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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第七章 その力は誰がために
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第三十九話 人間至上主義

前章のあらすじ


訪れた街で再び花崎達と相対する拳太達

予想以上に成長した花崎達に加え、体調不良も相まってかなり苦戦する拳太達だったが、機転を効かせて戦った拳太達が勝利する


そして拳太はその行為が十分に悪であると理解しながらも、彼らの心を折る拷問を行い、そのまま街を去った。


そして翠鳥幸助や望月巴が花崎達の元へとやってくる

ヒルブ王国の新たな計画の情報を持って……

「……よし、そこそこマシになったな」


花崎大樹達との死闘から二週間が経過した。

傷も癒し、疲労も良くなってきた拳太は再び電磁発生の訓練を行っていた。

一度時間を置いて熟考する余裕ができたなのか、それともただ単に体調が万全だったからなのか、実戦に使えるレベルにはなってきていた


「発生までに二秒、一度の魔法で持続時間は三秒ってところか……コントロールもまだまだ難しいが、これから改善するか」


とは言え、使えるようになったばかりなのでまだまだ魔法の荒が目立つ、疲れきった脳ではこの魔法は使えないし、発生させた磁力の一部が拳太の腕を圧迫して負荷を加えていた。あまり高出力で使用すると拳太の肉体は圧力に耐えきれずあっという間もなく血と肉のジュースへと変貌するだろう


「ケンタ様ー! 次の街で降りるそうです!」


「ああ! 分かった!」


バニエットの報告を受けて拳太は軽く荷造りをする、と言っても持っていく物など携帯式の食料と応急セットと少ないのだが


「……おっといけね、コレ使うんだった」


拳太は手近なナイフを掴むと今まで使っていなかった左の太ももについているナイフの鞘へと入れる

最近、攻撃のバリエーションを増やす目的で拳太はナイフも使い始める事にした。

ベルグゥに教えてもらった遠距離対策用のナイフ投げが殆どだが、たまに電気を纏わせて切ったりする

と言っても大抵はグローブに電流を流して殴った方が手っ取り早いので、使うのはせいぜい打撃の効かない敵だろうか


「さて、行くか」


今度の街は勇者に出くわさないといいな、と拳太はあまり期待せずに外へと出る

しかし、拳太は後に思う


――勇者の方が全然良かった。と















「…………」


「…………」


街に入って、拳太達は沈黙した。

と言っても、街が壊滅していたりだとか、いきなり大勢の兵士に囲まれるだとか、そんな緊急事態が発生している訳でもない、彼らを沈黙たらしめるのには、もっと別の理由があった。


「奴隷が多いな……ラビィ族の、フードを取るなよ」


「はい……」


「……クソッタレが」


そう、この街は獣人が多い、それもただ居るのではなく、彼らは鎖に繋がれた奴隷として街を闊歩していた。


街の人間の子供がはしゃいで駆け回り、奥さんと思わしき女性同士が楽しげに談笑して、街の男達が酒を飲んでバカ笑いしている横で、彼らは鞭で叩かれ、休みなく働かされ、道具のように売られていた。

希望と絶望の表情が隣り合わせになっているこの街は、拳太達には酷くアンバランスに映っていた。


「……ヒルブ王国ってのはここまで腐ってんのか?」


「……ボクの国でも弱い種族が虐げられる事はあるけど、流石にこれは……」


「でも、ここはまだ全然いいですよ」


顔をしかめる拳太とレベッカにバニエットは悲しげな顔で街を見ながら告げた。

その顔はやはり悲しげだったが、口元には苦笑が浮かんでいた。


「奴隷の皆さん、一応ちゃんとした服を着ていますし、顔色もいいので必要最低限の事はされてると思います。体の痣も浅いし、体のどこも欠けていないから……」


バニエットの言葉を聞いて拳太は彼女と最初に会った事を思い返した。

顔は表情さえ作れない程に憔悴しきっており、着ているのも秘所を隠すだけのボロ切れ、体の傷はここの奴隷よりも深く、後が残らなかったのが不思議な位だ。


「ここの領主は、一応は獣人に対してやれることはやっているみたいだな……それが救いか」


レネニアはヒルブ王国の獣人政策をよく知っているのか、呆れたようにため息をつき、ベルグゥの肩で足を揺らした。


「まぁ、どっちにしろオレには関係ねー話だ。こう言うのは勇者がどうにかする事だし」


拳太の言葉にバニエットが少々複雑な顔をしていたが、拳太の言わんとすることは十分に理解できたのか、何も言わなかった。


遠藤拳太は現実を見る男だ。先ず自らの身を守ることを優先し、その次に周りを自分に危険が及ばない範囲で助ける人物だ。

それに、もし拳太が勇者のような自己犠牲の慈悲を持っていたとしても、戦う事しかできない彼には、あの獣人達を救う事はできない。


獣人達の側を通り過ぎて、拳太達は宿屋へと向かう















深夜、深い眠りに入っている拳太の耳に爆音が届き、拳太は度胆を抜かれて叩き起こされた。


「――――!?」


「ケ、ケンタ様……何があったんですか?」


拳太よりはるかに聴力の高いバニエットは目を回しながらも直ぐに鎧を着込んで剣を腰に下げていた。

拳太もグローブをはめて、窓を開けて外の様子を見る

するとここからそう遠くない街の一部が炎に包まれており、剣栽の音や怒号、悲鳴が聞こえてきた。


「ケンタ!」


「荷物は纏めたのです!」


とそこで荷物を背負ったアニエスとレベッカが部屋へ入ってくる、彼女達は己の行動の結果のみを言ったが、拳太には何が言いたいのかすぐに分かった。それは今自分が取ろうとしていた行動なのだから


「今行く!」


拳太も自分で持っていた荷物を背負ってバニエットと共に外へと飛び出していく、外には烈風が吹き荒れ、平和な風景の面影などあっという間に消し飛んでいた。
















「何があった!」


一部が明るくなった街並みを走りながら拳太は息が乱れないように呼吸を整えつつ聞いた。


「盗賊の襲撃だって! この時期は魔物が活性化して街の警備が手薄になるからよく出るんだってさ!」


レベッカの言葉を裏付けるかのように、拳太達の目の前をゴブリンが躍り出る

拳太は迷う事無く電撃の拳でゴブリンの頭部を破裂させ、レベッカの『見えざる騎士(インビジブル・ナイト)』がゴブリンを切り裂く

二人の取りこぼしはバニエットの剣が彼らの首へと突き立てられた


「今、ベルグゥさん達が馬車を守っているのです!」


アニエスの言葉を聞きながら拳太は己の不幸を呪い、そしてふとは今まで訪れた村や街全てに何らかの事件に巻き込まれているのを思いだし、思わず舌打ちして叫んだ。


「チッ……なんなんだこの引きの悪さはよォー!」


そんな拳太を嘲笑うように彼らの目の前にあるものが落下してくる、落下の衝撃で砂埃が舞って拳太達へと飛んでいく、顔を庇いながらもその正体を見ようとして拳太は驚愕に目を見開いた。バニエット達も青ざめた顔でそれを見ている


それは拳太の四倍はありそうな巨体で、しかしその生物にすれば小さい部類に入る者、ファンタジーのお約束とも言える魔物――


「ドラゴン……!?」


そう、火を吹き岩をかみ砕き、大木を切り裂く爪を持った生物が、拳太達を見下ろしていた。

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