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part1 翠鳥幸助

「どうだい巴、花崎達の様子は?」


「うん、大分落ち着いてきた。これなら話しても大丈夫だと思うわ」


僕達は花崎達を解放したあと、すぐにでも真実を伝えたかったが彼らはそれどころでは無かった。

拳太に徹底的にその精神を打ちのめされて、ちゃんと自我があるのかさえ分からない状態だったんだ。


だから僕らが世間の目から離れられる隠れ家を用意して、しばらく看病して様子を見ていたんだけど、最近になってやっと話せるところまでは元気を取り戻したんだ。それでも酷く落ち込んだままなんだけどね


「じゃあ花崎からは僕が話しておくよ、同性同士の方が話しやすいだろうからね」


「なら私は香織さん達に話すわ、大樹君のことよろしくね」


そう言って僕らはそれぞれ男女で分けられた個室に向かって別れ、僕は花崎に当てられた個室のドアをノックしてから開く


「やあ花崎、調子はどうだい? もし良いのなら話したいことがあるのだが、いいかな?」


「……幸助か、いいぜ、なんの用だ?」


花崎は以前とは考えられない程の暗さを携えてこちらを見据える、前まではその瞳は虚空に彩られていたが今では多少の光が入る位には回復している


「そろそろ君になら話して大丈夫だと思ってね、この国の真実を」


「真実……?」


聞き返す花崎に僕は頷いてから、僕達が見た真相を話始めた。

この国が何を成そうとしているかを、真に僕らが戦うべき敵は誰なのかを

僕がこの話をし終えた時、花崎は驚愕と言うよりかは、呆然として僕を見ていた。


「そんな……じゃあ、本当にあの国は……?」


「ああ、そうだろうね……」


僕の言葉に花崎はショックを受けたような顔でこちらを見てくる

すまない花崎、でもこれが現実なんだ――。


「彼女は……」


「花崎……?」


花崎はすがるような声音で、僕に訪ねた。


「ヒルダは……ヒルダもこの事を知ってるのか……?」


「……ッ!」


それは僕にとって最も答えづらい質問だった。

彼女が花崎に好意を持っていたことぐらい僕も知っている、そして彼もその好意が何なのか知らないが満更でも無かったことを

けれど、質問されたのなら答えなければならない、それが話した僕自身の責任だ。


「断定はできないけど……彼女もこの件に関しては承認していると言うのが僕の見解だ。

彼女も王族だからね……知ってる可能性は十分にあると思うよ……」


「…………」


花崎は最早言葉さえ発せずに手足から力が抜けてただ放心していた。


流石に少し早すぎたか……? いやしかし、今の辺りのタイミングでないと恐らく彼は永遠に現実から目を背けてしまう事になる、それだけはダメだ……。


「……だ」


「え?」


僕がそう考え込んでいると花崎が何かを口走った。よく聞き取れなかった僕は花崎に少し近寄って改めて聞きの姿勢に入る


「……ウソ、だ」


「花崎?」


「ああ、そうか、きっとこれも拳太の陰謀かぁ……それなら納得だな、あはは、もう少しで騙される所だったぁ……」


「おい、花崎? 花崎、しっかりしろ!」


不味い! 最悪の事態だ! やはりもう少し様子を見るべきだった!

しかし今更後悔してももう遅い、花崎は狂ったような笑いを上げると制服に身を通した。


「大丈夫だぜ幸助……きっと拳太を倒せばお前の洗脳も解ける、何もかもが上手く行くんだ……」


「花崎! そんなことをしたって何も変わらない! これが現実なんだ! いいか!? 僕らが本当に戦うべき敵は――」


「うるさいッ! 騙された奴の分際で、偉そうな口を語るなッ!」


花崎は先程まで看病されていたとは思えない程の力で僕を突き飛ばすと、自分の荷物を取って僕が止める前に外へと飛び出してしまった。


「拳太ァ……拳太、拳太、拳太拳太拳太拳太拳太拳太拳太ァァァァァ!!」


花崎はトチ狂って拳太の名前をひたすら絶叫しながら走り去っていく


「ゲホッ、ゲホッ……ま、待て! 花崎、花崎!」


僕も息を整えながら慌てて外へと向かうと丁度一緒に巴も飛び出してきた、と言うことはつまり……


「巴! 君の所もダメだったか!」


「もって事は、貴方も……!?」


「ああ、早すぎたんだ! くそっ迂闊だった……!」


「それなら大丈夫だと言ってしまった私の方に責任があるわ、それより速く彼らを追いましょう!」


「ああ!」


巴に励まされながら、僕らは隠れ家の入口を開いて外を見た。

外には森と草原、あとは近場の花崎と拳太が戦った街にそこへ繋がる街道だけが見える


「見当たらない……逃がしたか!」


「不味いわ、あのままじゃあの四人何をするか分からないわよ!」


巴の言葉に僕は頷いた。予定より随分と速くなってしまったが、もう猶予は残されていない


「拳太に合流しよう! 確か彼は、あの少女の故郷に向かうと聞いた!」


「なら、先ずはアドルグア自然国の首都に向かいましょう、そこなら拳太の情報も集まるはず!」


僕らは大急ぎで旅支度を済ませ、隠れ家を後にする、吹き抜けた風が、僕らを急かしているようで汗が出てきた。

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