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第四十七話 失われた産物

「はぁ……次本体に会ったら一発殴ってやる」


「おや恐い、女性は優しく扱うものだよ少年?」


馬車で走り続けている内に拳太は落ち着きを取り戻し、レネニアはまだ面白そうに口元を歪めている


「あはは……まぁ、結果的に入れたからいいじゃん」


とレベッカが締めくくったが拳太はなお恨めしそうな視線をレベッカにぶつける、からかわれた事を未だに根に持ってるのだろう

レベッカが冷や汗をかきながら愛想笑いをしていると拳太は視線を外しため息を吐いて俯いた。怒るだけ無駄だと思ったのか、それとも怒る気力さえ無くなってしまったのか


とにかく拳太から溢れる負のオーラをなんとかしようとレベッカはしどろもどろに言葉を紡いでいく


「そ、そういえば何でボクは翼を隠しただけで誤魔化せたんだろうね? 魔族って魔力が多いからそこからバレそうなんだけど」


とそこまで言ってレベッカは原因に気づいた。

それと同時にレネニアが呆れ顔をレベッカに向ける


「君の魔力は魔族の中でも断トツに低いのを忘れたか、だからこそ『見えざる騎士(インビジブル・ナイト)』を取得したのだろう?」


レネニアの言葉がレベッカの心中まで深く突き刺さる、おまけにアルッグにて出会った魔将からの言葉が蘇り、拳太と同じく膝を抱えて負のオーラを放出する物質と化してしまった。


「うん、わかってるよ……ハーフで納得される程、悲しくなる程低い事くらい……でもそんなにハッキリ言わなくてもいいじゃん……」


レベッカはブツブツと小言を呟いて床を指でいじっていた

流石に二人も撃沈させてしまうのは罪悪感があったのかレネニアの表情が気まずいものとなっている、ベルグゥは自分の主のそんな姿を見て息を突いて一言


「ご自重なさって下さい」


それ以降、レネニアは口を開かなかった。


「え、えーと……にしてもこれからどうします? これからアドルグアで活動するなら真っ先に街を見つけないと」


馬車内の妙に重くなってしまった空気を払拭するようにバニエットは


「街? それなら街道を伝って行けば着けるのではないのですか?」


「そ、そういう事じゃ無くてですね……えっと」


上手く説明できずに身振り手振りで伝えようとするバニエットだったが、アニエスはそれを悉く極端なまでに曲解して話がどんどんややこしくなっていく


「つ、つまり獣人には食人する者もいるから危険……ってことですか!?」


「違いますよ! なんでそうなっちゃうんですかもー!」


「……人間でも居ていられる街を捜す、ということではありませんかな?」


とうとう見かねたベルグゥが助け船をだす。ベルグゥの言葉にバニエットはホッとした様子を見せてアニエスは合点がいったかのように手を叩いた。


「確か、排他主義でしたね! それに影響されてない街を捜すってことなのですね!」


「はい、その通りでございます」


ようやく理解したアニエスにベルグゥは子の成長を喜ぶ親のような顔で微笑んでいる、そこにようやくダメージからある程度立ち直った拳太が口を開いた。


「けどこの国にそんなとこあんのか? 聞くと獣人は結束力が相等強いって話だぜ、どこ行っても同じようなモンなんじゃねーか?」


拳太の懸念にもベルグゥは安心させるように微笑んだまま懐から地図を取り出す。多少古びてはいるもののどうやらこの国の地図のようだ。


「ご心配なく、この国にも人間の住む街があります。そこならば我々でも活動できるでしょう」


「ふーん……で、そこにはあとどれぐらいで着くんだ?」


「ふむ、そうですね……近道をして、およそ二日といった所でしょうか」


その会話の後、拳太達は各々の時間を過ごしていった。

ちなみにレベッカは謝り倒すレネニアを存分にいじり倒す事によって復活した。















「……あん? 何だアレ、村……にしてはテントしかねーな」


しばらく馬車を走らせ、森の中の獣道へと入っていった所に拳太の視界の端に人工の光を発見した。人間と違い動物の皮で作られたテントは木の上にさえ設置されており獣人の自然への適応力の高さが伺える光景だった。


