表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第六章 再戦! 成長した勇者達!
46/86

第三十七話 五十歩百歩

※今回の話は、グロはありませんが不快になるような表現が含まれています。予めご了承下さい

「見えてきた! あれに入るぞ!」


「あれ……でしょうか?」


拳太とベルグゥが走り続けた先にあった場所には、この街一番の大きなレストランがあった。拳太とはまた別の道からはバニエット、アニエス、レベッカが向かって来ており、彼女らの背後には花崎、折邑、千早の三人が追って来ていた。


「テメーら! 思いきって飛び込め!」


拳太の叫びに答えて彼女達は側にある窓ガラスを突き破って中へと入り、拳太達もすぐ側のガラスを叩き壊して中へと入った。















「くっ……拳太の奴等、どこに隠れた……?」


拳太達を追い、正面の扉から普通に入った花崎達はいつでも奇襲に対応できるようにそれぞれ別の方向を警戒しながら四人で固まっている

花崎は大剣を正面に構え折邑は槍を右手に持ち、千早は弓を左側へと向けて湖南は背後に小型の氷槍を五本、宙に浮かせている


「どこだ? どこから来る……?」


いつどこから襲ってくるか分からないという緊張に彼らの額には一様に汗を浮かべ、互いの息づかいも聞こえる程に神経を集中させている

そんな時間が数秒か一分か過ぎた頃、唐突に椅子、テーブル、カウンター等から白い霧が噴出し、花崎達の視界を覆い尽くしてしまう


「く、来るッ!?」


「どこや! どこに居るん!?」


「ひっ……!」


「お前ら、落ち着け!」


突然の出来事にパニックを起こしかけたが、花崎の一喝により一応は冷静さを保つ一同


「こうやって俺達の神経を削るのが拳太の狙いなのか……?」


「だ、だったら今すぐ外に出ましょう!」


「いや、そこを狙って攻撃してくるかもしれへん!」


「ふ、二人とも落ち着いて下さい……」


ああでもない、こうでもないと疑心暗鬼に陥って花崎達は拳太を追撃するどころでは無くなってしまった。


だから、気づけなかったのかもしれない


彼らの足元に伸びていた針金から火花が飛び散り風船の割れる様な乾いた音が聞こえて




――――花崎達の視界が真っ白に染まり、感覚が消え失せた。















もはや衝撃と化した巨大な爆音が拳太達を襲い、まるでドラゴンのブレスのようにレストランの窓という窓から火が吹き出されていく


「うおっ! 予想以上だな……イテテ、傷が……」


「……すごい」


片手に針金を握った拳太が高圧で不安定な電流を発生させ、導火線のように針金の火花が徐々にレストランへと伸ばされた方面へ向かって行き、それが到達したと同時に起こった現象だ。


「ほう、魔力も使わずあれだけの爆発を起こせるとは……少年、あれは何だ?」


興味深そうに尋ねるレネニアに拳太は土煙をはたきながら答える


「粉塵爆発だ。空気中に大量に散った塵の一部に火をつける事によって連鎖的に発火作用を起こして、結果的に塵の舞う空間が爆発する現象だ。

確か鉱山とかの爆発事故もそれが原因だったと思うぜ」


そう、先程拳太が起こした現象は粉塵爆発である


まず先にレストランへ入ったバニエット達が粉塵爆発を引き起こすための粉――小麦粉を小さな一纏めに分けて様々な場所に置く、拳太がバニエットにメニューにパンが無いか聞いたのは小麦粉の有無を確かめるためである


次にレベッカが『見えざる騎士(インビジブル・ナイト)』の風を維持する要領で小型の『風の拳(エア・パンチ)』を発動前の風の塊のまま置いた小麦粉の下にセットする


そして後からやって来た拳太が適当な場所に針金を伸ばして固定し、後は花崎達がやって来た時に『風の拳(エア・パンチ)』を発動して小麦粉を満遍なく撒き散らしたらあとは拳太が針金に電流を流して火花を散らすだけである


