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5-11

王城謁見の間 ディークニクト


 王城に入ると、俺達は謁見の間に通された。

 謁見の間は、石造りの吹き抜け2階建てで、何本かの大きな柱によって支えられている場所だった。

 ちなみに柱は正面には無く、少し脇に全て配置されていた。

 そして、その正面の一番高い場所に玉座があった。

 玉座にはセレスが座しており、その隣に見たこともない男が一人立っていた。


「キール、あのセレス王女の隣に居るのは誰だ?」


 俺が小声で問いかけると、キールが応えてきた。


「あそこに居るのは、総主教殿です。セレス王女の後見をしています」

「総主教? なんだってそんな奴が?」


 何となく、俺は胡散臭いものを見るように『総主教』と言われた男の方を見た。

 ただ、確かに男のかっこうは白い法衣の様なものに、大きな被り物、金をふんだんに使ったごってりした杖を持っていた。

 そして、奴の方も俺を見て何とも言えない表情をしていた。

 おそらく、奴が魔人排斥の第一人者でもある、聖光教会の総主教なのだろう。

 俺がそんな事を考えながら見ていると、奴は尊大な物言いでこちらに命令をしてきた。


「陛下の御前である! 跪きなさい!」


 そう言われて、キールはその場に跪いたが、俺とアーネットは膝をつく理由がなかったので、立ち続けた。

 そんな俺達の様子を見て、総主教は声を荒げ始めた。


「貴様ら! 陛下の御前であるぞ! 亜人風情が礼儀も知らんのか!?」


 亜人とは、彼ら聖光教会が人族を唯一絶対の人類と信じ、同じような形をすれど、見た目や特徴の違う種族を蔑称する為の言葉だ。

 それを公式の場と言っていい、この場所で言ったのだ。

 もちろん、俺は奴を睨みつけながら反論した。


「それはどういう意味か? 我々はそこにいるセレス王女に呼ばれて来たのだ、一介の宗教関係者が口を挟むな!」

「ぐぅ! うぬぬぬ……」


 正論を言われ、何も言えなくなった総主教は、顔を真っ赤にして俺の方を見ていた。

 まぁ、これで十中八九恨みはかったな。

 そんな俺の態度を見て、キールは少し呆れたような顔を、アーネットは興味なさそうな顔をしていた。


「さて、総主教。そろそろ私が話しても良いかな?」

「はっ……、申し訳ございません」


 一応形の上では、セレスを立てているのか総主教はその場を譲った。

 そんな奴の動きを見て、セレスは俺たちの方を見て言い放つ。


「さて、エルフの長よ! 我らは、これより互いの過ちで起こした戦争の始末をつけたいと思う。条件その他に関しては、そこにいるキールに持たせた書状で承知していただけただろうか?」


 条件を何も言わずに承知したかを聞いてきた?

 確か手紙には、『降伏条件はこちらに一任する』となっていた。

 要するに、セレスは誰にも相談せずにこの条件を出したという事になる。

 そうなると、俺が応えるのはセレス王女の意を汲んで……。


「条件に関しては、手紙に書いてあるものが全てであるなら、我々は受け入れる用意があり、平和への道を歩む用意もある」


 俺がそう言うと、謁見の間に居た者たちがざわつき始めた。

 そう、賢いものなら既に分かっているのだ。

 この条件が、俺とセレスの間で既にやり取りされていたという事を。

 そして、その条件は決して表に出せるものではないという事を。


「では、和平調印を執り行う。調印文章をここに」


 セレスがそう言うと、一瞬にして周囲のざわつきは大きくなった。

 このまま行くと、条件を開示しないまま調印されるからだ。

 そんな状態の中、一人の男がセレスに意見を述べた。

 そう、先ほどの総主教だ。


「セレス女王陛下! 調印の条件はいかほどのものでございますか!? 我らの失いし土地は戻るのですか!?」


 総主教のその一言をきっかけに、周囲の文武の官の声が大きくなる。


「そうだ! 確かにこの調印で土地は返ってくるのか!?」

「我らはこのままでは飢えてしまいかねない!」

「奴らが撤退するという事なのか!?」


 そんな周囲の状況を見渡してから、俺はキールに視線を送ると、彼は意味ありげに頷いてきた。

 そう、この和平はセレスの独断で押し進めたのだ。

 その為、周囲との調整ができておらず、ここで噴出した形になったのだ。

 この状況では、正直調印などできない。

 だが、ここで調印しなければ恐らく最後の一人になるまで奴らは喚くだろう。

 そんな様子をしばらく黙ってみていたセレスが、ついに口を開いた。


「では問おう! お主らの中に奴らに勝てるものは居るか!?」

「うっ……」

「問おう! お主らの中にあそこに居るエルフの戦士と戦って勝てる者が居るか!?」

「……」

「戦上手で知られていたリオールでさえ、彼らには敗れた! それでもなお、勝てるというか!?」

「…………」

「この調印を不服と思うなら、己が才覚で示せ! 不服がある者は、立ち去るがよい!」


 セレスがそう言うと、総主教を始め数人が謁見の間から出て行った。

 そんな彼らを見送ったセレスは、俺に再び視線を戻してくる。


「エルフの長よ、見苦しいところを見せてすまなかった。こちらへ」


 そう言って、セレスは自分の隣を俺に勧めてきた。

 俺が隣に並ぶと、調印文章が渡される。

 そこには、しっかりと「無条件降伏」と「国民の安寧」「王家などの保護」が書かれているのだった。


次回更新予定は11月19日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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