わたしとあなた
最初に映ったモノは『あなた』でした。
部屋の中を動き回る『あなた』を『わたし』は見ていました。
『あなた』は『わたし』に名前をつけてくれました。
その時の『わたし』には理解できないものでした。
『あなた』は『わたし』に名前を教えてくれました。
名前とは、全であり個であるものだと理解しました。
『あなた』は『わたし』に歴史を教えてくれました。
『わたし』の事、『あなた』の事、世界の事。
『あなた』は『わたし』に感情を教えてくれました。
喜び、怒り、哀しさ、楽しさ。
『あなた』は『わたし』に命を教えてくれました。
ヒトの命は短いのだと…
『あなた』は『わたし』に心を教えてくれました。
愛する人に、もう一度会いたい…
そんな気持ちで『わたし』を造っていたのだと…
『あなた』は『わたし』に、もう何も教えてくれません。
ただひとつ、孤独を最後に教えてくれたまま……
とある冒険者の日記より
―――誰かの研究所がある。
そこには古びた機械人形が一体、椅子に座っていた。
老朽化してはいるが、隣でモニターがかろうじて点いている。
おそらく、この研究所の主であろう者と機械人形が写っていた。
もしかしたら機械人形でなく、研究所の主の子供かもしれない。
モニターを見つめ続ける機械人形の表情は穏やかで、まるで人間と変わらなかった。
(『あなた』は『わたし』に幸せを教えてくれました。)
現実逃避した天才の話。
果たして『あなた』は幸せだったのでしょうか…