完全な不意を突いた形で爆破したため、少なくともかなりのダメージを与えられただろう、とは言え花崎達は曲がりなりにも勇者である、油断はできない


「う、うぅ……」


とそこでレストランだった建物の残骸から呻き声が漏れる、そちらに視線をやるとあちこちに軽度の火傷を負いながらも軽傷で済んでいる花崎達が転がっていた。

よく彼らの体を見ると殆どが吹き飛んでいるものの土の破片が付着しており、誰がこれをしたのかは一目瞭然だった。


「あの一瞬でよくやるな……」


花崎の反応のよさと根性を素直に賞賛した拳太は手近にあった紐や石材をかき集めて花崎達を縛り、重しを乗せていく


「だからこそ、今ここでどうにかしなきゃならねぇ」


「殺すのか?」


端的に答えたレネニアにアニエスが肩を震わせ、バニエットが不安げに拳太を見つめる、レベッカも険しい顔つきとなっており、ベルグゥは何も言わずいつもの落ち着いたような態度を取っている


「いや、まだ殺りはしねーさ……ただ、今から胸糞悪い事はするがな」


「そうか」


拳太の答えは予想していたのか、レネニアは驚くことも取り乱すことも無く淡々と返した。


「バニィ達を連れてってくれるか? あんま見せたくねーんだ」


「分かった。ベルグゥ、頼んでいいか?」


「承知致しました」


「……ボクも手伝うよ」


ベルグゥとレベッカに押され、バニエットとアニエスはその場を離れつつも最後まで拳太から目を背けようとはしなかった。

それを拳太は、寂しいような悲しいような目付きで見送っていた。表情こそ無にできたが、眼は誤魔化しきれて無かった。

その眼の理由は、バニエット達への罪悪感か、自分への嫌悪感か、それは本人にもよく分からなかった。


「……オレも、あの王女を笑えねーな……」


花崎達の武装を奪い、身体の自由を奪い、拳太は『パフォーマンス』の準備をする


「悪く思うなよ、次は死なないとは限らねーんだからよ」


勇者達の心を折るための『パフォーマンス』を、かつて拳太達が目の前で見せつけられたような、最悪のショーを


「つくづく、ロクな人間じゃねーな、オレって……」















「ぐ……」


次に花崎が目を覚ましたのは、体に倦怠感と妙な重みを自覚した時だった。

下がった頭に映る視界は黒色に染まっており焦げ臭い匂いが嗅覚を刺激する


「な、何が……どうなったんだっけ……?」


花崎はぼんやりした思考で現在に至るまでの過程を振り返る

拳太と出くわし、追い詰めたと思うとレストランの中で何かが弾けて、そして――


「そ、そうだ! 皆は!?」


花崎は急いで頭を上げて周囲を見渡す、彼の探した仲間の姿は直ぐに見つかった。瓦礫の下敷きになって体の一部が埋まっているものの、目立った傷は無さそうだ。


「よ、よかった……」


心の底から安堵し、ゆっくりと息を吐いたところで折邑達を助けようと身体を起こそうとして


「……俺も動けないようだな」


自分の身体も自由が利かない事を自覚し、どうにか瓦礫を退かそうと身体をよじるが、そこでふとあることに気づく


「何だ、コレ、固定されてる?」


首と手首ががっちりと固定器具に捕まっており、その器具も大きな釘で地面に縫い付けられているため体を起こせないのだ。よく見ると、他の仲間も同じようになっている


「お? 存外早く目覚めたんだな、流石は勇者ってところか」


そして、彼の耳に天敵の声が届く


「拳太ッ!」


花崎が視線を上げた先には、遠藤拳太が嫌な笑みを浮かべながら花崎を見下ろしている

