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 北の王国のそのまた北の最果てに、最後の町があった。名はファマスといった。最後の町と呼ばれる由来は文字通り、これより北にはもう人が住んでいないからである。そして、魔王城へ攻め入るための最後の補給地でもあるからだ。

 ファマスはトルーシ山という険しく切り立った山の麓に位置している。トルーシ山を越えた先にあるのが魔王城。突如魔界から現れた魔王軍がかの地に本拠地を構えたのが今から十年前のことだ。

 なぜこの町に人々が残り続けているのかというと、ファマスが鉱山の町だからであった。トルーシ山では玉鋼やモリア銀といった希少金属が産出される。古くからファマスの人々はこれらの希少金属を生活の糧にしていた。突然ぽっと魔王軍が現れたからといって、今更生き方を変えることはできなかった。


 勇者一行がこちらに向かっているという明るい知らせに、ファマスの人々は湧き立っていた。アンナもその一人だ。

 アンナは町の鍛冶屋の娘であり、「ファマスの白薔薇」と評判の美しい十六歳の少女であった。ファマスを訪れる行商人、あるいはその行商人を守る護衛士たちからまでも見初められ、幾度も縁談を持ち掛けられた。しかし、幼いころに母を亡くし、男手一つでアンナを育ててくれた父オルスを放っておくことなどできなかった。

「お父さん、勇者様はいつごろいらっしゃるのでしょう」

 アンナは店に並んでいる剣を一つ一つ丁寧に布で磨いていた。どれも大陸最高級の剣だ。なにせ玉鋼製あるいはモリア銀製である。神話に出てくるような武器、例えばラグナロク、エクスカリバー、アルテマウエポン、ロトの剣のような伝説級の一品が仮に実在しているのならばともかく、現実としてはファマスで買える以上の武器は存在しない。

「次の勇者様はお強いと良いのですが」

「前の勇者だってお強かったのだ。魔王を打ち倒すものと誰もが信じて疑わなかった」

 オルスは研いだ刃を明かりに透かせて見た。満足そうにうなずくとその剣をアンナに渡す。アンナは剣を指示された棚に並べた。

「その前の勇者だってそうだ。魔王軍に立ち向かう勇者はみな王国最強の剣士だ。いずれ必ず魔王を滅ぼしてくれるさ」

「そうですね。勇者様は私たちの希望の星。信じましょう」

 それからというもの、アンナは時間ができると町で一番高い見張り台に登って、待ち遠しく南の雪原を眺めていた。

 まだ見ぬ憧れの勇者様。

 どのようなお顔なのだろう。声は。仕草は。

 どのような武具を身につけているのだろう。父の鍛えた武具を見たらなんとおっしゃるだろう。父の武具は最高級品だ、きっとそれらを身に着け魔王に立ち向かって下さるに違いない。

 お仲間の戦士様もきっとこの上なく屈強で、僧侶様は神々しいまでに神聖で、魔法使い様は冷静沈着にて聡明な、頼もしい方々に違いない。

 純白の雪原の彼方、いずれ来る勇者に想いを馳せていた。


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