part2 ソリッグ
投稿が遅れて大変申し訳ありません
今回は素直にスランプに陥ってました……
「ありがとう! ソリッグくんのお陰ですっかり良くなったよ!」
「いや、君のためならこれぐらい安いものだよ――バニィ」
僕がバニエットの記憶を消して数日、風邪もすっかり良くなり、薬による後遺症も見られず、とりあえずは一安心といった状態になっていた。
あの日、僕は彼女の記憶から『遠藤拳太』という名の付く全てを奪った。
それ以来、今度は僕自身が拳太とやらの代わりとなるべく、彼女の知っている拳太の行動をあたかも僕が行ったように話し、時折改竄も加えながら記憶の辻褄を合わせ続けていく
「でも、本当にソリッグくんには助けられてばっかりだよ……恩返し、何時かちゃんとしたいんだけどなぁ……」
「ハハハ……」
……罪悪感が無いわけじゃない、彼女の思い出がどれだけ大切なものだったのかはよく知っているし、それ故に僕の行いが弁解のしようもない罪であることは認識している
――だが、仕方ない、そう、これは仕方のない事なのだ。
いくら彼女が他の誰かに強い想いを抱いていたとしても、それが自らの恋心を諦めなければいけない理由には成りえないはずだ。
それに、数多くの問題を抱える人間である遠藤拳太には種族からして違う獣人のバニエットを決して幸せにすることなどできはしない
そう遠くない将来、悲劇的な最後を迎えてしまうだろう
「あなたがそこに居てくれれば、僕は幸せですよ」
「……えへへ、私も!」
そう、この日の輪の花のような笑顔を守れるのは僕だけ、ならば僕こそが彼女の側に居るのが相応しい
それに、拳太本人も彼女を突き放したからこそ、今の状況がある、ともすれば、僕の行いにもある程度の正当性は付くだろう
彼も彼女を手放したくないのなら、もっと執念を抱くべきだ。
そもそも、そんな最低限の想いさえないくせに、隙間すらない想いを彼女に捧げられること自体がおこがましい
「――ううッ!」
そう考えていると、突然彼女の様子がなんの前触れもなく急変した。
「ど、どうしました!? バニィ!」
「……ち、違う、違う……本当は、あれ? 誰なの? 分からないよ…………!!」
自分に問いかける言葉を発すると、頭を抱えて何かに怯えるように震え始め、その場に蹲ってしまう
――不味いッ!! これは薬の効力が薄れている!?
「大丈夫です! 僕がここにいます! ここにいますよ!」
「う、はぁ……はぁ……」
何とか言葉を投げかけて彼女を落ち着かせる、未だ苦悶の表情を浮かべているものの、試みは成功したようで、症状は収まっていった。
「……何だろう、私には、何か……大切な人が、いたはず……」
しかしおかしい、彼女の記憶消去には彼女が所持していた拳太の私物を使用し、完璧に仕上げたはず……それとも、『魔術』を打ち破る程に彼女の想いは強いと、そういうことなのだろうか
「……拳太、遠藤……ッ!」
ああ、なんてことだ! ここに来てなお邪魔をされるなんて……しかし、魔術の重ねがけをしようにも、もう拳太の私物などない、効力が弱まり、何より解除の切っ掛けにでもなられたらたまったものでは無いので一度に全て使い切ってしまったのだ。
「……いっそ、血肉を直接採取するか?」
邪魔者の始末ついでに、記憶消去を完全なものにしてしまえば、もう僕と彼女を遮るものは何もない、相手も国際手配の指名犯、何も問題はない
「……? ソリッグくん、どうしたの?」
「いや、考え事をしていただけだよ」
「そう? 私に出来ることなら何でもするから、どうしても辛かったら話してね!」
「……うん、ありがとう」
再び笑顔を見せる彼女を見て、僕は決意する
今度こそ……今度こそバニエットを手に入れる! 諦めない僕には、その資格がある!
――――ある、ハズだ。