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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第十一章 新月下の刃
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第六十七話 敗走

今回で第十一章終了です

「ふっ――!」


風蒼がとった行動は実に単純明快であった。

地を蹴り、一直線に遠藤拳太へと突っ込んで来たのである、繰り出す攻撃も左腕を振り上げるだけの、フェイントすら感じさせない愚直な一撃

だが、ただそれだけの行動でも、拳太を驚愕させるには十分すぎた。


「なっ――!?」


速い、そのたった三文字の言葉を繰り出す暇も無しに風蒼の拳が拳太の腹部へと深くめり込む


「がっ、はッ……!?」


一撃、たったの一撃、十秒にも満たない一つのやり取りで拳太は全身から嫌な音を響かせながら突風に巻き込まれた紙屑のように吹き飛んでいく

電磁装甲マグネット・コーティング』でクッションもできずに食らった一撃は容赦なく拳太の肉体に甚大なダメージを与える


「グッ!」


やがて洞窟の岩壁に背中から打ち付けられた拳太は残された運動エネルギーを衝撃へと変換し、肺の底から一つ残らず空気を血液と共に押し出していく


「あ、う、はぁっ、はぁっ」


まともな呼吸ができずに咳き込みかけた拳太だったが、咳をするだけの空気すら今の彼には残されていない、刈り取られそうになる意識を繋ぎ止めて何とか顔を上げると、そこには冷たい光を宿した目で拳太を見下ろす風蒼の姿が収まっていた。


「言ったはずだ。貴様の敗北は変わらないと」


「くっ!」


この男と戦っては自分に勝機が訪れることなどあり得ない――一度の攻防で嫌というほどそれを思い知らされた拳太は呼吸を整えるのも後回しにして無我夢中で足元から『電磁強打(マグネ・クラッシュ)』をとにかく全力で噴出、人の目では負えない速さで暗闇の奥へと離脱する


「……やはり逃げるか、だがその方が好都合だ」


だが、最早人の常識から外れた風蒼にはそれがハッキリと見えていた。

拳太が眩ました暗闇を見据え、悠々と歩を進める


「だが、俺がそれを想定していないとでも思っていたのか?」


洞窟内に自らの足音を響かせ、そこにもう一つ、生物の蠢く音を風蒼が作り出す。

コートの形を変えながら、彼の左腕は軟体動物のように変化を繰り返していた。





「チックショウ! 油断した……! 完全に侮っていた……!」


既にボロボロになった我が身を引きずりながら拳太は当てもなく洞窟内を彷徨っていく、とにかく風蒼から離れることだけを考えて拳太は重い足を引きずってフラフラと進み続ける、静かな洞窟を一人進み続ける心細さに気を引かれそうになるが、拳太は己の頭を強く殴りつけることで意識の覚醒と共に深く押さえつける


「そうだよな……あんだけ追っ払ったんだ、完全な対策取られるのも当然か……!」


今まで通りの戦い方で通用すると思い込んでいた数刻前の自分の迂闊さを呪いつつ、仲間の合流を信じて歩き続ける

そうして歩いていると彼のすぐ横、頬を何かが風切り音と共に通り抜け、硬い岩の地面に皹を入れて突き刺さる


「これは……」


掠めた頬から流れる血を気に留めもしないで飛来してきたものを観察すると、それは所々に不規則な模様をした弧を描いた盾のような小さな破片だった。


「爪? ……!」


正体に気づき、次にそれが何を意味しているのかを理解した時、拳太はすかさず道の脇へと倒れ込むようにして飛び込んだ。

直後、同じ形をした物質が拳太の立っていた位置にまで無数に飛来する、もし棒立ちしていたのなら、今頃拳太はハチの巣になっていたことだろう


「足を取ったつもりだったが……勘の良さは流石だな」


「チィ……!」


今だ相手の姿が見えない道から追跡者の声が冷酷なまでにハッキリと聞こえてくる、もう捕捉されていることに歯噛みしつつも『電磁装甲マグネット・コーティング』を展開してできるだけ距離を取ろうと壁から壁への跳躍でスピードを最大限に保ちながらジグザグに逃亡していく


「こうも無駄な悪あがきをされると面倒なものだな……まぁ、彼女のためだ、甘んじるとしよう」


そう愚痴をこぼしながら、風蒼もまたその怪力で繰り出す跳躍を持って拳太を追撃する、指が円状に真っすぐ揃えられた左腕を突き出し、再び爪の弾丸を連続に斉射していく


「近づいてもダメ、離れてもダメ、抜かりねーなクソッタレ!」


飛んでくる弾丸を腕で庇いながら罵声を飛ばし、流れ弾に足場となる壁を崩されつつも拳太は逃げ続け、風蒼は無尽蔵に爪を撃ち続ける、そうしている途中、分かれ道に突き当たるが考える間もなく近場の右へと突っ込んで行く