「ふむ……冒険者の野営にしては数が多いですな」


「と言うことは国の兵士? ……ボク、隠れてた方がいいかな?」


レベッカは遠慮がちに馬車から顔を出して様子を伺う、レベッカの言葉を聞いてから改めてテントの群れを見てみると、外に出ている獣人達は装備が統一されており、確かに兵士の出で立ちをしていた。


「いや、多少遠回りして通り過ぎれば問題ないだろう、幸い街への獣道は一つではない」


レネニアが地図を眺めながら呟く、拳太に地図はよく読めなかったが恐らく別の道が記されているのだろうそこを小さな指で示している


「よし、じゃあそこから迂回して――」


と拳太が言い切る前に森中に及ぶ程の地震のような轟音と振動が響き渡る、拳太の体が少し宙に浮くほどの衝撃であり、その元凶が近いことを感じさせた。


「きゃあ!?」


「うおっ!?」


と誰かが転んだのか拳太の背後に重圧が掛かって馬車から放り出される、踏みしめられて固くなった地面のため落っこちた拳太にかなりの痛みが走る


「痛ててて……」


「す、すみません! 大丈夫なのですか?」


どうやら拳太にのし掛かったのはアニエスらしく、拳太は自らの無事を伝えようと振り返った。とその時


「ふぁっ」


とアニエスが妙な声を出して拳太の顔面に温もりを伴った柔らかい感触を感じる、よく見てみるとどうやら拳太の顔を覆う物はアニエスの胸らしく、拳太は彼女の豊満な胸に顔を埋めている状態になっているようだ。


「……悪い」


「あ、いえ、平気なのです……」


二人の間に気まずいような雰囲気が漂い、互いに顔を赤らめながら離れる、拳太はそんな雰囲気を誤魔化すように服に着いた土や小石を払っていく


「……私にもほしいなぁ」


「そうかな? 走るときとか邪魔そうだけど」


その光景を見て一人の獣人の少女は己の胸をペタペタと触ってガッカリし、また魔族の少女は不思議そうにそれを見つめている


「全く……君たち、こんな時に何をしているんだ……」


「ある意味、肝が据わっておりますな」


人形の魔女は呆れ顔でそれを眺め、魔女の執事はいつも通りの表情のまま手袋を引き締める


「にしても、一体何が――」


と拳太がそこまで口にした時、全員が固まって一点を見ている事と、自分達の立っている場所にいつの間にか影ができているのに気づいてその箇所である背後を振り返った。



するとそこには直径が二メートルはありそうな眼球を備えた大木に触手を生やした様な化物が佇んでいた。



拳太は再び頭の向きを油の切れた機械のような動きで元に戻す、次に彼が取った行為はサルどころかプランクトンにさえ理解できるような至ってシンプルな物だった。


「――逃げろォォーーッ!!」


拳太の怒号と同時に眼球の化物は触手を這わせて襲いかかり、拳太は『電磁装甲マグネット・コーティング』を展開させてアニエスを素早く抱えて地を蹴って馬車に乗り込み、バニエットは脚力で、レベッカは翼に風魔法でそれぞれ馬車に乗り込む

