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サラミス海戦

修正版

今、彼女は海の上にいる。


 ここはキプロス島の近くのサラミス近海である。かの有名なペルシア戦争の時のサラミス海戦とは別の場所である。


「風が心地いな!そうは思わないかキネアス!!」

「…」


 呑気に船を漕がずに船の先端で王者の風格で仁王立ちするピュロスに対して側近のキネアスは呆れるのであった。


「見よ!我が軍勢の姿を!!」


 ピュロスの乗る船を先頭に十隻余りの船が隊列を組んで進んでいた。十隻というのは偉そうに言うほどの数では無いし、船に乗っている兵士の大半と船はピュロスのモノですら無かった。これらは一時的に貸し与えられているモノにしか過ぎなかったのである。ちなみにピュロス直属の部下もいた、総数は亡命中とはいえ五百人くらいいたが…非戦闘員も多い、また海上で戦えるものを選抜した結果、現在は百人程度といった感じである。


「あなたのモノではありませんよ!」

「ふん、これから私のモノになるさ!!」


 何故ピュロスが艦隊を率いているかを説明しよう。


 ピュロスの姉にデイダメイアというのがおり、この姉の夫がディアドコイ最有力者アンティゴノスの息子デメトリオスであった。つまりピュロスはデメトリオスの義理の弟にあたるのである。このデメトリオスを頼りピュロスは落ちのびて来たというのが真実に近いといえた。つまり傍から見れば亡命してきた元王様である。しかし、ピュロス自身はディアドコイ戦争に参加している気分でいたし、自分も立派なディアドコイだと疑わずにいた。(自信過剰)


「さて、デメトリオスのためにも活躍しなければな!」

「…無理やり、こんな重要な役目を引き受けて大丈夫なんですか?」(今更だけど…)

「当然だろ!このアキレウスの子孫たるピュロス様に相応しい役目だ!!」

「さようで…」(なんて傲慢なんだ!!)


 そうピュロスは重要な役目を引き受けていた。この時期、エジプトのプトレマイオスが海軍を率いてキプロス島を支配下にした。この進出を足掛かりにギリシア本土に攻め入ろうという腹積もりなのである。これを阻止するべくアンティゴノスは息子のデメトリオスをキプロスへ派遣した。


 デメトリオスはプトレマイオスが六十隻の艦艇を弟メネラオスに与えて敵艦隊を攻撃させ、敵がメネラオスと戦っている間に自らが率いる90隻の艦隊で敵の後方を叩くという戦術をとってくることを知り、その裏をかくことを考えた。結果デメトリオスはプトレマイオスの裏をかくために自らの艦隊のうち十隻をメネラオスにぶつけ、自らの主力艦隊180隻でプトレマイオスを叩くという戦術を考えたのである。


「その囮の役目、私が引き受けましょう!!」


 軍議に参加していたピュロスがデメトリオスに願い出たのである。まだ若い青年に任せるわけにはいかないとデメトリオスが言うとピュロスはデメトリオスに向かって言い放った。


「このピュロスに勝る勇者などいない!もしいるというなら今すぐ名乗りを挙げてかかってこい!!」


 こんな威勢の良いことをピュロスが言うものだから痛い目にあわせてやろうという強者が現れるのは必然と言えた。


「嬢ちゃん、今のうちなら泣いて謝れば許してやるよ!!」


 アンティゴノス軍随一の巨漢がピュロスの前に立ちふさがり、偉そうにピュロスを嬢ちゃんと呼んで侮辱した。


「筋肉達磨が!筋肉など無駄に付けたたところで雑魚は雑魚だと身の程を知れ!!」

「なんだとっ!!」


 怒った巨漢の男がピュロスに向かって突進してきた。それを正面で迎え撃ったピュロスは一瞬で巨漢の男の懐に入ると一撃必殺とばかりに一発強烈なパンチを食らわせた。


「フンッその程度…」

「おまえはもう死んでいるという奴だ!」

「なにっ!?」


 そう、つぶやいた瞬間巨漢の男の体は吹き飛んで船の甲板に叩きつけられた。恐る恐る周りにいた兵士達が巨漢の男に近づくと軽装とはいえ鎧ごと腹部が骨ごと潰れてグニャグニャになった巨漢の男を見た。皆こぞって恐怖の表情になるなかピュロスは満足げに言葉を言い放った。


