5-13
エルフ軍 アーネット
さて、親友でもあるディーから今回の件を任されたのだ。
しっかりと任務を果たさねばならないな。
俺は、そう自分に言い聞かせると、兵たちを見渡して一声あげた。
「聖光教会は我らの敵となった! だが、民は別だ。我らと争わない者が民であり、我らと争うものは敵だ。敵を根絶やしにするぞ!」
そう言うと、全員が雄叫びを上げて進み始めた。
俺を先頭に、中衛にイアン、後衛にシャロという布陣だ。
敵が拠点に集まる前に叩くという話だったので、一気に駆け足で進軍した。
進軍開始から20分ほどすると、石造りの王城の次に大きな建物が見えてきた。
それは、城よりも白く。
屋根の上には、光をモチーフにしたのであろう金細工が乗っていた。
「随分と豪華そうな建物だな」
俺が一人そう呟いていると、中衛のイアンが前衛にまで出てきた。
「流石は、人族最大の宗教施設だな。大きさだけなら恐らく相当なものなのだろう」
「それでも、今回はこの建物を完全に破壊しなければなりません」
「宗教権力の象徴を壊すのだったな」
二人でそんな話をしていると、後衛のシャロも前衛に出てきた。
これで全員が揃った。
相手もこちらの姿を視認したのだろう。
先ほどから防衛線の構築から、こちらへの警戒に移っている。
そんな彼らを見ながら、俺は万雷の響きにも似た大声を出す。
「我らは、女王セレスの名代で来た! 女王は、無用な血を流したくないと仰せだ! 1分待つので、降伏する者はすぐさま出よ! また、民草に告ぐ! 宗教と共に死ぬことは無い! 君たちの戦争は既に終わったのだ!」
そこまで言うと、俺は一息入れてから続きを告げる。
「また、今回の戦いで総主教パウエル13世に懸賞金をかけている! 首を差し出したものには、一生を遊んで暮らせる補償をしよう! また、神官たちよ! 男女の別は問わない! 奴の首を挙げたものを総主教として任命することを約束しよう!」
この宣言を出したのと、同時に敵側に動揺が走った。
まぁ、こうなることをディーは予想していたのだろう。
民草の一人が、いきなり投降すると叫んで出ようとし始めた。
よく見ると、以前王都に忍ばせていたシルバーフォックスの一人だ。
顔かたちもほぼ人と同じだったので、人族に紛れ込ませていたのを覚えている。
その一人が飛び出そうとしたのを見て、他の民草も施設から出ようとし始めた。
「敵が内から崩れ始めたわね。流石ディー! あれうちの工作員よね?」
シャロも気づいたのだろう、俺の袖を掴んではしゃぎ始める。
確か、だいぶ昔にディーから聞いたことがある。
集団の心理という奴だ。
大多数の人間が不安になっている時、人は誰も動かないとその場にとどまり続ける。
だが、一人でも逃げ出そうとする者が居れば、人は不安に駆られて逃げようとするのだそうだ。
確か、軍事の初歩で相手に恐怖を与えて撤退させる方法として教わったが、まさかこんな使い方もあるとはな。
「お!? 敵が騒ぎ始めた民草を宗教関係者が抑えているな」
イアン先生のその一言を聞いて、思い出から戻った俺もその光景を見た。
確かにもみ合いになっている民草を、槍で脅しているように見える。
「見よ! 民草に自由意思で参加を聖戦をと呼び掛けて、逃げる者には容赦しない聖光教会の姿を! だが、我らは違うぞ! 我らは民草を救う! 良いな! 兵たちよ! 聖光教会の法衣を纏っている者、武器をこちらに向ける者だけを根絶やしにせよ!」
少し演劇臭くなっているが、これはディーからの注文だ。
いつものように、野盗の様な戦い方ではなく綺麗に見えるように戦えと。
なので、先ほどからイアンやシャロを始め、俺の事をよく知っている兵からも失笑が漏れ聞こえている。
だが、気にしてはならない! これがディーからの注文だからだ!
「全軍! かかれ! 民草よ、門を開けよ!」
号令一下。
怒号の様な喊声と、地響きを立てて全軍が突撃を始めた。
その様子を見ていたのだろう、建物の上から警戒の声と同時に矢がまばらに飛んできた。
「敵襲! 敵襲ぅぅぅ!」
「城門を開けろ! 女王様がお助け下さるぞ!」
「援軍を! 門が突破されます! 援軍を!!!」
門前は、聖職者と兵と民でごった返しになった。
だが、後ろからも前からも攻撃される神官たちは、次々と倒れていった。
「降伏する者は今すぐ申し出よ! 総主教の首をあげるのだ!」
各部隊の指揮官が目の色を変えて動き始めた。
まぁ、民と降伏者に対する暴力は禁じたが、この施設内にある物の略奪は禁じていない。
なので、ここからは争奪戦の開始と言ってもいいだろう。
「アーネット、略奪は止めないの?」
「ディーが、宗教関係者が今後刃向かう気を起こさない様に、徹底しろと言ってたからな」
こうして、聖光教会の総本山とも言える施設は、全ての外塀を壊され屋根の金細工も無残な姿で兵たちに切り分けられた。
ただ、肝心の総主教と幹部たちの行方はわからなくなったのだった。
次回更新予定は11月23日です。
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