最後にベルグゥが手綱を握ると馬は一層大きな嘶きを上げて全力疾走を始めた。


「何だあの気色悪い目ん玉!? おいバニィ、テメーの故郷にはあんなのが普通なのか!?」


「そんなわけ無いじゃないですか! あんな見たら夢に出そうな魔物いたら私とっくに引っ越してます!」


崩壊したダムの様に留めなく涙を流して首を振っている様子を見て嘘ではない様だ。

すると拳太は今度はレベッカの方に振り向くが彼が何か言う間でもなくレベッカは激しく首を振った。


「ないないないない! 魔界にもあんな不気味過ぎるやつ居たとしても秘境とか洞窟の奥とかなんかそう言う人の来ない場所にしか居ない奴だよ!」


となると背後に迫る化物は一体何なのか、拳太が答えの出ない問に頭を回していると自らの思考に没していたレネニアがぼそりと一言呟いた。


「『造魔』か……?」


レネニアの一言に耳ざとく反応した拳太達三人はそのその真意を尋ねようと声を張り上げる


「造魔? 何だそりゃ! 詳しく説明しやがれ!」

「なんなんですかアレ! どうすればいいんですか!?」

「あんな気持ち悪い物知ってんのレネニア!?」


「ええい、黙れ! 同時に喋るな!」


レネニアの一喝でひとまずは三人とも落ち着きを取り戻し、レネニアは改めるように咳払いをすると未だ這いよる化物を見ながら説明し始めた。


「造魔とはその名の通り人工的に作られた魔物だ。そもそも魔物とは通常元来の動物などがその身に魔力を貯めすぎた結果変異、進化を遂げた者達の事だ。」


だから魔物には動物と似たものが多い、と一端レネニアは言葉を区切る


「だがその魔物を何とかして制御できないかと考えた者達がいた。無論失敗したがな……しかしその過程で魔物の構造を知り、それを再現して作られたのが――」


「造魔か」


「そうだ。しかし造魔を制御出来た者など殆ど居ない、居たとしても私のように人間を辞めた『魔女』や『リッチ』、死に詳しい『死霊使い』が大半だ。

研究にも使えないし、普通は作らない、そう……あくまで研究が目的ならな」


レネニアは何かを堪えるように歯を食いしばる、その顔からは怒りが滲み出してあった。


「しかし造魔は強い、戦争や争い事にはこぞって使われた。

だが造魔を作るには残酷と表すのも生ぬるい過程を踏まねばならぬからな……私たちの様なものが死力を尽くして技術ごと滅ぼしたハズなのに……」


彼女の言葉はそれ以上は続かず、握り拳からは今にも壊れそうな関節の危うい軋みが漏れていた。


「……はぁ、やれやれとしか言いようが無いぜ……」


拳太は溜め息を吐いて馬車の鉄でできた屋根を登る、そこにはパーグに与えられたバリスタが設置してあった。


「やることが増えちまったな、『バニィの故郷に行く』、『レベッカを故郷まで届ける』、『もっかい造魔を潰す』……テメーも手伝えよ? 魔女さんよ」


「……! ああ、もちろんだ少年」


レネニアに笑いかけた拳太に、彼女もまた不敵な笑みを返すと拳太の肩に乗ってその瞳に光を灯して魔法を発動する


「私がその武器や周囲の状況を解析して最適なポイントを示す、少年はそこを撃て」


「おう、任せろ」


拳太は傍らに備えてあった鉄製の太い矢をセットすると何時でも撃てるように腰を落とす


「ボクも風魔法と『見えざる騎士(インビジブル・ナイト)』で援護するよ」


「私も周囲の音を聴きます! 何かあったらお教えしますね!」


「私はお馬さんに治療魔法をかけて走り続けられるようにするのです!」


少女達も各々がやるべきと思ったことをやるべく狭い馬車の中をあわただしく移動する、その様子を見てベルグゥは穏やかに笑い声を上げてしみじみと言った


「ホッホッホ……馬を操ることしかできぬこの老体が憎いですなぁ」


「いや、お前の操馬技術は信用している……あんな奴の攻撃に当たるなよ?」


「ふむ、そう言われてしまうと年甲斐もなく意地でもやり通したくなりますな」


ベルグゥもまたその眼に鋭い光を宿して手綱を強く握りしめる、その彼の意気込みに応えるように馬は勇ましく鳴き声を上げた。


「さーて、化物退治と洒落混むぜ!」


拳太の引き金をかける指に力が入った。

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