「おい、馬鹿ども、よく聞け!私はアキレウスの直系子孫にして生まれながらにして天上天下無双を約束されたピュロス様だぞ!!恐れ入ったか!!!」


 言い放つと同時にピュロスが凄むと周りにいた兵士達は口々にピュロスを讃えた。


「ピュロス!ピュロス!ピュロス!!」


 このような力を見せつけられては今更断る訳にもいかずデメトリオスはピュロスに十隻の艦船を任せた。


 こうしてピュロスは十隻の艦隊で六十隻の敵艦隊を向かいうつことになったのである。


「敵艦隊見えます!」

「おお、やっと現れたか!」

「どういたしますか?」(何か策はあるのか?)

「このまま敵艦隊に前進!!」

「分かりました…」(おいおい何の策も無いんじゃないだろうな…)


 キネアスの心配を他所にピュロスはどこ吹く風とばかりに悠然と軍船の先端に陣取ったままであった。


「敵艦隊に接近、支持をください!」(何か策をください!)

「槍をくれ!」


 ゲイボルグとかいう何語か分からない槍を使い始めたピュロスに疑念を抱きながらキネアスはピュロスに槍を渡した。


「では投げ槍と行きますか!」

「投げ槍ですか…」(槍投げるだけかよ!)


 ゲイボルグと名付けられた槍をピュロスは投擲するべくフォームを決めた。カッコ良く投げたい!それがピュロスが、この時考えていたことであった。


「ゲイボルク」


 ピュロスが叫んで敵艦隊に向けて槍を投げると同時に閃光が槍から発せられた。周りにいた兵士達が「わぁ」と驚くなか投擲された槍は天高く飛び空中で三十の物体に分裂して敵艦隊に降り注いだ。勢いよく降り注ぐ槍から分裂した物体は一つたりとも外れることなく敵の船に乗っている兵士達の心臓へと突き刺さり、そのまま船の甲板と船底を貫通して海中へと落ちた。


「いったい何が?!」


 誰かが叫んだ時である。海中から再び浮上した物体たちが再び船上の兵士達の心臓に向かって突撃し、意図たやすく貫通してピュロスの元へと戻っていった。ピュロスの元に戻る途中に分裂していた物体は元の槍の形に戻りピュロスの手に握られることになった。


 敵艦隊は大混乱した。最低でも六十人、運が悪ければ複数貫通して百人以上が死ぬ攻撃を受けたのである。さらに船底に空いた穴からは大量の水が流れ込んできたのである。


「よし、皆の者!敵艦隊に突撃しろ!!神は私らに味方している。」

「うおおおおおおおおおお!」


 ピュロスの圧倒的な攻撃を見て神が味方していると信じた兵士達は士気を高くして敵艦隊に突撃して行くのである。


 ここで少し当時の船について説明しよう。この当時、ギリシアが使う船は三段艦船が基本であった。帆で進むというよりはオールで漕いで進む形式で段が多くなると漕ぐ兵士が多くなり推進力が増す仕組みであった。艦船同士の戦いは基本的に肉弾戦である。ボート同士をぶつけて敵のボートに乗り移る姿を想像してくれれば分かりやすいと思われる。船上に戦うということ以外は陸の戦いと変わらないのが現実であった。


「何をしている!被害を受けた艦は修理しつつ後方で支援しろ!被害が無い艦は前に出て敵と戦え!!」


 敵の艦隊司令官であるメネラオスは突撃してくる艦船に対して冷静に向かい打つように味方に指示した。それは当然の指示であった。被害を受けた艦は三十隻にしか過ぎなかったのである、メネラオスが率いる艦隊は後三十隻いた。対する敵艦隊は僅か十隻であった。


「ピュロス様!敵艦隊が来ます!!」(どうするのですか!)