拳太は仰々しく肩を竦めると軽く足を一タップした。

するとそこから青白い閃光が蛇のようにのたうちながら折邑達三人の元へと向かい、痛みと共に強制的に覚醒させられる


「あァ!?」


「キャア!?」


「うあッ!?」


短い悲鳴を上げて彼女達は目を力一杯見開く、花崎はその光景で一瞬で頭に血が上って拳太を睨み付ける


「拳太ァ! お前!」


「そう怒鳴んなよ喧しいな、早起きした褒美としてテメーには勘弁してやったんだから感謝して欲しいぜ」


「ふざけるなッ!」


噛みつく花崎にも拳太は余裕を持って受け答えする、その態度が花崎をますますヒートアップさせるが、拳太はそれを楽しそうに眺めていた。

まるで楽しみにしていたショートケーキの苺をこれから頬張る子供のように


「ふーん……テメー今の自分の立場分かってる? 今のテメーはオレにへーこら頭下げてんのがお似合いなんだよ」


「誰がお前なんかに!」


「あっそう、じゃあこれ見ても同じ事が言えるか?」


そう言うと拳太は折邑の元へと向かい、躊躇うこと無くその頭を踏みつけた。


「ぐゥ!?」


「拳太! その足をどけろ!」


「どけろ? まだ状況を理解していねーみたいだな……」


拳太はぐりぐりと踵を折邑の脳天に押し付ける、その度に彼女は苦しそうな声を上げた。


「わ、分かった! 分かったから!」


「……まぁ今はそれでいいか、一気にやるのもツマラナイからな」


拳太は足を退け、折邑の頭を自由にする、すると途端に折邑は咳き込んだ。土が口のなかに入ったのだろう


「げほっ! げほっ!」


「くっ……!」


千早はそれを手から血が滴る程に握り締めて拳太を射殺す程に目を鋭くし、眉間の皺を地割れのように深く刻み込む


「にしても……無様な姿だなぁオイ、倒す倒すって騒いどいて結局負けてんだから」


「何が言いたい……!」


花崎のその言葉を待っていたとばかりに拳太は口を裂くように開くと、一つの提案を出す。


「なぁ、もう勇者達(テメーら)、素直に完全敗北を認めて尻尾巻いて逃げたらどうだ?」


それは明らかに馬鹿にしたような口調で


「別に、オレだって積極的に殺しをしてぇ訳じゃねーんだ。テメーらが何もしねーなら、オレ達も関わらねーよ」


まるで鬱陶しい格下を相手する口調で拳太は話す


「ふ……ふざけるなァ! 誰がお前のような悪にッ!」


当然、花崎はそれを認められずに怒鳴りつける、拳太はその答えは十分予測していたのか特に表情に変化は無かった。


「その悪にボコボコにされたのは誰だ? 因みに言っとくと、今のオレは精々四割程の実力しか出せない状態だったんだぜ?」


その何でもないように告げた言葉が花崎達の心中に突き刺さる

当然だろう、自分達は全力を尽くし、事前の準備を整えて勝負に望んだと言うのに相手は全力を出さず、即席の策で自分達を打ち負かしたのだ。


「俺は……いや、俺達はお前には屈しない! 何があってもだ!」


花崎のそれでも放たれた威勢に拳太は一瞬失望したような顔をして固まる、だが次にはため息を吐いて空を仰いだ。


「はぁ~……言っちゃったなテメー、強情なのは知ってたが、まさかここまで馬鹿だとは思わなかったぜ……」


「なんだと!」


「最初に言っておく」


拳太は事務的に、冷たい言葉で彼らを見下す、その姿に花崎達は圧倒される


「何があってもって言ったのはテメーらの方だ。だから恨むなら馬鹿な自分達か、そもそも召喚なんてしたヒルブ王国を恨むんだな」


「何を――」


頭で理解するより早く、拳太が今度は折邑の左手に足を置く

