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第五十二話 溢れだした不穏

今回で第八章終了です

「さて、そろそろ呼び出しの時間だが……」


バニエットの活躍により造魔を撃退した翌朝、拳太の無事も確認し、城の修繕作業にも一息着いた時、レネニア達は関係者の一人としてここの国の会議に参加することになっていた。


「……準備完了の伝令はまだか?」


何時まで経っても来ない伝令に気を揉みながらそれぞれがそわそわしながら待ち続けた。


「皆さん! 大変です!」


とその時、荒々しい足音を立てながら白衣を着た獣人の青年が扉を勢いよく開ける、何事かと身構える一同に、青年は喜色満面の顔で口を開いた。


「ケンタさんが目を覚ましました!」


その青年の言葉が言い終わる前に、彼らは部屋を飛び出していた。














「おう、心配かけたな」


拳太が眠っていた部屋に入ると、包帯を取った少年がバニエット達を見ている、全員はしばらく呆然としたように少年を見ていたが


「ケンタ様ーーー!!」


バニエットが感極まって拳太に飛びついたのを皮切りに他の仲間も彼の元へと集まる


「もう怪我は大丈夫なのですか!?」


「どこか痛い所とか無い? ボク、水持ってこようか?」


「いや、ちょっとダリィが、特に問題無いぜ」


自分に擦り着いてくるバニエットの頭を撫でながら拳太は腕を動かしたり肩を回して己の無事を伝える


「ふぅ……まったく、無茶は程々にしてくれよ少年」


「こちら、お手拭きでございます、どうぞ」


「すまねーなベルグゥ、つっても無茶なんてオレも程々にしたいぜ」


ベルグゥから受け取ったお手拭きで自分の体を丁寧に拭いていく、ご丁寧に人肌と同じぐらいにまで温められており、拭き終わる頃には拳太の気分はサッパリしていた。


「さて、これから私達はここを襲撃した輩について会議に行くが、少年にも参加して貰いたい……いいか?」


唐突に雰囲気を真面目な物に切り替え、いたって単調ないつもの口調で問いかけるレネニアに、拳太もまたいつもの様な不機嫌そうな尖った目で彼女を見つめると一言だけ発した。


「もちろん」















「……にしても、本当に訳が分からなかったな、今回の襲撃は」


会議を終え、凝り固まった間接を解しながら欠伸混じりでレベッカが呟く

会議に参加すると言っても拳太達が行ったのは精々昨夜何をしていたかを話すだけで後はずっと出番がなく、とても退屈なものだった。


「いや、案外そうでもないぞ」


だがレネニアは何やら難しい顔をして顎に手を当てて思案している、その様子に興味を持った拳太がレネニアに視線を向ける


「なんだ? 何か分かったのか?」


「ああ、順を追って説明しよう」


レネニアはそう言うとバニエットに顔を向け、確かめるように人差し指を立てて問いかける


「さて、ラビィの少女よ……昨夜『勇者と思わしき人物が少年の部屋へと襲撃しようとした』と言ったな?」


「はい、斧を持っていたので慌てて体当たりしたんです」


「そう、その証言から一旦は襲撃者の目的は少年と考えられたが――」


「その後の行動を考えるとおかしいってなったのですよね?」


考えながら放たれたアニエスの言葉にゆっくりと頷くとベルグゥが注釈を入れるように口を開く


「その通りです、まず一つ目は『造魔を使った』事です

もし本当にケンタ殿を狙った行動ならば制御の難しい造魔など使わず、普通に数人の同行者を連れていけばいい、けれど敵はそうしなかった」


「加えて言うなら、その造魔がケンタの姿をしていたって言うのも謎だよね……何だったんだろう?」


誰もが抱く疑問を呟くレベッカに、レネニアはしばらく考え込んだ後、推測を交えながら話していく


「恐らく少年の血や髪を媒体にした造魔だったのだろう、回収したのは……恐らく最後に交戦した勇者、ヤシロジ・ミノルだ

恐らく奴は国境付近まで私たちを監視していた」


「えっ? 監視って、特に不審な音は聞きませんでしたけど……それに、レネニアさんも警戒していたじゃないですか」


己の耳にそれなりの自信を持っているバニエットは不思議そうに首をかしげる

拳太達は自分達が勇者に追われている事は重々に承知しているため、旅の道中はバニエットの耳で常に周りに気を配っていた。レネニアが仲間に加わり、指名手配になってからはより一層の力を入れていた。


「奴の魔法の性質を考えれば、耳の察知や、私の魔力探知を掻い潜る事は不可能ではない」


そこまで言われてようやく全員は理解した。

そう、社茲穂の魔法は他の生物に糸を張って操る事だ。おまけにその糸の維持には張られている本人の魔力が使われるため、自分の痕跡を残さない


「そう考えれば、戦っていた時私達の動きに詳しかった事にも納得がいく……さて、話を戻すぞ」


レネニアが目配せすると、ベルグゥは本題の続きを語るべく再び説明を開始する


「さて、おかしな点の二つ目……これが一番不可解と言われているのですが『襲撃の混乱の最中、ケンタ殿に何の行動も起こさなかった』事です」


「もし少年の殺害、捕獲どちらにせよ一度は部屋に入ると必要がある、その時少年の部屋の前の廊下は燃えていたがその気になれば侵入方法はいくらでもあった……ここまで考えれば、やつの目的は少年ではないだろう」


