5-10
王都 ディークニクト
王都の付近まで来ていたイアン、クローリーと、俺達は落ち合った。
イアンが率いてきた兵は、全部で3千。
一応何かあっても対応できるくらいの数だ。
ただ、俺たちの中にはキールが居る。
一応アーネットに警戒をしておくように頼もうかと思ったが、無駄に警戒心をすり減らしても意味が無い。
なので、それとなくアーネットを挟んでキールを横に並べている。
もちろん本人は、俺が警戒しているのに気付いている上で、「格別の待遇ですな」と言いながら笑っていた。
そんなやり取りをしながらも、王都の門前まで来た。
王都の壁は、高さが10メートル近くあり、それを支える為に3メートル以上の奥行きがあった。
門もそれに見劣りしない大きさと、分厚さがあり、恐らく開閉が巻取り式になっている。
「自動閉門できるのか、これは?」
俺がその大きさに圧倒されながら見上げていると、キールが苦笑しながら説明をしてきた。
「えぇ、確かにこの門は自動閉門ができます。上の管理塔で何人かの兵で綱を巻き上げて開門するのですが、問題がありましてな」
そういって、彼は未だに開き切らない門を見ながら顎でしゃくってきた。
そう、開門がかなり遅いのだ。
かれこれ20分近く待っているのだが、未だに開き切らない。
「上で作業する専属の者が居るのですが、そいつらが居なくなると途端に開くのが遅くなります。これがこの門の弱点ですな」
「なるほど、これまではそう言った専属の者が居たが、何かしらの理由で居なくなってしまったのだな」
俺はそう言って、それ以上詮索をしない様にした。
どうせこれから、嫌でも知る可能性があるのだ。
わざわざ今聞く必要はない。
それに、ここまでつらつらと内情を話すという事は、キールは少なくとも降伏だと捉えている可能性が高い。
「で、セレス王女はどちらに居るのだ?」
ようやく門が開いたので、中に入った俺がキールに訊ねると、彼は一番大きな建物の方を指差してきた。
「あちらの一番大きい建物が王城です。姫様はあちらでお待ちになっておられます」
そこからは、キールの案内に従って王城を目指した。
何せ、3千もの兵がついているのだ。
彼らが移動できる場所は、限られている。
王都の恐らく大通りを俺達は、闊歩した。
もちろん、道行く人たちは何が起こったのか分かっていないし、俺たちの大半がエルフという事もあって、興味津々だ。
「こう、じろじろ見られると見世物の動物になった気分だな」
「そうぼやくな、アーネット。この王都にエルフが来ることなんてまず無かったんだから、しかたない」
ぼやくアーネットをそう言ってたしなめるが、かく言う俺もあまりいい気分ではない。
何せ、彼らの目は未知なるものへの恐怖の視線が、大半をしめているのだ。
ただ、例外はある。
俺の後ろに控えているシャロだ。
容姿端麗な銀髪のエルフが、甲冑を身にまとって騎乗しているのだ。
俺やアーネットを見た後に、シャロを見た殆どの男女が何とも言えない視線になっていた。
まぁ、男の視線の大半は顔とそのすぐ下の胸に集中していたが。
そんな見世物行列の様な感じで、大通りを王城へと向けて進んだ俺達は、城へとたどり着いた。
王城の門は、王都の門よりも幾分か小ぶりだったが、それでも十分に堅牢な見た目をしていた。
城の色は、白と赤を基調にした色合いで、たまに青が入っている。
「赤と青は顔料を混ぜ込んだのか?」
「えぇ、よくお分かりで。その通り赤色も青色も、獣王国から取り寄せた鉱石を砕いて溶かし込んだものです。なので、雨にも風にも負けませぬ」
顔料をこれだけ大量に仕入れたというのが、恐らく王国の誇りでもあるのだろう。
何せ、普通にキャンバスで使う量の顔料一色で、1年くらいは遊んで暮らせる量の金がかかる。
それを、城の壁や屋根にふんだんに使っているのだ。
「さて、兵の方々はこちらで待機を、ここから先はディークニクト殿とアーネット殿のお二人でお願いします」
キールが中庭に差し掛かった時、声をかけてきた。
おそらくこの先に王城があるのだろう。
「分かった。では、我らはセレス王女に会いに行ってくる。何もないとは思うが、その場にて待機を」
「はっ! かしこまりました」
俺がそう言うと、イアンとシャロが一礼してきた。
さぁ、いよいよ王女様と久しぶりのご対面だ。
次回更新予定は11月17日です。
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