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5-9

領都ランバダリー ディークニクト


 ひとまず、こちらからセレス王女の元へと帯同する者を決めた。

 内務官としてクローリー、身辺護衛としてアーネット、従軍する兵たちの指揮官としてウォル……の予定だったのだが。


「なに!? ウォルが動けないだと!?」

「はっ! ウォルクリフ様はここ最近の戦続きもあり、体調を崩しておいでです。寝込み始めてからは、ご子息が当主として兵たちをまとめておられます」

「いつから寝込み始めた? 俺達が出発する前は元気だったじゃないか? それに報告も来ていなかったが?」


 俺がそう言うと、使者の男は額の汗を拭きながら釈明を始めた。


「ウォルクリフ様がご病気になられましたのは、約2週間前ほどです。報告の使者は出したのですが、主要街道の桟道も東回りのルートも全て戦中で封鎖されておりましたので……」

「なるほど、それでこっちに来るのが遅れたという事だな?」

「左様でございます。申し訳ございません」


 まぁ、戦争を始めたのはこっちの都合だ。

 だからこれ以上使者を責めても仕方ない。


「となると、ウォルの代わりが必要だな」

「それなら、イアン先生を連れて行ってあげてよ。前の汚名を返上する機会の意味も込めて」


 シャロが言っている汚名返上とは、戦場で迷子になった時のことだ。

 確かにあれから色々と経験しているので、従軍する兵たちの監督くらいなら大丈夫だろう。

 あとは、どこで落ち合うかだが。


「では、場所は王都で落ち合う事にしよう。イアンには軍を率いてくるように通達を。クローリーはイアンと合流して来るように通達を出してくれ」


 こうして、王都への編成を決める事ができた俺達は、移動を開始するのだった。




鉱石街道 エイデン


 ランバダリーから離れて数日。

 鉱石街道をひたすら獣王国側にへと進んでいるのだが、全く敵が見当たらない。

 というよりも、警備兵の詰め所が所々あるだけだ。


「たった数日でここまで兵たちを掌握するとは……」


 俺が驚いているのは、詰所の兵たちだ。

 これまでの兵たちは、基本的にだらけた者たちでどちらかと言うと『ろくでなし』が多かったのだ。

 それが、エルフが治めるようになってからの兵たちは、背筋を伸ばしてきっちりと仕事をしている者が多い。


「しかし、こんな様子を見たらまた奴らがうるさいだろうな」


 奴らとは、俺の側近たちの事だ。

 あいつらは、やれこうだ、あれこうしろとうるさいのだ。

 そんなうるさい側近たちが、今の俺の周りには一人もいない。

 いや、正確には声が届く範囲に居ないのだ。

 理由は色々とあるが、最たるものは俺が一人で歩いている方が見つかりにくいからだ。

 おそらく敵は、情報として俺の似顔絵と一緒に大勢の側近を連れている。

 と警備の兵などに言っているだろう。

 その証拠に、俺が一人で歩いていても警備の兵たちは気にも留めていないのだ。


「これでなんとか鉱石街道を抜けられば……」


 待っているのは、傀儡生活だろう。

 だが、それでも死ぬよりマシというものだ。

 それに、生きていればどこかで反抗する芽も出てくるかもしれない。


「まぁ、そんな後のことなど考えても仕方ない。それにしても、一人と言うのは楽でいい」


 俺は、今の一人旅を楽しむことにした。

 なにせ、王城に居てはみる事すら叶わなかった物が、人がたくさん見られるのだ。

 これ程面白いことはない。

 俺が、周りを少しキョロキョロと眺めながら歩ていると、一人の男が近づいてきてそっとささやきかけてきた。


「エイデン様、あまりキョロキョロされませんように」


 俺はそ知らぬふりをして小声で答える。


「分かっとるわ。お前こそわざわざそんな事の為に近づくな。見つかるかもしれんだろうが」


 俺がそう言うと、男はそそくさと前を歩き始めた。

 そんな男の背中を見ながら、俺は小声で聞こえないように呟いた。


「まぁ、心配してもらえるというのは嬉しいがな」


 そんな事を言いながらも、のんびりしていられるのは、俺の警戒心に何も反応がないからだ。

 大抵危ないことが起きる前には、何かしらの警鐘が心の中でなる。

 それが大きいほど面倒ごとになりやすいのだ。

 だが、今は微塵も感じないので、国境までひたすら歩くだけだ。


次回更新予定は11月15日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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