レネニアがそこまで説明すると、全員が考え込んだ。誰もが答えが出ないとき、現代の知識を持っていた拳太だけが、ある事を思い付いた。


「まさか……『威力偵察』か?」


拳太の言葉にレネニアは感心するように目を細め、レベッカは驚愕の表情を現し、バニエットとアニエスは何のことやら分からずに彼らを見つめている


「ほう……少年の世界は、戦争についてもある程度の教育はするようだな」


「い、いりょくてーさつ? つまり何が目的なのですか?」


「……結論だけ言うとだね」


喉を鳴らしながらレベッカは二人に振り向く、その額には一筋の汗が流れていた。


「もうすぐ戦争が……始まるかもしれない」


それは勇者召喚が行われた日からずっと漂っていた空気

血と泥を孕んだ、死の匂いがいよいよ表面化しようとしていた。















「さあて、よく来てくれたなお客人よ!」


部屋に戻った時、拳太達は固められたように呆然とした。

今彼らの眼前に映る光景には、備え付けのテーブルの上に大量の酒が置かれ、腰かけている椅子が小さく見えるほどのライオンの偉丈夫がいた。付け加えるなら、ベルグゥよりもかなりムッキムキである、『鋼のボディ』は彼のために用意された言葉と言われれば納得できるほどだ。


しかし何より目に入るのは、彼の頭に小さく乗っかっている王冠、そして豪奢な大剣に裾に白い獣をあしらえたマントだった。その様子はまるで――


「お、王様……?」


「おおとも! ワシが『キング族』の族長であり、この国の王ッ! グラウ・ガフであるッ!」


この城全体に轟くような大声で宣言する男


「……きゅう」


その声に気絶したバニエットの倒れる音だけが辺りに響いた。


「おおッ!? どうした、体調でも悪いのかッ!?」


その様子にグラウは慌ててバニエットを起こしてひたすら揺さぶる、振り子のように危なげに揺れるバニエットの頭を見て拳太が頭を抱えて思わす叫んだ。


「先ずはその大声と揺さぶるのをやめろォォーーーー!!」


礼儀や常識を考える間も無くした少年の叫びは、王の叫びと同じぐらいには轟いた。














「いやぁー! スマンスマン! まさかラビィ族があそこまで繊細だとは思わなんだ! アッハッハッハ!!」


「痛ぇ! 叩くな! 半端なく痛い!」


その後、拳太の尽力もあってなんとかグラウを止め、その際に自分を果敢に止めにくる拳太をますます気に入ったらしいグラウは、拳太に敬語やら何やらを禁止させた後、半ば強制的に酒盛りへと発展していた。


「なんか思ってたのと違うね……」


「ヒルブ王国の王様とは大違いなのです……」


レベッカとアニエスは少し離れた場所でその様子を見ながら手に持った飲み物をあおる、アニエスに限って言えば極限まで水で薄めた濃度の低い果実酒のみなのだが


「全く……少し王様らしくできないのかグラウ、初対面の奴らがドン引きしているぞ」


空になった酒瓶を避けながらレネニアが呆れた様子でため息を吐く、グラウはしばらく怪訝そうに彼女を見ていたが、やがて思い出したように手を打った。


「ん? おお! レネニアではないか! 随分と縮んだが……とうとう老いで背が縮んだのか?」


その言葉にレネニアから血管の切れるような音が鳴る、体は人形だが、その鬼のように怒りの形相を見るととてもそうとは思えないだろう


「よし貴様、表へ出ろ叩きのめしてくれる……ベルグゥが」


「レネニア様……私に死ねと申されるか?」


ベルグゥはくたびれた労働者のように酒を飲んで二人に問題児を見る眼差しを向けている、心なしか髭も下がって気落ちしているようだ。


「まぁよいではないか! さァーて! 飲め飲め! ワハハハハハハ!!」


「うわちょやめモガモガモガ!!」


拳太の首根っこをつかんで酒を突っ込みながらグラウは豪快に笑った。














「……ん?」


すっかり酒盛りも終わり、夜も更けた頃、バニエットの意識がぼんやりと浮かんできた。


「――を――だ。頼めるか?」


薄目を開けると、そこには拳太とグラウを名乗った獣人が何やら話し込んでいる、バニエットは起きるだけの気力は無くとも、眠るほどの眠気は無かったので二人の会話を聞く事にした。


「別にいいが……本当にいいのか? 最初の仲間なのだろう?」


「ああ、それがあいつのためだ。遅いか早いかの違いだぜ」


その言葉から察するに、どうやら自分の事だと悟ったバニエットは耳をこっそり立てて二人の声を聞きやすいようにする


「うむ……まぁそれはお主らの問題だ。ワシがとやかく言うことではないが……本当に後悔は無いのか?」


「しつこいな……いいんだよ、バニィも望んだ事だ」


自分に何かしてくれるのだろうか? と考えたバニエットは一瞬喜びそうになるがグラウの渋る様子を見ていると段々と不安が募ってくる


そして、次の言葉でその予感は的中した。


「しかし、もうじき別れか……下手をすると今生の別れになるぞ」


「オレとしては、それはそれでいいんだけどな……」


二人の言葉に、彼女の頭は真っ白になった。

遂に私の故郷へとたどり着いたケンタ様たち


けれど、そこに待っていた現実は、余りにも辛い物でした。

そして、ケンタ様に襲いかかる、恐るべき相手が!


次章! 拳勇者伝!


『別れと復讐のラプソディー』


そんな……ウソですよね? ケンタ様……

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