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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
間章5 修業開始ともう一人の反逆者
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part1 バニエット

「確か手紙にはここで合ってるハズだけど……」


ケンタ様と別れてから数日、私は村に着いてから色々質問攻めにあったり、たくさん慰められたりした後、ケンタ様との冒険を話したりする事であの人が悪人ではない事を皆に伝えた。

あんなことがあった後だから当然、皆信じてはくれなかったけどケンタ様が無闇に人を傷つけるような人じゃない事は分かってもらえた。


そして、しばらくしてからお城の兵士さんから手紙を渡され、そこにはグラウさんからこんな事が書かれていた。


『何としてでもケンタと共に居たいなら、とっておきの修業場所と師匠を用意してやる、リスクを背負うまでの想いならこの場所に向かうがよい、尤も、ワシは行くと思っているがな!』


まさにその手紙の通りで、私はその場所を覚えると居ても立ってもいられずに家を飛び出して大急ぎで向かった。


「……誰もいないなぁ」


「いんや? おるよ」

「きゃあ!?」


突然後ろから声を掛けられて私は思い切り跳ね上がって振り替える、そこには一人のお爺さんが片足で腕を組みながら立っていた。犬の耳と尻尾があるからドルーグ族だと思う


「シェシェシェ……驚かせてすまんのう、ラビィのお嬢さん」


「あ、あの……貴方がお師匠さんですか?」


その細長い髭や袖のゆったりしたいかにもな紅い民族衣装を見て、私はそう問いかけたのだが当のお爺さんは首を横に振った。


「あのグラウが推す子供じゃからそうしたいのは山々なんじゃがのう…………もう年のせいでそれはできんのじゃよ」


その返答に私は気落ちを表すようにがっくりと項垂れる、せっかく急いでここまで来たのに『できない』なんてちょっとあんまりだ。

そう思っているとお爺さんは安心させるように肩を叩くと私に朗らかな笑みを見せた。


「安心せい、ちゃあんと代わりは用意しとる……ソリッグ、出ておいで」


そのお爺さんの呼び掛けに応じて茂みから私より少し年上なドルーグ族の男の子が出てくる、お爺さんと違って彼は金属と革を合わせた鎧を着ており、まさに『戦士』と言ったような風貌だ。


「ソリッグはワシの孫であって一番弟子での、技も一通り体得しておる」


「ご紹介に預かりました、ソリッグです、宜しくお願いいたします」


ソリッグくんは私に向かって片手を肩に当てると深々とお辞儀をした。

その丁寧な対応に私も慌てて出来るだけ丁寧に頭を下げる


「ば、バニエットです! こちらこそ宜しくお願いします!」


緊張で声が大きくなってしまったが、ソリッグくんは気にした様子もなく爽やかな笑みを浮かべる、その顔がお爺さんにとてもそっくりだなあと感じる辺り、本当に彼の孫なのだろう


「バニエットさんですね、素敵な名前です」


「あ、その……ありがとうございます」


急に名前を誉められて、なんだか恥ずかしくなって、熱くなる顔を隠すように、私はもう一度頭を下げた。


「シェシェシェ……さて、本題に戻ろうかの」


お爺さんはひとしきり笑うと、私達の先にある山へと体を向けた。

私達も釣られてそこを見ると、その山は殆どが雲に覆われた奇妙な山だった。

いつかケンタ様が話してくれた『そふとくりーむ』と言うのと形が似ている


「ソリッグとバニエットちゃんには今からあの山で修業を行ってもらう、期間は今から九日間じゃ」


「へっ? たった九日……ですか?」


思ったよりもずっと短い期間に私は思わず聞き返してしまう、そんなに早く強くなれる秘訣があの山にはあるのだろうか?


「たった九日、と言ってもあくまで『ここでの話』じゃ、実際は違う」


「ええっと……どう言うことですか? 私には何がさっぱり……」


さっきから全く話が見えず、申し訳ないと思いつつも私は詳しい説明を求めるように聞き返した。するとソリッグくんが何か合点がいったかのように切り出す


「……ああ、そう言えばバニエットさんはヒルブ王国に居た期間が長かったのでしたね、この山は『時流れの山』と言って、時間の流れがこことは違うんです」


ソリッグくんの説明に、私は取りあえずは理解したので頷いておく、しかしどうしても一つ気になることがあった。


「その、どれぐらいの時間の差があるのでしょうか……?」


「……こちらの一日であの山では一年、つまり二人には九年間修業してもらう事になるのう」


「きゅ、九年!?」


途端に長くなったその期間に私はすっとんきょうな声を上げて再度跳ね上がる、九年も修業すれば私はケンタ様よりも歳上になってしまうだろう


「どうする? 嫌ならやめてもいいんじゃよ?」


意地の悪いようにお爺さんは口元の笑みを深めながら私に問いかけてくる

しかし、迷うことなんて私には無かった。これがケンタ様の隣に立つための手段であるなら、たとえ時間を犠牲にしても私はやるつもりだ。


「行きます……! 行かせて下さい!」


「うむ、よう言った! じゃあ後はソリッグに任せるぞい」


そう言い残すとお爺さんは膝を少し曲げると次の瞬間、垂直に上昇して何処かへと飛び立ってしまった。


「……それでは、着いてきて下さい、あの山の中に設備を整えた小屋があるハズです」


ソリッグくんは背負った大きな荷物を持って慣れたような足取りで山登りを開始する、私も彼に続けて登山を開始した。


ケンタ様、待っていて下さい! また会いに来ますから!

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