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第四王子 エイデン
なんとか、戦場を迂回して元第一王子の領都近くに到着した。
ただ、何とも言えない胸騒ぎがする。
「……やはり、嫌な予感しかしない。誰か行って様子をみてこい」
俺がそう命令すると、側近の一人が領都の中へと入って行った。
側近が入って1時間が経過したころ、若干慌てた様子で戻ってくるのが見えた。
「はぁはぁはぁ……、若様大変です。手配書が……」
息を切らせて側近が持ってきたのは、俺の似顔絵が描かれた手配書だ。
しかもご丁寧に『生死を問わず』ときている。
「……なんでエルフが俺の顔を知っているんだ? 俺は奴らとの接点なんて……」
俺がそこまで口に出すと、思い当たる節がある。
「まさか王国は、エルフと同盟を結んだのか?」
「いえ、そのまさかを超えてきました」
「まさかを超える?」
おうむ返しに私が聞き返すと、側近は信じられない一言を口にするのだった。
元第一王子領ランバダリー ディークニクト
ランバダリーに入って数日。
まずは既存の軍隊の武装解除を行った。
特に信用が置けない将たちは、各自宅にて待機を命じている。
もちろん、その間に見張りをさせていた。
そんな緊張状態の中、緊急の伝令が俺の元へと走ってきた。
「ディークニクト様! 王国からの使者が来ております!」
「王国から? 分かった、通せ」
俺がそう言うと、すぐそこまで来ていたのだろう、白髪交じりの老人が入ってきた。
「ご無沙汰しております。ディークニクト様」
そう言って老人は、恭しく一礼してこちらを向いてきた。
「キールか。王国からの使者と聞いているが、セレス王女からか?」
「はい、火急の要件でございますので、私が直接お持ちいたしました」
そう言ってキールは、自分の内ポケットから一通の書状を出してきた。
そこには、王国の紋である剣と盾をあしらった封がされている。
手渡された俺は、急いで手紙を開けて一読し、驚いた。
「……キール、これは書いている意味が分かっているのか?」
「はい、セレス王女殿下は先ごろ崩御した国王陛下に代わり、戴冠いたしました。そして、その最初で最後のご指示が、その手紙に書かれたことでございます」
俺はそう言われて、手から力が抜けるのを感じた。
そんな俺の様子を不審がったシャロたちが、駆け寄って手紙を読み始める。
「なになに……、我がエルドール王国女王セレスの名において宣言をする。我が国は、エルフとの戦争を即座に中止し、和解を希望する。また、和解に際して条件は、エルフの国に一任するものとする! これって、事実上の完全降伏じゃ!?」
シャロがそう言って叫ぶと、カレドたちも顔を見合わせていた。
そう、エルドール王国が、無条件降伏を宣言したのだ。
「……キール、一つだけ聞きたい。セレスの望みはなんだ?」
俺は、やっと動き出した頭をフル回転して、恐らく一番重要であろう質問をした。
俺の質問を聞いたキールは二カッと破顔して、二本指を立ててきた。
「一つは、セレス王女含め、現在王都に居る王族の助命。もう一つは、領民の保護を必ずすること。この2点でございます」
なるほど、降るから自分と領民の命を助けてくれと。
「だが、なんでこんなにも早い段階での降伏なんだ?」
「そこは、私にもわかりかねますので、後日王城にてお話をさせて頂きたいと、セレス様が仰っておられました」
「なるほど、わかった。では降伏を受け入れよう。その二つ以外に条件はあるか?」
キールに訊ねると、彼はもう一通の書状を俺に差し出してきた。
手紙の中には、一人の太った人物の似顔絵とその下に『生死を問わず』と書かれていた。
「こちらは我らの手落ちではあるのですが、第四王子を逃がしてしまいまして。他国に利用される前に捕まえなければなりません」
「いかにもどんくさそうな顔だが、キールが居て取り逃がすとは珍しいな」
そう言うと、キールは首を振って俺の方を見てきた。
「そう言っていただけると大変嬉しいのですが、この第四王子めっぽう逃げるのが上手くて……」
「キールからも逃げおおせたと?」
「いえ、正確には元第三、第五王子軍約2000名から逃げおおせたのです」
「2000人から逃げた!? ちょっと待て、キールの言っている意味が今一ピンときてないんだが」
俺がそう言うと、キールも苦笑しながら「私もです」と言ってきた。
もし本当に2000人から逃げたのなら、相当すばしっこいか、予知レベルの勘が無いと無理だ。
「とにかく、こいつを捕まえれば良いんだな。だが、他国に利用されると言っても具体的にはどこだ?」
「恐らく獣王国です。あの国とはよく領土境で揉め事が起こっておりますので」
確かにここに入ってから、帝国と獣王国の双方からの嫌がらせは度々ある。
だが、どれも嫌がらせ程度だったので、適当な軍を派遣して終わっていたが、今後は考え直す必要がありそうだ。
「では、第四王子の件については街に手配書を貼っておこう。後は街道沿いのどこかで見つけられるといいのだがな」




