中断せざるを得ない状況に、ベントナーは軽く舌打ちをしながら指示を飛ばし始める。


「全く、こっちが助けてほしいわ。まぁよい、まずは各国の代表と会合の準備を進めよ。順番はお前に任せるが、一番楽なのから進めていく。特に近年拡大しているオルガとは地固めしてからでないと、戦争になるからな」

「はっ! ではこちらで獣人から順に会合を開く予定を伝えてまいります」

「うむ、獣人どもからなら問題あるまい。あいつらは疑うという事をしないからな」


ベントナーが承認を出すと、副官は急いで各所への根回しへと走り始めた。

 その後ろ姿を見つめながら、ベントナーは今後の事を思案するのだった。




領都ロンドマリー ディークニクト


 王女襲来から早2日。

 夏の季節が近づく中、ロンドマリーの拡張工事は進んでいる。

 現在は、外側の城壁を作っているところだ。

 この後に上下水路を整備して、それから家屋を建てる所までが一区切りだ。


「壁の外の用地確保は進んでいるか?」

「そうですね。田畑の無い場所を選んでいましたので、問題なく進んで、建築も順調です。この、上下水路? というものに関しても、設置を進めているところです」

「上下水路が無かったのは、まぁ街の現状を考えれば仕方ないことだが……」

「あの、この上下水路とはなぜ必要なのでしょうか?」

「そうだな、元から無かったなら、用途なんてわからんよな」

 

 俺はそう言うと、黒板を用意してクローリーに説明を始めた。


「まず上水は、生活用水のこと。まぁ綺麗な水って思えばいい。対して下水とは、生活排水、つまり汚い水という事になる。さて、ここで問題だ。上水と下水が混ざったら、下の方で暮らしている人たちはどうなる?」

「え? ん~、不味い水を飲むという事ですか?」

「うん、まぁ部分的には正解だな。もう少し踏み込むと、流行り病を誘発する可能性がある、という事だ」

「え!? 流行り病は水から発生するのですか!?」

「まぁ正確には水だけではないが、概ねその通りだ」


 生活用水とは、汚いとその分病原菌が多く寄生虫や感染症の温床になりやい。

 この世界ではまだ上下水路というのは一般的ではなく、王都などの大都市圏でないと見られないものなのだ。


「その為にも、まずは拡張部分に水路を設定する。上水と下水を分ける為に、家に一度でも入った水は分けられるようにしてくれ」

「家庭に一度でも入った水を分けるのですね。何とか考えてみます」

「もちろんだが、それを拡張後の街全体にも適用できるようにしないといけないからな」


 俺がそう言うと、クローリーはやる気に満ちていた。

 どうやら、戦争云々をするよりも、彼は内政で手腕を振るう方が良いのかも知れない。

 実際、最近の彼を見ていると、乾いた大地に水が染み込むように、俺から内政に関する知識を吸収している。

 このまま努力を続ければ、恐らく内政を専門に任せられる貴族になれるだろう。


「それでは、後は頼んだ。俺の方は、ここの軍政をもう一度見直さないといけないのでな」

「はっ! ではこちらは私で案を考えさせていただきます」

 

 最初こそ反抗的だったクローリーの態度が、最近はなんというか、臣下の様になってきている気がする。

 できれば、彼にはまだ領主としての気持ちを持っていて欲しいのだが……。


次回更新は5月26日予定です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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