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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第九章 別れと復讐のラプソディー
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第五十六話 埋まる溝

今回で第九章終了です

「レネニア! まだケンタのとこに着かないの!?」


「もうすぐだ! そこを右に……!」


いつまで経っても戻ってこない拳太を不信に思ったレネニア達は雪が止んだ頃に捜索を開始した。

しばらくは何も手がかりが無かったが、つい数刻前に森の上空に閃光が発生したため、現在他のメンバーを集めて現地へと向かっている


「ケンタさん! どこですか!? 返事をして欲しいのです!」


「ケンタ殿! 聞こえてますか!」


現地付近に到着してしばらく呼び掛けを行った、しばらくそうしていると、やがて山彦の向こうから返す声が響いてくる


「おーい! ここだ! ここだぜ!」


そして姿を現した拳太、その姿を確認すると安心したように息を吐いた。


「もう! 全く、心配したので――」


アニエスが緊張感のない拳太に注意をしようと振り返った時、固まった。

そしてそれは他のメンバーも同じ事だった。


「おや……あの子、いいね」


「言っとくけどロリコン拗らしたら潰すからな、玉を」


「? 幸助に限ってそれは無いでしょ」


なぜなら、拳太の側には親しげに彼に話しかける白い制服を着た男女――勇者が居たからだ。


「「ええぇー!?」」


一致の叫びが、森の中を木霊した。
















「……つまり君たちは、味方として判断していいと言うわけか?」


「まぁ、いきなり信用しろと言うのが無理な話だね」


その後、危うくレネニア達と幸助達による争いが勃発する所だったが、拳太による懸命な説得のおかげで辛うじて全面対決は免れた。

現在もピリピリとした空気の中、話し合いが続いている

そんな中、巴が姿勢を改めて極めて真剣な様子で切り出した。


「貴方達が何を言っても私達は何も言えないわ、でもこれだけは言わせて」


巴はそう言うと姿勢を維持したまま拳太の方へと体を向ける、拳太はその迫力さえ感じる巴に多少押されつつも、自らも背筋を伸ばして巴と向き合った。

そして、彼女は唐突に両の手を合わせ、大きな乾いた音と共に


「拳太! 本当にごめんなさい!」


深く、頭を下げた。


「……はい?」


一方、拳太本人は巴の謝罪に目を白黒させていた。いや、幸助を除いた他の仲間達も同様だ。

別段彼女に何かされたわけでもないし、怨みがあるわけでもない


「どうした……? 勇者としてオレの敵をしていた事なのか?」


「それもあるけど……私、あの図書館で拳太に酷い事言った。

謝って許してもらえるとは思ってないけど……本当にごめんなさい」


バツが悪そうに顔を若干逸らす巴に、拳太は最後に会った日を必死に思い出して、その心当たりを見つける事ができた。


「……ああ、あの時か」


相槌を打ちながらその時の状況を脳裏に思い浮かべる、拳太がこの世界に来て、まだバニエットにすら出会ってなかった頃の事だ。


『あんたなんかそうやって他人を傷つけ続けて、一生一人でいればいいのよ!』


確かそんな言葉を言われたと思う、と拳太は回想する


「別に、気にすんな、テメーが心からそんな事を言う奴じゃねーって事ぐらい知ってるつもりだぜ」


しかし拳太自身、それ程気にしてはなかった。

あの時は巴の話をロクに聞いていなかった拳太にも非はあると思っているし、本人が深く反省しているなら拳太も追及するような粘着質な真似はしない


「……ありがとう、拳太」


巴は安心したように微笑むと胸に手を当てて改めて頭を下げる、その様子をみてレネニアは気を抜くように一つ溜め息を吐いた。


「……なんだか毒気を抜かれてしまったな」


レネニアに同調するように一同の肩の力が抜け、先程の一触即発の空気はなんとか霧散した。安堵するように息をついたアニエスは気になったことを巴に訪ねる


「それで、どうして貴方達は私達に?」


アニエスのその問に巴が口を開きかけた時、その言葉を待ってましたとばかりに幸助が横から入って鼻息荒くキザったらしい口調で話始める


「それは君と言う名の天使に――」

「フンッ!」


幸助が何か言い切る前に拳太の肘鉄が彼の脇に見事に入る、幸助は情けない悲鳴を上げると傍らで蹲ってしまった。


「えっ!? ケ、ケンタさんなんで今思いっきり殴ったのですか!?」


「すまん、ちょっとこいつが暴走してな……」


拳太自身、過去にその幸助の暴走のせいで公衆の面前で決闘騒ぎにさせられたのである、本人達は知る由も無いがある意味拳太がヒルブ王国に狙われる原因にもなっているので真に謝罪するべきなのは幸助の方だろう


「……ロリコンって本当だったんだ」


巴はそんな幸助を軽蔑とドン引きを含めた非常に複雑そうな顔で見た後、気を取り直してアニエスへと説明を再開する


「元々、私達は勇者になることはともかく、ヒルブ王国に対して疑問を抱いていたの、獣人の差別とか、協力しない拳太を追い立てようとしているのを見て、この国って本当に世界平和を目指しているのかなって思ったのよ」


今までの勇者らしからぬ思考力のせいか、アニエスやレベッカが珍獣にでも遭遇したような顔になり、レネニアやベルグゥも感心するように巴を見ていた。

因みに幸助に関しては全員がスルーしている上、アニエスができるだけ遠くの位置へと移動していた。


「そこで、ある時私と幸助が思い切って王族の書斎へと侵入したのよ、そしたら……」


「これが見つかった、と言うわけさ」


そこでいつの間にか復活していた幸助が片手にコピー用紙を丸めた筒を持って拳太達にへと傾けていた。恐らく書いてあった物を写したものだろう


「どれどれ……!?」


代表として受け取ったレネニアが器用に蓋を空けて中身の用紙を広げると、途端に凍りついたように固まる、気になっておずおずと覗いた面々も、表紙の字面を見ただけで同様の状態となった。


「こ、これは……あまりにも人道を踏み外している!」


叫ぶレネニアの声が、一同の心を表していた。それ程までに、その紙には破壊力を秘めていたのだ。

その紙にはこう書かれていた。


『第二次勇者召喚計画及びそれを利用した造魔大量生産計画について』

ヒルブ王国の恐るべき計画を知った私達、造魔技術の断絶の目的も兼ねて再度ヒルブ王国に行く決意をします。

まずは準備を整えようと首都に戻った私達に、再び魔族がやって来たのです!


次章! 拳勇者伝!

『魔族襲来、獣人は英雄を見るか』


ケンタさん……負けないで下さい!

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