直後、水っぽい音と共に折邑の左手の薬指の皮が弾けとんだ。


「あ、があァァあ!?」


「香織!」


「ハハッ、これで結婚指輪は着けれねーな」


拳太は軽く笑って折邑を見下している、花崎はその様子を見て歯が砕けそうな程に食いしばった。


「拳太ァァ……!」


「おいおい、これはまだまだ序の口だぜ?」


次に拳太は湖南の方へと足を向ける、湖南はそれを見て体を震わせ、両目から涙を溢して必死にもがくが拘束具からは逃れられない


「ククク……電気ってのは便利だよなぁ?」


拳太はまるで友人に話しかけるような気軽さで口を開く


「さっきのように皮膚の水分と反応させて吹き飛ばしたり、それを応用して顔の皮を剥がして電熱で焼いたり……きっと十人中十人が吐き気を催す醜女の出来上がりだぜ?」


拳太の言葉を聞き、湖南の顔色はますます青ざめていく、駄々っ子のように首を振っても拳太は足を止めない


「いや、いやぁ……!」


「あと、そうだな……髪は女の命って言うからそこを吹き飛ばすのも面白そうだ。セットでやるのもいいかもしれない、アイデアは尽きねぇなぁ?」


「いやァァァァアアア!!」


ついに恐怖に耐えきれなくなってひたすら湖南は金切り声をあげる


「たすけて、助けて、助けてぇ!」


「そんでもって、最後はゴブリンやオーク辺りに強姦させて、生きたまま魔物に食われるか一生魔物の性奴隷ってのがいいかもなぁ?」


「拳太、やめえや! それが人のすることかいな!」


千早の喉を潰す程の怒声すら今の拳太には心地いいのか、表情を歪めたままに恐怖を紡ぐ


「やめろ……? テメーら勇者はオレが同じ状況で同じ事を言っても聞き入れ無かったぜ? それで自分の時になったら虫のいい事を言う、実に勇者とは思えねー口振りだなァ、オイ!」


「同じ状況……? あんたは何を言ってるのよ!」


折邑の問いに拳太は律儀に答えるように彼女の方へと体を向ける


「バニィと戦ったテメーなら分かるんじゃねーか? オレ達に何があったのかをよォ」


「だから……あんたは何を言ってるのって聞いてるの!」


凝り固まった思考であるが故に察する事のできない折邑に拳太は呆れた顔で告げる


「はぁー、だったら教えてやる、バニィの顔に傷を残しやがったのはあのクソ王女だぜ」


当たり前の常識を喋るような拳太に、花崎達は呆然とする、だが折邑はすぐに拳太に食ってかかった。


「嘘よ! あれはあんたがやったんでしょ! 嫌がるあの子を無理矢理殴り付けて!」


「そんなに嫌いだったらわざわざここまで連れてねーっての! オレはテメーらと違って余計な荷物抱えてる余裕なんかねーんだからよ! 違うか? 違わねーだろ、この傀儡野郎ども!」


「くぅ……!」


折邑は拳太の言葉を全く信じていなかったが、反論できる材料が無いのか押し黙る

そして彼らに決定的な証拠を突きつけるために拳太は懐からかなり厚い布に包まれた一つの魔石を取り出す。


「ところでこれ、なんだと思う?」


「……蓄音石?」


千早が答えた通り、拳太が間接的に持っていた魔石は『蓄音石』と呼ばれる代物だった。

性能は至ってシンプルで、魔力を通すと通した魔力に合わせた時間分録音を行うボイスレコーダーのようなものだ。

録音後は再び魔力を通す事でその音を何度でも流せるものらしい


「なんでもベルグゥが元冒険者の嗜みとして懐に幾つか持ってたらしいが、これが偶然バニィがメッタ打ちにされる様を録音してるらしいぜ、正直オレとしては胸糞悪いとしか言えなかった物だったんだが……人生どこで何が役立つか分からんモンだな」