「あれが敵の旗艦だな!」


 そうピュロスは言うと狙いを定めた艦に向けてゲイボルグを放った。放たれたゲイボルグは今度は分裂せずに敵艦に衝突する。槍が衝突すると敵の艦船が大爆発を起こして爆沈した。


「ぎゃああああああ」

「旗艦があああああああ!!」

「司令官を助けろ!」


 目の前で旗艦がやられて敵の兵士達は阿鼻叫喚となってしまった。それと同時にピュロスの攻撃が自分たちに来るのではないかと恐れ動きは鈍り恐慌状態になってしまった。


「それ一気に攻めかかれ!」

「いくぞおおおおおお!」

「「「うおおおおおおお!!」」」


 勢いに乗るピュロス艦隊の兵士達は次々と敵艦に乗り移りながら敵艦の兵士達を切り捨てていった。数は六倍だが司令官を失い恐慌状態の敵は今や無力であった。圧倒いう間にピュロス艦隊に駆逐され、多くの艦が拿捕され、多くの兵士が捕虜となった。


「ピュロス様、一つお伺いしたいことが…」(この哀れな子羊に教えてください!)

「なんだ?」

「なぜ、敵の旗艦を見抜けたのですか?」(純粋)

「簡単なことだぞ、私の攻撃を受けながらも冷静に態勢を整えて味方を鼓舞しようと前に出てくるのが旗艦の可能性が高いというだけだ。」

「なるほど、しかし、もし旗艦で無かった場合は?」(メモメモ)

「その時は、手当たり次第に槍を投げるまでよ!」


 サラミス海戦はデメトリオス率いるアンティゴノス艦隊の大勝利に終わった。プトレマイオスは僅か八隻の艦船で敗走する羽目に陥った。キプロス島ではプトレマイオス朝の残存兵力が抵抗するも呆気なくアンティゴノス軍に敗北し、大勢の兵士達が捕らえられた。


「ピュロスよ!此度の勝利、大義であった。」

「あり難き幸せです。」

「うむ、よってそなたに敵が残していった捕虜と女共を授けよう!」

「はぁ…」


 ピュロスが情けない返事をしたのには理由がある。彼女は現代日本からきたために当時の常識が分からないのであった。分からなくても良い身分であったともいえる。勝利の本当の意味、そして敗北と言う残酷な現実をピュロスは知らなかった。


「ピュロス様、どの女を自らの取り分に致しますか?」(良いのは取られるんだろうな…)

「えっ!?よく分からないのだが…キネアス教えてくれないか?」


 そう言われてキネアスは少し考えるも直ぐさまピュロスの真意を見抜いたのか淡々と現実を説明した。


「身分の低き兵は捕虜になれば奴隷として売られます!占領した都市の市民も同様です。敵の女共は好きに扱えます。」(王よ!現実を受け入れてください!!)

「さようか…」


 ピュロスの目の前には着飾った美しい女性たちが土下座していた。彼女らは皆こぞって体を震わせていた。まさに審判の時を待つ哀れな子羊のように!


「では皆、今まで通りの身分で私に仕えるということで…」

「分かりました。」(ええっ!全部取るのか(驚愕))


 女性たちは少し安堵したのか身体を震わせなくなった。


「それで彼女らは、どのような仕事を?」

「まぁ妾でしょう!もしくは侍女ですな」(知らなかったの?)

「妾…誰の?」

「プトレマイオスのでしょう。」(当然ですな!)

「ええっ!?」


 とんでも無いものを押し付けられたとピュロスは困惑するのであった。


「返品出来ない?」


 そう言った瞬間、安堵していた女性たちがイキなり凍りついた。当然といえる反応である。主人となる人が用無しと烙印を押すことの恐ろしさを彼女らは誰よりも知っていたからである。


「そのようなことを言ってはいけません!」(憤怒)

「すまん…」


 やはり、実際に奴隷がいる現実、そして勝ち負けで財産を取り上げられ、奴隷にされるという世界観はピュロスには理解しがたいものがあった。とはいえ、当時の常識に合わせなければいけない。自分の常識は古代では非常識であり、弱腰な王だと周囲に認識されかねないからである。そうならないためにもキネアスに古代の常識を早めに教えて貰う必要があるとピュロスが考えた。


 ピュロスは一つ学んだ。(知力が1上がった。)

特に無し


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