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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第十二章 キミというヒト
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第六十九話 夜更け


「馬は無事だったようね……」


依然怯え続ける馬を宥めながら望月が安堵したように言う、どうやら爆発及び落盤からは上手く逃れることができたらしく、魔物もいなかったので襲われるようなこともなかったようだ。


「こっちも車輪の修理終わったよ!」


「いつでも行けるのです!」


レベッカとアニエスも多少ボロ付いた馬車のヘコみ等を修正し、走行に支障が出ない程度には修復させた。

ここにベルグゥがいればすぐさま完璧に修理できたのだろうが、今は無いものねだりをしている場合ではない


「どうだ、動けるか?」


「馬車に乗るくらいなら、何とか……」


できることのなかったレネニアは、幸助の回復に努め、幸助もまた無理に作業をすることなく横になった。

そのおかげで、戦うことは難しくとも、動くことは難なくできるようになった。


「けど、もう結構時間経っちゃったけど……追いつけるの?」


「追いつけるさ、奴らは遠くへ行ってない……いや、行けないというのが正しいな」


レベッカが心配げに呟くのを見て、レネニアはどこか険しい顔で言い放つ、その様子に一つの心当たりをつけた幸助は絞り出すようにして声を出す。


「……造魔の腕か?」


「ああ、あの腕は確かに強力だ、戦闘用に作られた腕だから当然と言えるが」


馬車に乗り込み、その瞳を探知の魔法に輝かせながら眼下の麓に広がる森に視線を向ける


「武器に手入れがいるように、造魔にも手入れは必要だ。あんな不完全な形であるなら尚更……な」


全員が乗り込んだことを確認して、望月は指が白くなるほどに手綱を握り締め、勇気づけるように勢いよく振り下ろして馬を走らせる

すぐ隣でレネニアがよじ登ってくることを横目で確認して行くべき道を尋ねる


「どこに向かえばいいの?」


「恐らく、この付近のどこかに急増の整備施設があるはずだ。そこを目指せば……」


そこまで聞き、後は彼女の探知能力に期待することにして望月は馬の操作に集中する、焦燥感に似た緊張が伝わっているのか、馬の走りも早くなっていく


「無事でいなさいよ……!」


じっとりと吹き出る汗を拭って、望月は前を見据えた。





「いやー、あの時はホントまいっちゃったよー、まほーをぜーんぶダメにされるとか思わなかったもん」


拳太の相手を射殺さん程の形相も気にすることなく、社茲はにこにこと一方的な世間話に興じる


「脱獄……したのか、でも、どうやって……?」


「脱獄ー? あはは、そんなのしてないしてない」


拳太の呟きを目ざとく聞き取り、余った袖を左右に揺らしながら社茲はその言葉を実に楽しげに否定する


「姿形、人格は確かにぼくといっしょだけどさー、あれ、そもそも()()()()()()()()