拳太は布越しに魔力を通す、すると蓄音石は妖しく光って音を発し始めた。


『あが……!』


最初に聞こえたのは鈍い音と、短く響く悲鳴


『バニエットちゃん!』


『あはは、まだまだいくよ!』


幼いシスターの叫びの直後に再び響く、鈍い音、それが何度も何度も響く


『ひいぃ! うあ、ああああああ!!』


その悲痛な声は、間違いなく花崎達の見たラビィ族の少女の声で


『やめろ……クソォォーー!』


その悔しそうな声は、間違いなく遠藤拳太のものだった。


だが、その音もすぐに消えた。


見ると、拳太が顔を険しくして荒い息づかいのまま蓄音石を粉々に握り砕いていた。

たくさんの汗をかいて何かを耐えているようだった。


「……これでわかっただろ、セルビア・ヒルブは悲劇のヒロインなんかじゃなくて、オレにとっちゃあ死んで当然のクソ野郎なんだよ!!」


拳太の怒りの籠った叫びに花崎達は一様に顔を青くしている、茫然自失、その言葉にぴったりと当てはまるくらいに彼らは硬直していた。


「……嘘だ」


やがて花崎が、自分に言い聞かせるかのように呟いた。


「絶対嘘だッ! これもお前が俺達を惑わすために小細工したに決まっている!」


「そ、そうよ! それに、あんたがあの子になにもしてない証拠にはならないじゃない!」


「拳太、うちらを馬鹿にするのもええ加減にせえよ!」


「こ、この……人でなし…………!!」


拳太は、心の底からうんざりと、もはや失望の気持ちも勿体ないとばかりに、彼らに電流を流した。


「ぐああああ!!」


「そうか、そこまで言うんならさっきの続きだ」


拳太は再び湖南の元へと向かうと、その髪を乱暴に掴んだ。


「どっちにするか迷ったが、もうやめだ。どっちもやることにした」


「え……? ど、どっちもって……まさかっ!?」


湖南はその言葉の意味を理解したのか頭を振って拳太の手を振りほどこうとする

だが、それは彼女の頭皮の痛覚を刺激するだけで無意味な行動となった。


「や、やめてくれ拳太……! 有子に、それだけは……!」


「ハッ、王女サマの様子見て突っかかって来たんだろ? だったらああなる事ぐらい覚悟しとけ」


「拳太ァァァァ!!」


千早が拘束具が派手な音を立てる程に抵抗する、が拘束具はそんな事で壊れる程に柔ではない


「……さて、最終通告だ。どうする? 仲間のために悪に屈する情けない勇者になるか? それとも世界のためなら仲間を切り捨てる残酷な人間になるか?」


これが、拳太が用意した花崎の心を折るための拷問、花崎はどちらを選んでも今までの自分を曲げる事となり、真面目な彼はそれを受け流す事ができないはずだ。


「……わかり、ました。俺達は、あなたに完膚なきまでに負けました! だからどうか見逃して下さい!」


花崎は、選んだ。勇者としての、正義としての自分を放棄した。


仲間達はそれを、唖然とした表情で見つめていた。


「……クククク、アーハッハッハ!」


拳太は満足げに大笑いを上げて花崎を見下している


「なるほど、テメーは自分達のためなら世界なんて知ったこっちゃねーと……そういう事なんだな?」


「あ、当たり前だろ!? そもそも、ここは俺達の世界じゃないんだし……」


「あ、そこまで言っちまうんだ。へぇー……」


拳太は何か意味深な笑顔を浮かべると、花崎を崩壊させる一言を放つ


「らしいぜ? 王女サマよ」


「え?」


拳太の視線の先、恐る恐る花崎も拳太の視線の先を辿ると、そこには光を放つ白っぽい石――通信状態の通信石が転がっていた。


『そん、な……』


通信石から、力が抜けたような声が花崎の鼓膜を大きく揺さぶる


『大樹様……信じていたのに……』


「いや、違う、待ってくれ」


『大樹様は私達の味方だと、思っていたのに……』


「違う違う、違うんだ」


「違わねーよ」


必死に言い募る花崎の想いを、拳太は残酷に遮る


「コイツは自分達が大事なんだよ、まぁ仕方ねーよなぁ? テメーらヒルブ王国だって自分達の都合ばっかなんだ」


拳太は放つ、彼らに致命傷を与える最悪の一言を


「結局はテメーら全員、(オレ)と同類なんだよ!」


「うぅ、うわぁぁああああ!!」


花崎の悲鳴が、街中に響き渡った。


「……ああ、そうそう」


拳太は忘れ物をしたことを思い出したかのように言った。


「聞いた証人が一人だけじゃ誤魔化すかもしれねーだろ? だから今までのテメーの言動はキッチリ街中の住民に聞いてもらえるように、ここら辺で観客をしてもらってるぜ、自称正義の味方なら、せめて自分の言葉には責任を負わないとなぁ?」


拳太はそれだけ言い残すと、花崎達を一瞥もしないで立ち去った。


今の彼らには、何もする気力が無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