第五話 決闘申請
「よし……登録は問題ねーみたいだなっと」
翌日、朝早くから起きて身支度をした拳太は現在、ギルドへの登録を完了した所だった。
幸い、早朝から来たため登録はすぐに実行でき、拳太の事もまだ知れ渡って無いみたいだ。といっても、水晶玉に手を乗せているだけで登録は完了したため、昼に行っても問題は無かったかもしれないが
「確か……念じればステータスが出てくるって話だよな?」
拳太は自分の手元にある何の変哲も無い白いカードを見る、大きさはトランプ四枚分の長方形で、今は名前と年齢が表示されている
「よし、やってみっか……おお、なんかスゲェな」
拳太が念じて見ると、空白の部分に更に文字が浮かび上がり、レベルやスキル等が表示される
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ケンタ・エンドー 十七歳
Lv 7
スキル:『正々堂々』
『喧嘩の達人』
『雷魔法Lv1』
称号:『行動』奴隷を持つ策士
『身分』異世界人
『心情』ひねくれ者
『力量』電撃使い
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「……」
拳太はそこに書かれている内容を見て驚愕した。てっきりただ喧嘩が強いだけの小僧と表記されるものだと思っていたが、称号を見る限りこれまでの戦い方まで参考にされている……雷撃使いなど心当たりが無いものもあるが
それにしてもこの『正々堂々』とは何だろう? と拳太は内心首を傾げた。
拳太は今まで正々堂々戦ったことなんて殆ど無い、むしろイカサマ、奇襲、不意打ちは当たり前のように行っていた。
「ま、いっか」
別段害がある訳でもなさそうなので、放っておいても問題無しと判断した拳太は今日の食い扶持を稼ごうと依頼を張ってある掲示板に向かった。
「あ! 拳太! キサマ、こんな所に居たのか!」
「……もう、なんなの? この運の悪さ」
――が、今日も彼は勇者に遭遇するのだった。
「――はぁ、で何?」
「王女様に――」
「お断りだこのロリコンナルシスト野郎」
今、拳太が相手しているのは『翠鳥 幸助』、容姿はイケメン、身長は175cmより高く深緑の長髪に四角眼鏡、おかしな苗字に加えて、彼の強烈なキャラに拳太は文字通り嫌でも覚える様になった。なぜなら……
「失礼な! 僕はただこの美しき美麗にかけて幼子を守りたいだけだ。」
「真顔で言ってるところとか本気で気持ち悪りぃよ……」
そう、先程拳太が言った様に非常に傲慢な性格な上、幼女趣味と言う残念どころではないイケメンなのだ。
「はぁ、なんでこんな奴が身長デケェんだか……」
身長168cmとやや小さい体型の拳太としては羨ましい限りである
「……げっ、そういやアイツ――」
そこまで考えて拳太は嫌な予感を覚えた。たしかバニエットは幼児体型の内に入る、現在は買出しに行かせているが、もし今帰ってきて奴隷である事がバレたら――
「ケンタ様ー!」
「ん? おお! あれはなんと美しい……ん? 拳太様?」
「…………はぁーっ」
半ば予想通りになった現状から目を逸らし、この世界に来て何度目か分からぬため息を吐いた拳太はぼんやりと考えていた。
――今日の昼飯間に合うかな、と……
「これより、勇者コウスケと、不届き者ケンタの決闘を始める!」
「「「ワアアァァァァァァァァァアアア!!!」」」
「マジかよ……」
「ふふん、怖気づいているのかね?」
「ちげーよ、あきれ返ってんだよ今の状況とお前の口調に」
バニエットのことを必死で隠そうとした拳太だったが、彼女の口調やら奴隷の証の首輪やらであっさりとバレ
『キサマァーッ! そのような幼子に手を出すとはうら……許せん!』
『おーい、漏れてんぞ本音』
『こうなったら決闘を申し込む! 僕が勝ったらその子を解放してもらうぞ!』
『おーい、聞けよ、人の話』
というやり取りの後あれよあれよと騒ぎは広まり、国王に知らされ強制的にコロシアムに連行され、拳太の素性が国中にバレてしまった。
拳太は観客席中央に居る国王の顔を見る、顔がにやけている所からすると
拳太が無様に敗北する様でも見に来たのだろう
そう思うと腹が立つよりまず国王さっさと仕事しろと拳太は思う
続いて王女の顔を見る、誰かを心配している様な表情だがまさか拳太に向けられたものでは無いだろう、もしそうだとすれば、とんだお人好しである
「あの……ケンタ様」
「んだぁ? バニィ」
考えが深みにはまり始め、イラつき始めた拳太にバニエットがおずおずと話しかける
「私のせいで……ごめんなさい」
「ああ、そうだな、お前がもうちょい配慮してくれれば良かったかもな」
「あぅ……」
泣きそうな声を絞り出して耳まで垂れ下がる、拳太は構わずバニエットの頭に手を乗せる
「けどな、これ位で嫌になるなら最初っから拾ってねぇ」
「ふぇ……?」
「気にすんなって言いてぇんだよ、どうしてもってんなら、そうだな……」
拳太は暫く考える素振りを見せるとバニエットに再び視線を寄越す
「オレがピンチの時にでも助けてくれや」
「は、はい……」
「そんじゃま、行って来る」
拳太は幸助の元へ向かい歩き始める、それでもまだ不安げなバニエットを見てため息一つ吐いたあと再び口を開く
「あー、その、なんだ。その新しい白のワンピース、似合ってるぜ、結構カワイイ……ったく、調子狂うなチクショー」
拳太は自分の頭をガシガシと掻くと、今度こそ幸助の元へ向かっていった。
「か、かわいい? ……私が? ……えええぇぇぇぇ!?」
バニエットは暫く呆然としていたがやがて言葉の意味を理解すると顔を赤くして耳をパタパタと忙しなく動かしながら悶絶としていた。
「話は済んだかね?」
「ああクソ、ホントに調子狂う、まるでいい子ちゃんだった頃みてぇだ。」
「? 何を言っている?」
「なんつーか、本来の思惑とは違うけどよ……」
そこまで言って、今まで俯きがちだった拳太の顔が上げられる
その顔をなんとなく幸助はその表情を見た時、思わず少し息を呑む程に気圧され、背筋に衝撃が走った。拳太は――
「――――ますます勝ちたくなってきたね――――」
獲物を狙う竜のような鋭く、獰猛な笑みを浮かべていた。