「何……? どういうことだ」


「どうもこうも、ぼくの得意分野でごまかしたんだよー、そこにいるふそーくんの腕を見れば分かるんじゃない?」


「…………!!」


社茲のその言葉に、今度こそ拳太の体は固まり、凍りつき、そして恐怖した。

今まで散々自分たちを苦しめてきた造魔たち、何度か殺されかける程の並外れた実力の持ち主

そんな存在を『得意分野』と称するのならば、それは――


「――つーことは、テメーがッ!」


「うん、造魔を作っているのはぼくだよー」


思えば、ヒントは会った時から既にあった。

人を操り、死体に結びつければドラゴンだって使役できる糸、この二つの性質は人を改造し、魔物へと変貌させる造魔と性質がよく似ている

ともすれば、糸の能力は造魔製造能力の副産物に過ぎなかったのだろう


「なるほどな……あの糸、あれは『テメー独自の勇者の魔法』なんかじゃあなくて、『自分を模した造魔の能力』だったってわけか…………!」


「ごめーとー! 偉いねー、なでなでしてあげよっか?」


ファンファーレのごとく赤ん坊に使うガラガラを鳴らされ、乗せられていると思いながらもつい拳太の言動が荒っぽくなる


「おちょくりやがって……今オレが見ているテメーも偽物か?」


「そーだよー、因みにこの個体は二十番目で。あんまり戦闘向けじゃないかなー……まぁそこはふそーくんにオンブにダッコ!」


部屋の外にいる風蒼に向かって両腕を大きく振る社茲、だが風蒼は忌々しげに鼻を鳴らすだけで全然取り入ろうとなしなかった。


「ちぇー、くーき読めないなー……せっかく付けた洗脳もすぐ解いちゃったし、ツマンナイのー」


「……それ以上無駄口を叩くなら直接貴様を殺りに行くぞ、俺に時間がないのはお前が一番良くわかっているんだろう?」


「はーい、まったくー……ユニークさもなきゃセンスもないよねー、特にそのダサコート」


「……同じことを言うのは嫌いだ」


それだけ言って静かに拳を握り締める風蒼に社茲はようやっと話を本題に移す気になったのか、おもちゃを弄る手を止めて部屋の中央奥にある小さな玉座へと飛び乗る


「さてさて、じゃあ改めて……けーたくん、ぼくと取引しなーい?」





「ああもう! 霧が邪魔で見えないわ!」


馬を走らせ、麓の森にまで突入した一行、しかし直後に漂ってきた濃霧によって探索を大いに制限させられることとなった。

夜の森であることも加えて、最早足元さえまともに見れるかも怪しい


「魔力も濃くて探知が捗らん……! 明らかに人為的だ、奴らは間違いなくこの付近に居る!」


そのおかげで確実に敵の足跡を掴むことはできたものの、頼りのレネニアの探知魔法が使えない今、拳太の救出は絶望的といっても過言ではない、加えて言うならば空を覆い尽くさんとした鬱蒼としたこの森の濃霧では、今度は自分たちが遭難しかねない

そのため足踏みせざるを得ず、完全に五里霧中だった。


「むぅ……? アニエス、何をやっているんだい?」


幸助が口元に手をやって解決策を模索している中、アニエスはすぐさま馬車から降りて四つん這いになってあたりの地面を見回している


「ここは山辺なのです、それも魔脈付近の強力な、それなら天気も不安定なので、数時間前に雨が降っていても可笑しくないのです、それが無かっても、これだけの濃霧なら水分も多く含んでいるはずなのです、だから……」


「……そうか! 水を吸ってぬかるんだ地面ならあいつらの足跡なり使った乗り物の形跡が残る訳か!」


そこまでアニエスの言葉を聞いたレベッカが閃いたように手を叩く、その言葉に合意を示すようにアニエスは微笑むと、再び地面と向き合い始めた。


「なるほど……しかしよく思いついたね」


「私はケンタさんと会うまでナーリン様とずっと旅をしていましたから……こういった旅の知識はお手の物です」


普段はシスターとしての能力が出ていただけに意外な、しかし培った時間分だけの当然の能力を駆使して、アニエスは茂みの奥まで探し、ついに地面に刻まれた不自然な直線を探り当てる


「あ! これです! あったのです!」


「私や勇者では旅の期間が短いし、何よりその間も魔法だよりだったからな……この歳になって学ぶことがあるとは……」


感心したように腕を組んでレネニアが頷く最中、アニエスの導きによって牛歩の様にゆっくりとではあるが、一同は拳太の元へと進んでいく





「投降しろ……だと?」


「うん、ぼくらが用があるのは君だけで、ぶっちゃけ後の人たちは死のーが生きよーがどーでもいーんだよねー、君さえ言うことを聞いてくれるなら」


「オレ達がセルビアに何されたか、知らねー訳じゃねーんだろ? あいつは王家の一人だ。はみ出しもんじゃないんだぜ? 信用できねーな」


話にならない、と拳太が首を振るとそれまで一貫して笑顔だった社茲の表情に一筋の冷や汗と困惑が含まれる、どうやらそのことについては社茲自身も予想外の出来事だったらしい


「うーん、彼女はなんてゆーか、自由過ぎるってゆーか……ぼくらもここまで事態をややこしくするつもりはなかったんだし……ねー?」


「あのことがアイツの勝手だったとしても、もうオレたちに和解なんて無理だ、そもそも捕まってオレが生きていられるとは思えねーしな」


「じゃあ、戦うの? 相手は一つの国なんだよー? 間違いなく君たちは全滅するし、無関係の人もどれだけ巻き込むだろーねー」


何気なく、それこそ当たり前の、決して避けられぬ事実を社茲は淡々と述べる

しかし今まで敢えて目を向けてこなかっただけに、その言葉は拳太の心中に深く突き刺さり、言葉を詰まらせる


「ッ……そ、それは」


「それに、よしんば勝てたとしてー……その後どーするの? 君たちが追われなくなるまで戦うってことなら、王様倒すまでやるんだろーけど、負けたヒルブ王国は間違いなくガタガタになって治安は悪化してー、他国にも攻め込まれてー、数も途方もないほどの人が死んじゃうと思うよー?」


社茲は例えの体で話していたが、仮にそこまで戦わなかったとしても、勇者との戦闘に対する被害、今までお世話になったことのある人々にも迷惑がかかるのは当然だろう


「おまけにけーたくんのお仲間にはヒルブ王国出身の人もいるんでしょ? 被害に遭わなかったとしても、自分の国が滅びて、家族友人が死んだりなんてしたらどう思うだろーねー?」


「………………」


「まぁ、いい返事を期待するよー」


何も言えなくなった拳太を見て話は終わったと判断したのか、社茲は再び手元にある玩具を弄り始める、その様子から最早拳太に興味をなくしたようだ。


「終わったなら来い、部屋に案内してやる」


タイミングを見計らって部屋に入ってきた風蒼に連れられて、拳太は俯いたままに部屋を後にした。

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