「フン、袋小路に自ら突っ込むとは、運がないな!」


その道の先がどうなっているかを知っている風蒼は一気に方をつけるべく、通路の前に立って再び左腕を元の形に変化させていく、やがて左腕の動きが止まったと同時、風蒼は左腕を構えて瞬間移動のような速さで飛び込む


「――何っ?」


だが、辿り着いた先には何もなかった、隠れるような物陰も無い場所での無人に、あり得るはずの無かった事態に風蒼は少なからず動揺してしまう


「随分ゆっくり来たな、お陰で助かったが」


その瞬間、声がかかるのと同時に地面の中――いや、()()()()()()()()()()()()布の下から飛び出した複数のワイヤーに絡め取られて宙へと逆さ吊りにされ、全身をくまなく拘束される


「……ぬかったか」


「単純だけど、案外気づかねーだろ?」


風蒼は声が響いた方向――()()を睨み付ける、そこには両腕に巻き付けたワイヤーを蜘蛛の巣のように張り巡らせて作った足場、編み込まれて太くなった一本の線に屈む拳太の姿があった。


「テメーがさっさとこっちに来たならやばかったけどな……消耗した体力や魔力も回復した、これでふりだしだぜ」


本当は風蒼に殴られた腹部はまだズキズキと拳太に無視できないほどの痛みを送っているのだが、相手に弱みを見せてはいけないと歯を食いしばり、口角を無理矢理に上げて笑みを装う

だが全てを見通しているように風蒼は鼻で笑う、その様子に焦りなどは一切見当たらなかった。


「声で無理をしているのが丸分かりだぞ、遠藤拳太、それに」


虚勢を張る拳太の精一杯を踏みにじるかの如く、風蒼は一つの掛け声とともに全身を力ませる、するとワイヤーは派手な破裂音を撒き散らしながら四方八方へと千切れてしまう


「俺に小細工は通用しない」


「――マジかよ」


体を一回転させて地面に降り立った風蒼は、獰猛な獣を連想させる勢いを纏って拳太に突進していく、空中でも変わらない速さで迫り来る風蒼に、拳太はもう何も成す術がなかった。

攻撃も、逃走も、策略の一切も通じず、許されない相手


「ハハッ……こりゃあ、無理だ」


風蒼の視界を占める割合が十になった時、拳太の意識はそこで潰えた――。





「くっ! 切っても潰してもキリがない!」


「このままじゃこっちがやられるわ!」


「か、回復が追い付かないのです!」


風蒼が放った独立した造魔の破片、そして倒しても倒しても蘇る間鷺を相手にレネニア達は否が応でも苦戦を強いられていた。

別段敵が強いわけではないのだが、もう既にほぼ体力を使い切っている彼らには戦線の維持だけでも精一杯だ。

そうして徐々に追い詰められていっている時に、不意に洞窟全体が揺れ始めた。


「な、何だ!?」


「ん~どうやら成功っぽいね、足止めはここまでか……」


揺れの轟音に晒される中、間鷺の呟きを聞き逃さなかったレネニアは血相が変わるような顔つきで間鷺を睨む


「ま、待て! それはどう言うことだッ!」


「聞かなくても分かるんじゃないの? ほいじゃね~」


間の抜けた別れを変えさせたと同時、彼の姿は一瞬の内に消えてなくなり


「まずい! 岩盤が落ちてくる――!!」


風蒼の放った魔物ごと、レネニア達は生き埋めにされた。





「……洞窟の入り口が塞がってる、成功したみたいだね~流石僕」


「ふざけるな、お前はむしろ今回は足を引っ張ったんだぞ」


「え? そうだったの? いやぁ~ゴミンゴミン!」


風蒼が事前に仕掛けた爆弾によって崩壊した洞窟、まだ砂煙の立ち込める中、岩で埋め尽くされている入口の前で間鷺が一方的に軽口を飛ばしながら茂みに潜めてあった荷車へと歩いていく、肩に担いだ拳太をその上に放り込むと、荷物の中にあった縄で両手、両足を縛り始めた。


「それだけでいいの? 解かれるかもよ?」


「今は時間が無い、奴らが追って来るかも知れないしな」


「またまたぁ~、ホントは早く彼女の顔が見たいくせに」


ニヤつく間鷺のことは放っておいて、風蒼は再び左腕を切り離すと、それを四足歩行の不気味な獣の姿に変貌させ、薄気味悪い魔脈を後にする


「もう少しだ……待っていてくれ、セルピー」


その呟きは、誰に拾われることもなく虚空へと消えた。

勇者の手に落ちてしまった拳太、何とか脱出の機会を探るけど、その途中で拳太は風蒼からの問いに、己の行動、その結果を知ることになる……


次章! 拳勇者伝!

『キミというヒト』


拳太……私は……

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